キャッシュフロー分析(1)日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」

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■ 知らない間に格付けやレイティング情報が独り歩きする恐ろしさ

古くて新しい!? キャッシュフローライフサイクルによる企業の格付け(rating)記事を目にしたもので、財務分析オタクとしては居ても立ってもいられず、コメントを付さざるを得ないのです。(^^;)

2018/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」 「成長期」は米・アジアに後れ

「日本企業が「高齢化」に歯止めをかけている。現金の使い方や調達の動向を示すキャッシュフロー(現金収支、CF)で各社の成熟度合いを分析したところ、主要企業の平均年齢は44.4歳だった。5年前と比べた加齢幅は0.1歳、10年前比でも0.4歳の上昇にとどまった。30歳代の「成長期」に相当する企業の数は米国やアジアに見劣りするが、本業の収益力の向上や事業の再構築、成長投資の拡大という3つの施策によって老いに打ち勝とうとする日本企業が増えてきた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「日本企業は「成熟期」に集中」を引用)

20180204_日本企業は「成熟期」に集中_日本経済新聞朝刊

新聞記事では、今回の年齢に例えた企業格付けを、次のような実施要領であると説明しています。

「日経500種平均株価を構成する主要企業(金融・不動産を除く)のうち過去と比較できる395社を調べた。直近3年間の営業活動、投資活動、財務活動の3つのCFをもとに統計的な手法で各社を年齢づけした。」

さらに、直近3年間のCFと、10年前(10~12年前の3年間平均)間の数字比較により、企業年齢だけでなく「若返り」を果たした企業については、その若返りの秘密と共に一覧表も掲載されております。

(下記は同記事添付の「主な「若返り」企業」を引用)

20180204_主な「若返り」企業_日本経済新聞朝刊

若返りの要因に挙げられた項目はすべて、直近の対象会社の事業内容そのものを要約したに過ぎません。これが要因で会社年齢が何歳です! と言われて、勝手格付けされた企業側の経理・財務担当者は本当に平気なのでしょうか。不思議なことです。(^^;)

 

■ 次々と出てくる解説文に感じる薄ら寒さとは

新聞記事では、日米欧亜の各地域別に企業年齢を次のように分析しています。

「海外の主要企業の平均年齢は米国が44.4歳、欧州が44.2歳で日本とほぼ同水準だった。アジアは平均年齢が42.0歳と主要地域の中で最も若かったが、10年前と比べると年齢は1.6歳上がった。アジアでは企業の成熟化が進んでいることがうかがえる。」

また、日本企業のエイジングについては、成熟期に集中していることを指摘しています。

「日本は42~54歳の成熟期の企業が全体の8割を占めている。米国やアジアと比べても成熟期への集中度が高い。半面、30~42歳の成長期の企業の比率は低い。資金の使い方が各社ともほぼ横並びになっていることが背景にある。」

確かに、この横棒グラフから、日本企業は成熟期クラス企業に集中していることが分かります。しかし、このクラスに入るには、後から種明かしをしますが、フリーキャッシュフロー(FCF)がプラスになっていることが条件となっており、そもそも、FCFがプラスの状態が企業経営としては正常であるはずなので、このクラスにカテゴライズされている企業が多いこと自体が産業界全体の問題であるとは完全には言い切れないのです。

企業の参入退出の回転率が高い方が市場が活性化されるという側面も確かにあるのですが、リスクを負わない経営という意味で、早期にベンチャーが既成の大企業に身売りするもあり、また、現下ではマイナス金利で余剰資金が日本企業に押しなべて滞留しているなど、ミクロ・マクロの経済状態との関連性も今少し分析に加えたいところではあります。

 

■ そろそろ種明かしを。キャッシュフロー状況とキャッシュフローライフサイクルとは?

冒頭の新聞記事には補足記事が次のようについており、元になったキャッシュフローの基本的考え方については解説が試みられているのですが、キャッシュフローライフサイクルについては、言葉の紹介までで、内容にまで踏み込んだ説明については最後まで言及がありませんでした。

2018/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 3種類の収支、バランス着目 成熟度で5段階

「CFは(1)本業で現金を稼ぐ力を示す営業CF(2)設備投資や企業買収などの状況を示す投資CF(3)借入金や株主還元の動向を示す財務CF――の3つがある。3つのCFのバランスに着目し企業の成熟度合いを分析した。」

会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3分類の取引内容

(1)営業CF
税引前利益+減価償却費+受取利息に運転資金(売上債権、在庫、買入債務)の増減を加味したもの。

(2)投資CF
ビジネスのための有形無形の固定資産の取得・売却と、長期の金融商品の取得・売却

(3)財務CF
資金調達活動として、借入金の新規借入か返済、株主資本の調達か株主還元(自己株取得、現金配当)

この3種類のCFのプラス・マイナスとその増減から、企業年齢を推し量るのだとか。

⇒「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場
⇒「キャッシュフロー計算書を斬る

キャッシュフローライフサイクル理論については、格付けのレイティング情報がまず語られています。

「米ミシシッピ大学のディキンソン教授の2011年の論文「キャッシュフローのパターンによる企業のライフサイクル」を参考に企業のライフサイクルを「創生期」(18歳以上30歳未満)「成長期」(30歳以上42歳未満)「成熟期」(42歳以上54歳未満)「淘汰期」(54歳以上66歳未満)「衰退期」(66歳以上78歳未満)の5つに分類。回帰分析で各社を年齢づけした。若返りの幅は直近3年平均と10~12年前の3年平均を比較した。」

その識別方法がやや曖昧におまけ程度で付記されています。
(以下、記事を整理して要約)

・「創生期」「成長期」
営業CFの金額に比べ投資CFのマイナス幅が大きい企業を将来の飛躍に向け身をかがめる段階にあるとみなす

・「成熟期」
高年齢の企業は投資CFのマイナス幅に比べて財務CFのマイナス幅が大きい傾向がある
これらの企業は投資を抑制しつつ借入金返済や株主還元に力を入れるから

・「淘汰期」「衰退期」
不要な設備を売却したりして投資CFがプラスに転じる

これでは、ディキンソン教授によるせっかくのキャッシュフローライフサイクル理論が台無し(読者にとって消化不良)になると思い、次章で他サイトの記事を引用して理解のための説明を試みたいと思います。

 

■ 3種のキャッシュフローポジションから、企業の成長の到達点を推し量る

創業間もないベンチャーは、収益やキャッシュインの見込みも立たず、エンジェル投資家などからの資金援助に頼って、資金繰りを行います。これはFCFがマイナスで財務CFがプラスの状態から企業が立ち上がるとする理論を裏付ける常識です。
(常識は打ち破られるためにあるのですが、ここでは大勢に従っておきます)

成長途上にある企業は、営業CFが大いにプラスになっているものの、それを上回る事業投資が必要な場合、FCFがマイナスになり、財務CFによる資金調達で資金不足を補てんします。

成熟期に入った企業は、これまで資金援助をしてもらっていた投資家や金融機関に資金を返済しはじめるので、財務CFが大いにマイナスになります。

衰退期に陥った企業は、何とか資金繰りを維持するため、手持ちの固定資産を切り売りして現金に換金して、様々な支払いに充てるようになります。それゆえ、投資CFがプラスになり、投資家・金融機関との資金の出し入れ状況次第では、財務CFが大きくプラスになったりマイナスになったります。

この時点で財務CFがプラスになるのは、投資家たちがまだこの企業を助けたいから。Too big to fail なだけということもあり得ますが。(^^;) 逆に、財務CFが大きくマイナスになっている場合は、投資家・金融機関が資金を引き揚げていることを意味します。こうして、ひとつの企業が終焉を迎えることになるのです。

上記のように、3種類のキャッシュフローの増減やプラス・マイナスのポジションで企業のライフサイクルを表現しようとしたものが「キャッシュフローライフサイクル理論」です。

20180212_キャッシュフローライフサイクル
● 出典: キャッシュフローの正負で成熟企業を選別し投資する|DIAMOND Online
(著:吉野貴晶(大和証券キャピタル・マーケッツ投資戦略部チーフクオンツアナリスト))

一見して分かりやすいフレームワークのように見受けられるのですが、これ本体がいまいち流行せずに、キャッシュフロー分析の主流になり得なかったのは、「淘汰期」に3パターン、「衰退期」に2パターン存在し、分析ユーザにとってその判別と使い分けが難しかったからです。

それゆえ、この理論の基礎理論部分を拝借したシンプルな「キャッシュフローマトリックス」などが世に受け入れられ、論者によってさまざまな方言で語られるようになっています。

この「キャッシュフロー分析」の連載では、「キャッシュフローライフサイクル理論」を見直し、「キャッシュフローマトリクス」などの作り方・見方を復習し、できるだけ各企業の実例の数字を見て、ビジネス分析まで試みたいと考えています。

次回以降も、この新聞記事と連携があった、電子版の方に掲載のあったランキング表から分析対象会社を抽出したいと考えています。ご興味のある方は、こちらの電子版のランキング表も事前に目を通しておいてください。

マーケット > 企業業績・財務 > 銘柄レーダー
2018/2/3付 |日本経済新聞|電子版 稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」

⇒「キャッシュフロー分析(2)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」  – 営業CF、投資CF、財務CFの2時点間増減比較で本当に企業年齢が分かるのか?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)キャッシュフロー分析(1)日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」 日本経済新聞2018年2月4日

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