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■ 定説を疑え!「当期純利益は株主に帰属する利益」という言説の正当性を問う!

経営管理会計トピック

日本経済新聞 朝刊で2016/10/14~10/25、全8回連載で、「ROE重視と企業価値創造」について小樽商科大学手島直樹准教授による解説記事が掲載されました。2014年8月に公表された「伊藤レポート」の衝撃から、株主還元100%を宣言する会社が登場する等、ROEが経営者や一般投資家を巻き込んで激しい論争や株式市場での思惑を生み出し、ROEに対する興味関心はまだ衰えることがないようです。筆者は、もう少し落ち着いた論調で(実は内心では冷ややかに)ROEについて、手島准教授の文章を解説しながらコメントを付していきたいと思います。

2016/10/18付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(3) 当期純利益は目的でなく結果 小樽商科大学准教授 手島直樹

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「損益計算書上の利益指標には、売上総利益、営業利益、経常利益、そして当期純利益があります。自己資本利益率(ROE)の分子となるのは当期純利益ですが、その理由は株主に帰属する利益だからです。当期純利益は債権者や政府など株主以外のステークホルダーへの支払いを考慮しています。つまり、金利及び税金を差し引いた利益であるため、株主に帰属する利益と言えるのです。」

ここでも簡単な制度会計ルールにおける誤認が存在します。「株主に帰属する利益」の定義とは一体なんでしょうか? 仮に、日本基準でB/S上の「株主資本」の増減に影響するという意味では、「当期純利益」で構いません。なぜなら、日本の会計基準では、純資産の部は、下表の日産自動車の事例のように表記されているからです。

⇒「株主資本等変動計算書を斬る

●日本基準
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_日産自動車
●米国基準
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_トヨタ自動車
●IFRS
会計(基礎編)_株主資本等変動計算書_JT

しかし、米国SEC基準を採用するトヨタ自動車と、IFRSを採用するJTでは、「その他の包括利益累計額」を含んで株主資本(または親会社の所有者に帰属する持分)と呼称しています。なお、日本基準の「純資産」の定義は、厳密には「負債と呼べないもの」という意味ですので、実質的に、3つの会計基準ともに、会計期間(決算期)を区切った企業業績をP/L(+包括利益計算書)で測定した場合、株主に帰属する利益とは、当期純利益ではなく、包括利益であるとする方が適切でしょう。

 

■ 定説を疑え!「利益は意見でキャッシュは事実」という言説の妥当性を問う!

「当期純利益はROEの分子である以上、その改善に不可欠な要素ですが、実は問題もあります。まずはノイズ(一過性の要因)を含むことです。特に特別損益が当期純利益に大きく影響することがあります。
 例えば、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の影響で持ち合い解消が進展していますが、含み益を抱えた持ち合い株式を売却すると特別利益として当期純利益を高めることになります。しかし、こうした利益は恒常的に生み出されるものではありません。こうしたノイズが当期純利益を通じてROEにも影響することになります。また、特別損益の項目が当期純利益の目標達成のために「調整弁」として利用されることも考えられます。」

こういう文脈で語られると、P/Lのより上段にある「売上総利益」や「営業利益」は作為的な操作が不可能で、真に企業業績を表示する段階利益たり得ますが、P/Lの下に位置する「当期純利益」は会計的操作により、真に企業業績を表す指標足りえないと読めてしまいます。

「ノイズ」という表現は、「売上高純利益率」という指標には当てはまります。なぜなら、当期純利益には、「営業外収入」「特別利益」といった、売上高とは別の加算項目が算入されてしまうので、割り算比率としては算数的意味をなさない、という意味では真理だからです。営業外収入の為替差益や、非事業関連資産の売却益などは、「ノイズ」として、企業業績改善の努力に入れないとするならば、ファイナンスリテラシーを活用し、①為替ヘッジなどを駆使して企業価値を高めようとする、②過去に獲得した余資を非事業関連資産で運用する、といったことは、すべて企業価値を上げるためには無意味なものであると断罪することになります。

「2つ目の問題は、損益計算書上の利益指標のすべてに共通する問題ですが、経営の短期主義を助長する恐れがあることです。研究開発や広告宣伝など将来に向けた投資は費用として利益を減少させるため、利益目標の達成が優先されると、投資の削減や先送りが行われることになりかねません。短期的には利益が改善されますが、長期的には競争優位性を維持することが困難になり、収益性が悪化する恐れがあります。」

こういう文脈で語られると、「所詮、利益は意見でどうにでも表示を操作することができる。真に企業業績を表すことができるのは、ファクトであるキャッシュである」と、2000年初頭に一世を風靡したキャッシュフロー経営のキャッチフレーズを思い出さずにはいられません。残念ながら、「利益は操作可能でかつ短期主義を助長させる財務指標である」という定説は力強く否定させて頂きます。

まず、単年度のフロー情報(会計的利益やキャッシュフロー)を、その場限りの業績評価指標に用いれば、利益だろうがキャッシュフローだろうが、目先の先行投資を先送りにする動機を誘発することにおいては全く同じです。例えば、古くなった生産設備の更新投資を考えます。だましだまし1億円/年の修繕費で使い続ければ、利益にもキャッシュフローにも等しく1億円/年のマイナス要因で済みます。一方で、50億円の更新投資を勇断し、税法(法定耐用年数)を無視して10年で償却することにすれば、利益には、5億円/年だけのマイナス要素で済みますが、更新投資の初年度は、50億円まるまるキャッシュフローにはマイナスとなってしまいます。

筆者が仮に事業部長で、この更新投資の意思決定権者であるならば、自身の事業部長の任期が3~5年と見込み、自組織の利益またはキャッシュフローで自身の業績評価がなされると知っていたら、むしろ、会計的利益で評価されていた方が、この更新投資に踏み切る決断により近くなるのは間違いありません。

 

■ 定説を疑え!「本業から得られる営業利益指標を重視すべし」という言説の適切性を問う!

「ではどうすればよいのでしょうか。当期純利益を目的ではなく、結果として捉えることです。具体的に言えば、一定水準の投資を実施したうえで、営業外損益や特別損益の影響を受けない本業の利益指標である営業利益の拡大を目標とするのです。この目標が達成できれば、結果として当期純利益もキャッシュフローも拡大することになります。企業は本業を強化することによりキャッシュフロー改善を伴う質の高い利益の拡大を目指すべきなのです。」

ここでは2つの指摘を行います。

(1)「営業利益が「本業」からの利益である」の「本業」にどこまで意味があるのか?
営業利益という段階利益が示すのは、製造業の場合、「設計して、仕入れて、作って、売って、代金を回収した」という正常営業循環における採算を意味しています。たしかに、この正常営業循環は、表面的なその企業のビジネスモデルの運転の巧拙を表しているのは間違いありません。しかし、そもそもその製品の設計の基礎となる基本技術の開発にかける時間と資金はどこから出てくるのでしょうか?

その原資は、例えば外部調達(借入金や増資など)だったり、内部留保(非事業関連資産の売却益で実現=換金)だったりします。また外部調達でも担保がないと、融資がそもそも実行されないことも多々あります。

逆に、正常営業循環におけるビジネスモデルが失敗し、巨額の減損損失を計上した場合は? そのまま売上原価や販管費に計上されれば、正常営業循環内の損失としてカウントされますが会計処理の実態はどうでしょう? もうこの時代、「本業」利益という言葉に踊らされることはばかばかしいと早く気付くべきです。

■ 定説を疑え!「ROEはKGIである」という思い込みの危うさを問う!

(2)当期純利益はKGI足りえるのか?
まずは、KPI経営のベーシックから復習します。

① 企業業績の中長期的なゴール・目標をKGI(Key goal indicator)として設定する
② KGI達成のために、最も効果的な方法をCSF(Critical success factor:重要成功要因)として設定する
③ CSFの目標達成のための進捗や効果の程度を測定するために、KPI(Key performance indicator)を設定する

下図は、筆者ならではの、CSFとKPIの相関図になります。

経営管理会計トピック_KPIの定義とCSFとの関係

百歩譲って、ともすれば、結果指標(KGI)であるべきはずのROEや当期純利益がまず操作可能な、そしてモニタリング指標(KPI)として取り扱われる間違った「KPI経営」の現場への適用で混乱が起きないように、という指摘は了解できます。しかし、「営業利益」ならば、CSFの目標達成水準や効果算定に有効なKPIと言えるのでしょうか? 残念ながら、営業利益は、正常営業循環におけるバリューチェーン全体がうまく運転されたら、結果として算出される会計的利益のひとつに過ぎないのです。

また、営業利益の拡大がひいてはキャッシュフローの拡大につながる、という定説も強く信じられていますが、これも厳密には間違いです。連結決算ベースで考えた場合、高いROS(売上高営業利益率)を示している企業を高額の買収資金(もちろん支配権プレミアムの分だけ高値掴みになる)で買ってくるだけで、自社の営業利益、時には、ROSまで大きく改善します。しかし、現金で買収したら直接的に、株式交換でも株価下落に伴う資金調達力の低減から間接的に、自社から巨額のキャッシュアウトが発生してしまいます。つまり、営業利益をキャッシュで買うのです。それが、欧米企業の高収益率、ひいては高ROEの真因のひとつといっても過言ではありません。

最後に、これが一番言いたいのですが、KPIではなくKGIとして、「当期純利益」や「ROE」の最大化が適切なのでしょうか。ドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造であり、それを実現するにはイノベーションの絶え間ない実践である」とおっしゃいました。そして、社会に価値を提供できる(顧客に支持される)企業であれば、結果として利益は後からついてくると。

筆者からすれば、どんな段階利益の定義による利益であっても、すべて、顧客ためにより付加価値の高い商材を提供し、自社が社会に存在し続ける意味を保有するための、先行投資の原資のひとつにすぎないのですが、、、

本稿の結論:
ROEや当期純利益はおろか、営業利益やキャッシュフローまでを含む財務指標は全て、その企業が最終目的とするKGIとしても相応しくない。利益やキャッシュフローは、その企業が社会に存在を許され得る価値を提供し続けることができる活動(努力)の原資であること以外の意味はない

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(3)当期純利益は目的でなく結果 小樽商科大学准教授 手島直樹 - KPI経営の基本とは KPI・CSF・KGIの関係からhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭とことんROECritical success factor,CSF,IFRS,KGI,KPI経営,ROE,のれん,キャッシュフロー,ショートターミズム,企業価値創造,伊藤レポート,包括利益,手島直樹,正常営業循環,短期主義,自己資本利益率,重要成功要因■ 定説を疑え!「当期純利益は株主に帰属する利益」という言説の正当性を問う! 日本経済新聞 朝刊で2016/10/14~10/25、全8回連載で、「ROE重視と企業価値創造」について小樽商科大学手島直樹准教授による解説記事が掲載されました。2014年8月に公表された「伊藤レポート」の衝撃から、株主還元100%を宣言する会社が登場する等、ROEが経営者や一般投資家を巻き込んで激しい論争や株式市場での思惑を生み出し、ROEに対する興味関心はまだ衰えることがないようです。筆者は、もう少し落ち着いた論調で(実は内心では冷ややかに)ROEについて、手島准教授の文章を解説しながらコメントを付していきたいと思います。 2016/10/18付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(3) 当期純利益は目的でなく結果 小樽商科大学准教授 手島直樹 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「損益計算書上の利益指標には、売上総利益、営業利益、経常利益、そして当期純利益があります。自己資本利益率(ROE)の分子となるのは当期純利益ですが、その理由は株主に帰属する利益だからです。当期純利益は債権者や政府など株主以外のステークホルダーへの支払いを考慮しています。つまり、金利及び税金を差し引いた利益であるため、株主に帰属する利益と言えるのです。」 ここでも簡単な制度会計ルールにおける誤認が存在します。「株主に帰属する利益」の定義とは一体なんでしょうか? 仮に、日本基準でB/S上の「株主資本」の増減に影響するという意味では、「当期純利益」で構いません。なぜなら、日本の会計基準では、純資産の部は、下表の日産自動車の事例のように表記されているからです。 ⇒「株主資本等変動計算書を斬る」 ●日本基準 ●米国基準 ●IFRS しかし、米国SEC基準を採用するトヨタ自動車と、IFRSを採用するJTでは、「その他の包括利益累計額」を含んで株主資本(または親会社の所有者に帰属する持分)と呼称しています。なお、日本基準の「純資産」の定義は、厳密には「負債と呼べないもの」という意味ですので、実質的に、3つの会計基準ともに、会計期間(決算期)を区切った企業業績をP/L(+包括利益計算書)で測定した場合、株主に帰属する利益とは、当期純利益ではなく、包括利益であるとする方が適切でしょう。   ■ 定説を疑え!「利益は意見でキャッシュは事実」という言説の妥当性を問う! 「当期純利益はROEの分子である以上、その改善に不可欠な要素ですが、実は問題もあります。まずはノイズ(一過性の要因)を含むことです。特に特別損益が当期純利益に大きく影響することがあります。  例えば、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の影響で持ち合い解消が進展していますが、含み益を抱えた持ち合い株式を売却すると特別利益として当期純利益を高めることになります。しかし、こうした利益は恒常的に生み出されるものではありません。こうしたノイズが当期純利益を通じてROEにも影響することになります。また、特別損益の項目が当期純利益の目標達成のために「調整弁」として利用されることも考えられます。」 こういう文脈で語られると、P/Lのより上段にある「売上総利益」や「営業利益」は作為的な操作が不可能で、真に企業業績を表示する段階利益たり得ますが、P/Lの下に位置する「当期純利益」は会計的操作により、真に企業業績を表す指標足りえないと読めてしまいます。 「ノイズ」という表現は、「売上高純利益率」という指標には当てはまります。なぜなら、当期純利益には、「営業外収入」「特別利益」といった、売上高とは別の加算項目が算入されてしまうので、割り算比率としては算数的意味をなさない、という意味では真理だからです。営業外収入の為替差益や、非事業関連資産の売却益などは、「ノイズ」として、企業業績改善の努力に入れないとするならば、ファイナンスリテラシーを活用し、①為替ヘッジなどを駆使して企業価値を高めようとする、②過去に獲得した余資を非事業関連資産で運用する、といったことは、すべて企業価値を上げるためには無意味なものであると断罪することになります。 「2つ目の問題は、損益計算書上の利益指標のすべてに共通する問題ですが、経営の短期主義を助長する恐れがあることです。研究開発や広告宣伝など将来に向けた投資は費用として利益を減少させるため、利益目標の達成が優先されると、投資の削減や先送りが行われることになりかねません。短期的には利益が改善されますが、長期的には競争優位性を維持することが困難になり、収益性が悪化する恐れがあります。」 こういう文脈で語られると、「所詮、利益は意見でどうにでも表示を操作することができる。真に企業業績を表すことができるのは、ファクトであるキャッシュである」と、2000年初頭に一世を風靡したキャッシュフロー経営のキャッチフレーズを思い出さずにはいられません。残念ながら、「利益は操作可能でかつ短期主義を助長させる財務指標である」という定説は力強く否定させて頂きます。 まず、単年度のフロー情報(会計的利益やキャッシュフロー)を、その場限りの業績評価指標に用いれば、利益だろうがキャッシュフローだろうが、目先の先行投資を先送りにする動機を誘発することにおいては全く同じです。例えば、古くなった生産設備の更新投資を考えます。だましだまし1億円/年の修繕費で使い続ければ、利益にもキャッシュフローにも等しく1億円/年のマイナス要因で済みます。一方で、50億円の更新投資を勇断し、税法(法定耐用年数)を無視して10年で償却することにすれば、利益には、5億円/年だけのマイナス要素で済みますが、更新投資の初年度は、50億円まるまるキャッシュフローにはマイナスとなってしまいます。 筆者が仮に事業部長で、この更新投資の意思決定権者であるならば、自身の事業部長の任期が3~5年と見込み、自組織の利益またはキャッシュフローで自身の業績評価がなされると知っていたら、むしろ、会計的利益で評価されていた方が、この更新投資に踏み切る決断により近くなるのは間違いありません。   ■ 定説を疑え!「本業から得られる営業利益指標を重視すべし」という言説の適切性を問う! 「ではどうすればよいのでしょうか。当期純利益を目的ではなく、結果として捉えることです。具体的に言えば、一定水準の投資を実施したうえで、営業外損益や特別損益の影響を受けない本業の利益指標である営業利益の拡大を目標とするのです。この目標が達成できれば、結果として当期純利益もキャッシュフローも拡大することになります。企業は本業を強化することによりキャッシュフロー改善を伴う質の高い利益の拡大を目指すべきなのです。」 ここでは2つの指摘を行います。 (1)「営業利益が「本業」からの利益である」の「本業」にどこまで意味があるのか? 営業利益という段階利益が示すのは、製造業の場合、「設計して、仕入れて、作って、売って、代金を回収した」という正常営業循環における採算を意味しています。たしかに、この正常営業循環は、表面的なその企業のビジネスモデルの運転の巧拙を表しているのは間違いありません。しかし、そもそもその製品の設計の基礎となる基本技術の開発にかける時間と資金はどこから出てくるのでしょうか? その原資は、例えば外部調達(借入金や増資など)だったり、内部留保(非事業関連資産の売却益で実現=換金)だったりします。また外部調達でも担保がないと、融資がそもそも実行されないことも多々あります。 逆に、正常営業循環におけるビジネスモデルが失敗し、巨額の減損損失を計上した場合は? そのまま売上原価や販管費に計上されれば、正常営業循環内の損失としてカウントされますが会計処理の実態はどうでしょう? もうこの時代、「本業」利益という言葉に踊らされることはばかばかしいと早く気付くべきです。 ■ 定説を疑え!「ROEはKGIである」という思い込みの危うさを問う! (2)当期純利益はKGI足りえるのか? まずは、KPI経営のベーシックから復習します。 ① 企業業績の中長期的なゴール・目標をKGI(Key goal indicator)として設定する ② KGI達成のために、最も効果的な方法をCSF(Critical success factor:重要成功要因)として設定する ③ CSFの目標達成のための進捗や効果の程度を測定するために、KPI(Key performance indicator)を設定する 下図は、筆者ならではの、CSFとKPIの相関図になります。 百歩譲って、ともすれば、結果指標(KGI)であるべきはずのROEや当期純利益がまず操作可能な、そしてモニタリング指標(KPI)として取り扱われる間違った「KPI経営」の現場への適用で混乱が起きないように、という指摘は了解できます。しかし、「営業利益」ならば、CSFの目標達成水準や効果算定に有効なKPIと言えるのでしょうか? 残念ながら、営業利益は、正常営業循環におけるバリューチェーン全体がうまく運転されたら、結果として算出される会計的利益のひとつに過ぎないのです。 また、営業利益の拡大がひいてはキャッシュフローの拡大につながる、という定説も強く信じられていますが、これも厳密には間違いです。連結決算ベースで考えた場合、高いROS(売上高営業利益率)を示している企業を高額の買収資金(もちろん支配権プレミアムの分だけ高値掴みになる)で買ってくるだけで、自社の営業利益、時には、ROSまで大きく改善します。しかし、現金で買収したら直接的に、株式交換でも株価下落に伴う資金調達力の低減から間接的に、自社から巨額のキャッシュアウトが発生してしまいます。つまり、営業利益をキャッシュで買うのです。それが、欧米企業の高収益率、ひいては高ROEの真因のひとつといっても過言ではありません。 最後に、これが一番言いたいのですが、KPIではなくKGIとして、「当期純利益」や「ROE」の最大化が適切なのでしょうか。ドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造であり、それを実現するにはイノベーションの絶え間ない実践である」とおっしゃいました。そして、社会に価値を提供できる(顧客に支持される)企業であれば、結果として利益は後からついてくると。 筆者からすれば、どんな段階利益の定義による利益であっても、すべて、顧客ためにより付加価値の高い商材を提供し、自社が社会に存在し続ける意味を保有するための、先行投資の原資のひとつにすぎないのですが、、、 本稿の結論: ROEや当期純利益はおろか、営業利益やキャッシュフローまでを含む財務指標は全て、その企業が最終目的とするKGIとしても相応しくない。利益やキャッシュフローは、その企業が社会に存在を許され得る価値を提供し続けることができる活動(努力)の原資であること以外の意味はない (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します