キャッシュフロー分析(5)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 ー キャッシュフローマトリクスで高齢とされた企業の年齢を推測できるか?

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■ キャッシュフローライフサイクル理論をキャッシュフローマトリクスで検証する!

キャッシュフローライフサイクルによる企業の格付け(rating)記事にコメントをつけていく第5弾。今回は、営業CFと投資CFの収支バランス、すなわちフリーキャッシュフロー(FCF)のポジションで企業年齢を推し量る方法、「キャッシュフローマトリクス」で、下記記事の「高齢企業」ランキングを正しく評価できるのかを検証したいと思います。

マーケット > 企業業績・財務 > 銘柄レーダー
2018/2/3付 |日本経済新聞|電子版 稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」

この記事では、米ミシシッピ大学のディキンソン教授による「キャッシュフローライフサイクル理論」に基づく企業年齢のレイティングから、

① 10年前に比べ若返った企業
②「若い」企業
③「高齢」の企業

という視点でそれぞれ50社のランキング表が公開されています。

20180212_キャッシュフローライフサイクル
● 出典: キャッシュフローの正負で成熟企業を選別し投資する|DIAMOND Online
(著:吉野貴晶(大和証券キャピタル・マーケッツ投資戦略部チーフクオンツアナリスト))

そこで、フリーキャッシュフローのポジションから企業成長サイクルのどのポジションにいるかを明らかにすると言われている「キャッシュフローマトリクス」というフレームワークで、これらランキング掲載企業のキャッシュポジションを、貼られたレッテル通りなのかを確認したいと考えています。

 

■ そもそもフリーキャッシュフローとは?

(この章は前々回の再掲です)
キャッシュフロー計算書は、大別すると、以下のような三部構成になっています。

(1)営業CF
税引前利益+減価償却費+受取利息に運転資金(売上債権、在庫、買入債務)の増減を加味したもの。

(2)投資CF
ビジネスのための有形無形の固定資産の取得・売却と、長期の金融商品の取得・売却

(3)財務CF
資金調達活動として、借入金の新規借入か返済、株主資本の調達か株主還元(自己株取得、現金配当)

リアルビジネスにおける収益からキャッシュインフローとなるものが営業CFで、そのビジネスを支える事業投資のためのキャッシュアウトフローが含まれるところが投資CFです。有識者によって定義がいろいろとあるのですが、一番シンプルなフリーキャッシュフロー(FCF)の定義は、

FCF = 営業CF + 投資CF

FCFがプラスということは、
① 営業CF > 投資CF
・ビジネスリターンが投資を上回っている → ビジネスはマネタイズの意味で順調
②投資CFがプラス
・所有する固定資産等を手元の換金性のある資産売却 → リストラ中

FCFがマイナスということは、
①営業CF < 投資CF
・ビジネスリターンが投資を下回っている → 先行投資が過大か資金回収が遅延している
②営業CFがマイナス
・そもそも事業が軌道に乗っていないか、創業したてほやほや → 事業育成中

そして、FCF自体のプラスマイナスにしたがって、資金調達をメインミッションとしている財務担当者の財務戦略の腕の見せ所が財務CFということになります。FCFのマイナスを財務CFのプラス、すなわち社外からの資金調達で埋めるか、FCFのプラスを、債権者や株主にリターン(元利金・現金配当の支払い、自己株買いなど)として余資を返すかを適時に判断するのです。

経営管理会計トピック_キャッシュフロー経営

(参考)
⇒「キャッシュフロー経営(3)カネ余り 日本企業を解く(2)危機の記憶、守りを優先 負債で還元 潮目変化も - ペッキングオーダー理論による財務戦略まで見てみよう!

 

■ キャッシュフローマトリクスとは?

(この章は前々回の再掲です)
前章でご説明したFCFを構成する営業CFと投資CFのプラスマイナスの組み合わせから、4つのキャッシュポジションを可視化したものが「キャッシュフローマトリクス」になります。

財務分析(入門編)キャッシュフローマトリクス

(1)創生期:
企業または事業が誕生したばかり。投資CFばかりではなく、営業CFもまだプラスではない

(2)投資期:
営業CFがプラスになり事業は順調に成長しているものの、先行投資負担がまだ大きい

(3)安定期:
FCFがプラスになり、事業のマネタイズに成功。ただし、まだ事業投資の手を緩めることはできない

(4)停滞期:
FCFがプラスであることはいい材料だが、投資CFがプラスに転じたことで、事業再投資の手を緩めて本当にいいのか、それとも別領域・別次元の将来投資のための腰だめなのかの見極めが必要

(5)低迷期:
FCFはまだかろうじてプラスだが、事業リターン(営業CF)がマイナスで、手持ちの事業用資産や待機金融資産を売却して現金収入に充てている状態

(6)後退期:
FCFはいよいよマイナスに転じ、事業リターン(営業CF)がマイナス状態のまま、手持ちの事業用資産や待機金融資産を売却して現金収入に充てている状態

(7)破綻期:
いよいよ、FCFがマイナスのゾーンに入り、経営破綻リスクが視野に入ってきたところ。もしくは、事業再構成中で、手元にある資金(または調達資金)を用いて旺盛な先行事業投資にかけている時期であるかの見極めが必要

以上、FCFおよびそれを構成する営業CFと投資CFのプラスマイナスのキャッシュポジションから企業または事業のライフサイクルを説明するのが「キャッシュフローマトリクス」になります。

 

■ 「高齢の企業」にランキングされた企業に対する総評を確認する

すでに、この分析手法には大前提があることを最初に了解して頂く必要があります。

① 企業のライフサイクルは、FCFのキャッシュポジションで表現される
② ライフサイクルは、「創生期」から「破綻期」までシリアル(連続性)を持つ
③ 高齢ということは、このキャッシュフローマトリクスにおけるポジショニングが、投資CFがプラスになる「停滞期」以降のステージにあることからわかる

これらを念頭に置いて、まずは手始めに、冒頭でご紹介した「高齢の企業」の上位5社を、このキャッシュフローマトリクスにマッピングしてその10年の軌跡を観察してみましょう。

同記事掲載のランクング表は以下の通り。

20180203_高齢の企業_日本経済新聞電子版

同記事のコメントは次の通り。

「「高齢」のトップは60.3歳の大平洋金属。ニッケル市況の悪化で収益力が落ち込んだことが影響した。稼ぐ力の強さで知られるキーエンスが僅差で2番になった。投資CFがプラスになった決算期があったためだ。投資CFは有価証券など資産売却でプラスになることがある。プラスの企業は「淘汰期」や「衰退期」とみなされる。高成長企業として知られるカカクコムは稼ぐ力に比べて投資が少なく、52.5歳の評価。高齢とされた企業は収益力改善や投資拡大による若返りの余地が大きいともいえる。」

 

■ 「高齢の企業」にキャッシュフローマトリクスを当ててみると?

それでは、各社のキャッシュフロー推移を目視で確認していきましょう。

1.大平洋金属

20180301_キャッシュフロー時系列分析_数表_大平洋金属20180301_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_大平洋金属20180301_キャッシュフローマトリクス_大平洋金属

FCFがゼロになる均衡線に沿って、「安定期」から「低迷期」へ左斜め上に推移しています。減収傾向で直近4期は赤字決算となっており、顧客先であるステンレス鋼業界におけるフェロニッケル製品の足元の需要は堅調とはいえ、原料となるニッケル鉱は市況品で価格高騰(変動)もあり、業績的には厳しい状況が続いています。

10年スパンで見れば、FCFはプラス傾向で、減価償却費(新規の設備投資)は減少傾向にあります。また、FY16の足元では、定期預金の払い戻しによる投資CFのプラスが目立っています。

2.キーエンス

20180301_キャッシュフロー時系列分析_数表_キーエンス20180301_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_キーエンス20180301_キャッシュフローマトリクス_キーエンス

法人減税の早期効果取込みのため、決算期変更を繰り返したので、上図は、筆者の方で10年推移になるように加工して作成してあります。

(参考)
⇒「「決算」について(2)- 配当と決算月

業績は堅調に推移し、FCFをプラスのまま営業CFに合わせて投資CFを上手く調整して事業成長への再投資を実施していることが分かります。おそらく、資金繰りの関係で、定期預金と有価証券からの資金流入が多額に上ったことから、大きく投資CFがプラスになったことで、キャッシュフローライフサイクル理論から、「停滞期」(成熟期)のポジションに大きく振れたことからランキング上位に入ったということです。

3.SANKYO

20180301_キャッシュフロー時系列分析_数表_SANKYO20180301_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_SANKYO20180301_キャッシュフローマトリクス_SANKYO

パチンコ・パチスロの遊戯機械の市場が縮小傾向にあり、ここ10年の大きな推移として、FCFがプラスをずっと維持したまま、営業CFが大きく縮小しているため、キャッシュフローライフサイクル理論上、正しく年齢を重ねているという評価はその通りと考えます。

それに加え、直近2年は共に投資有価証券の償還があり、これが投資CFの大きなプラスとなっていますので、エイジング評価をさらに強くしている要因になっています。

4.セイコーホールディングス

20180301_キャッシュフロー時系列分析_数表_セイコーホールディングス20180301_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_セイコーホールディングス20180301_キャッシュフローマトリクス_セイコーホールディングス

FY07のキャッシュポジションへこの10年をかけて元に戻ったという軌跡を描いています。対象市場である腕時計やスマートフォン部品市場は成熟しており、売上高・利益については大きな変動はない状態にあります。

FCFはプラスで推移させているのですが、財務CFのマイナスが続き、手許現金が長期減少傾向にあります。特筆すべきは、財務体質強化のために、FY14に有形固定資産売却を原資に、大きく借入金を返済しているのが目立っています。

5.オンワードホールディングス

20180301_キャッシュフロー時系列分析_数表_オンワードホールディングス20180301_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_オンワードホールディングス20180301_キャッシュフローマトリクス_オンワードホールディングス

少子高齢化に伴う国内市場の漸減の影響を受けて、成熟市場での競争激化によるマージン低下に見舞われている状態です。その状況を前提に、FCF均衡線付近で投資CFを何とかコントロールしてきていたのですが、ここ2年は、有形固定資産と投資有価証券の売却から投資CFのプラスが目立つ状況になっています。どこかでブレイクスルーが欲しい所です。

確かに成熟市場に直面し、企業成長(=資金需要)が停滞している企業もあります。しかし、一時的な資産売却による投資CFの大きなプラスが要因でランキング上位に入っている企業もありますので、くどいようですが、個別企業の財務分析をご自身の手で確認したうえで、ご判断されることをお勧めします。

この辺で、冒頭の新聞記事へのコメント連載を締めたいと思います。(^^)

(連載)
⇒「キャッシュフロー分析(1)日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」
⇒「キャッシュフロー分析(2)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – 営業CF、投資CF、財務CFの2時点間増減比較で本当に企業年齢が分かるのか?
⇒「キャッシュフロー分析(3)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – 若返り企業は本当にキャッシュフローマトリクスを遡行するのか?
⇒「キャッシュフロー分析(4)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – キャッシュフローマトリクスで若いとされた企業の年齢を推測できるか?
⇒「キャッシュフロー分析(5)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – キャッシュフローマトリクスで高齢とされた企業の年齢を推測できるか?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)キャッシュフロー分析(5)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 ー キャッシュフローマトリクスで高齢とされた企業の年齢を推測できるか?

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