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キャッシュフロー分析(2)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – 営業CF、投資CF、財務CFの2時点間増減比較で本当に企業年齢が分かるのか?

財務分析(入門)
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■ キャッシュフローライフサイクル理論で企業年齢を推し量るの法

古くて新しい!? キャッシュフローライフサイクルによる企業の格付け(rating)記事にコメントをつけていく第2弾。今回は、新聞記事で紹介されていた、企業年齢ランキンングと、10カ年キャッシュフロー重要指標の推移を見比べることで、どれだけ企業年齢ランキングが確からしいかを確認してみたいと思います。

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2018/2/3付 |日本経済新聞|電子版 稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」

「これから稼ぎを増やせる若い会社はどこか――。資金の稼ぎ方や使い方、調達の仕方をもとに企業の「年齢」を分析したところ、社歴が長い企業が若く評価されるなど、一般的なイメージとは異なる結果がみられた。10年前に比べて「最も若返った企業」のトップは西松建設だった。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

同記事は、翌日の朝刊でも再度取り上げられ、米ミシシッピ大学のディキンソン教授の2011年の論文「キャッシュフローのパターンによる企業のライフサイクル」を参考にした「キャッシュフローライフサイクル理論」に基づく企業年齢のレイティングが行われています。

20180212_キャッシュフローライフサイクル
● 出典: キャッシュフローの正負で成熟企業を選別し投資する|DIAMOND Online
(著:吉野貴晶(大和証券キャピタル・マーケッツ投資戦略部チーフクオンツアナリスト))

2018/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」 「成長期」は米・アジアに後れ

⇒「キャッシュフロー分析(1)日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」 日本経済新聞2018年2月4日

それでは、電子版に掲載されたランキングを一緒に見ていきたいと思います。

 

■ 若返った企業のランキング - 建設業に目立つ!

記事の解説文を要約させていただくと、
・受注環境の好転で収益力が大きく回復した建設業が目立つ
・若返り組には社歴の長い企業が多いのも特徴

(下記は同記事添付の「10年前に比べ若返った企業」を引用)

20180203_10年前に比べ若返った企業_日本経済新聞電子版

このランキングの50社のキャッシュフロー分析をするのはいささか骨が折れますので、上位5社に絞ってキャッシュフロー分析を試みてみます。

1.西松建設

確かに、手許現金在り高を示すキャッシュ残高はここ10年で徐々に減少していっています。若い企業がどんどん手許現金を投資に回しているから、会社が若返りしているのだと結論付けるのは早計かと。FCFがここ数年は振るわず、マイナスに沈んでいました。新聞記事のエイジングの基準は、10年前の3か年平均と直近の3か年平均の単純な比較です。

おそらく足元の営業CFの急伸長からFCFの改善を見て、「衰退期」から「成熟期」へ若返ししたと評価したのだと思われます。いくら3か年平均をとっても、その1年が異常値(上方にも下方にも)ならば、算術平均で平準化を図ろうとしても、どうしても年度別業績変動に影響を受けてしまいます。

20180217_キャッシュフロー時系列分析_数表_西松建設_2

20180217_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_西松建設

2.ジーエス・ユアサコーポレーション

手元データの参照容易性から、9年間のデータ表示となっております旨、ご容赦ください。営業CFも成長しているのですが、FCFは10年前から悪化しています。旺盛な投資が要因となっています。このことから、大きな投資CFのマイナスから、「成熟期」から「成長期」へ若返ったと判断したのでしょうか。しかし、キャッシュフローサイクル理論では、「成長期」から「成熟期」へは財務キャッシュフローがプラスからマイナスに転じなければなりません。しかし、43.1歳というのは「成熟期」評価。10年前の数字のどこが「衰退期」を示しているのか、はなはだ疑問です。

どうしても、ここ10年で財務リターン回収から再び投資期に逆戻りした感触は、データからは筆者は感じ取ることはできませんでした。

20180217_キャッシュフロー時系列分析_数表_ジーエス・ユアサコーポレーション

20180217_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_ジーエス・ユアサコーポレーション

3.双日

直近と10年前は共に、FCFが振るいません。このエイジングはその間の双日のFCFが定常的にプラスで業績が安定していたことは考慮されていないように思われます。ちなみに、総合商社のキャッシュフロー計算書は、製造業や流通業との比較という点で、見方に留意するべき点があります。

営業CFには、持分法利益と配当金がたんまり含まれています。口銭ビジネスから事業投資ビジネスに主体が移行していますので、当たり前と言えば当たり前です。その対価として、投資CFには子会社買収のために費やした金額がマイナスとして表示されることになります。

20180217_キャッシュフロー時系列分析_数表_双日

20180217_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_双日

4.DMG森精機

2015年にDMGと森精機が経営統合を果たしました。それが大きな投資CFのマイナスに現れ、積極投資を開始したということにおいて、企業が若返ったという評価ならば甘んじてその評価を受け入れましょう。しかし、機械的な数字上だけの評価が恐ろしい。実際に財務数字があらわす経営環境・経営構造の変化を併せてきちんと把握することは忘れないようにしていきたいものです。「創生期」評価なのですよ!

20180217_キャッシュフロー時系列分析_数表_DMG森精機

20180217_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_DMG森精機

5.三井松島産業

16.1歳も若返って、47歳の「成熟期」との評価です。そういえば手許現金残高はここ10年で順調に微増傾向にあります。やはり、10年前の混乱期に、たまたま投資CFと財務CFが暴れたことで生じた比較差異のようにしか思えません。

20180217_キャッシュフロー時系列分析_数表_三井松島産業

20180217_キャッシュフロー時系列分析_グラフ_三井松島産業

 

■ キャッシュフローライフサイクル理論ではじき出したランキング上位企業について

昔から感じている所なのですが、定量的な財務分析によるランキング形式の分析や比較衡量において最も注意して頂きたいのが、ランキング上位とランキング下位に入る企業には、それぞれ事情が必ずあるということ。財務分析が異常値を示すから、ランキングの上位や下位のゾーンに入ってしまうのです。それが優良評価であっても、ダメ評価であったとしても、定量的な財務分析結果の後、必ず定性的な企業分析・経営分析を怠ってはいけません。

分かりやすい例で例えると、株価が割安で買い頃であると判断できる指標のひとつに、「PBR:Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」が1倍割れの企業があったとします。

それは、値ごろ感のある買い時の企業なのか、それとも、株式市場で割と投資家たちから低評価だから、割安で放置されて1倍割れしているのか。

原因と結果、因果関係と相関関係。きちんとわきまえて数字を見た方がいいことを示す好例だと思いますが如何でしょうか。

さてさて、誌面の都合で、これらエイジング評価ではいまいちポジションが分かりにくかったラインキング上位企業につきまして、次回は、フリーキャッシュフローの動向に着目した、キャッシュフローマトリクスによる企業ライフサイクル分析を試みてみたいと思います。

(連載)
⇒「キャッシュフロー分析(1)日本企業「高齢化」歯止め 現金収支で分析、平均「44.4歳」
⇒「キャッシュフロー分析(2)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – 営業CF、投資CF、財務CFの2時点間増減比較で本当に企業年齢が分かるのか?
⇒「キャッシュフロー分析(3)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – 若返り企業は本当にキャッシュフローマトリクスを遡行するのか?
⇒「キャッシュフロー分析(4)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – キャッシュフローマトリクスで若いとされた企業の年齢を推測できるか?
⇒「キャッシュフロー分析(5)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 – キャッシュフローマトリクスで高齢とされた企業の年齢を推測できるか?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)キャッシュフロー分析(2)稼ぎ方でみる「若返った企業」「高齢の企業」 ー 営業CF、投資CF、財務CFの2時点間増減比較で本当に企業年齢が分かるのか?

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