■ 「アリババ」NYSE上場から議論が盛り上がる
今回も、小稿でしたが、「ベンチャー企業の上場を増やすために創業者の権利を優遇すべきかどうか」についての議論が本格化してきたことを取り上げた記事についてコメントしたいと思います。
2014/10/27付 |日本経済新聞|朝刊
風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株
2014/10/16付 |日本経済新聞|朝刊
(アジアVIEW)香港に「一株一票」見直し論 アリババ上場見送り契機
この記事には、「アリババは当初、香港で上場を目指していた。だが馬会長ら経営陣が取締役の過半を任命できる「パートナー制」の容認を求めたのに対し、香港の証券監督当局が「株主権の平等を定める一株一票の原則に反する」と拒否した。同様の仕組みを認める米国上場に切り替えた経緯がある」とあり、香港当局が、種類株の一種、多数議決権株式を容認しなかったことが背景にあります。
■ 多議決権種類株
「種類株」とは、配当やその他の議決権などで、権利内容が異なるものをいい、日本の会社法でも第108条で複数種類が認められています。議決権に制約がある見返りとして、剰余金の配当等に有利な条件が設定されている「優先株式」や、株主総会にて全てまたは一部の決議で有利になる「多議決権株式」があります。
「優先株」は、金融不安の中で、多数の金融機関に資本注入する際に日本でも多用されましたし、現在も、伊藤園が発行しています。
「多議決権株式」の方は、IT企業に多く、創業者の経営権を保護したまま、外部からの資金調達をしたい場合に利用されることが多いようです。
極めつけは、「黄金株」といわれているもので、敵対的企業買収など(何が敵対的かの議論は横に置いておきます)について拒否権を有しているものまであります。現在、日本においては、国際石油開発帝石が発行しており、なんとその所有者は経済産業大臣となっています。
当局や、会社法学者の間では、「株主平等の原則」に反するのではないか、という指摘や、複数種類の株式のそれぞれの価値算定が困難であるということが問題視されてもいます。
「株主平等の原則」に反する、ということでは、黄金株まで行かずとも、多議決権株式にも同じことが言えて、1株1票で株式総会決議ができないと、普通株式の所有者が不利益を被る可能性があるということのようです。
■ ではなぜ種類株式を発行している会社の株主になるのか
では、なぜ、グーグルやフェイスブックのような、一見、株主平等に反する恐れのある会社の普通株式を、一般投資家は購入するのでしょうか。ラリー・ペイジ氏や、マーク・ザッカーバーグ氏の経営手腕を買っているわけで、グーグルやフェイスブックのガバナンスにはそれほど興味はなくても、経済的リターンを欲している人が、事情を分かった上で、普通株式を購入しているわけです。他の、表面的・形式的な、株主平等の原則を守っている会社の株式より、リターンが大きいと判断した結果以外の何物でもありません。
どの金融商品を買って、どういう経済的リターンを得るかは、資本主義経済において、個々人の権利(自由意志)が保証されているべきです。種類株式を発行している会社は何もその事実を隠しているわけではないので、詐欺的行為には決して当てはまりません。いやなら、そんな会社の株は買わなければよいだけです。投資の自由は投資家の手に委ねられているのです。
■ 事例の紹介
バークシャー・ハサウェイは、A種株式とB種株式を発行しています。B種株式の発行価格はA種株式の1500分の1に抑えられている一方で、A種株式はB種株式の10000株相当の議決権が与えられています。ウォーレン・バフェット氏は、A種株式を押えていることで、同社の経営権を確保している訳です。この場合、一般投資家は、なぜB種株式の売り出しに対して、狂喜乱舞して買いに行ったのでしょうか。それは、偏(ひとえ)に、バフェット氏の手腕に期待して、相対的に他企業への投資より大きい経済的リターンを望んだからに相違ありません。同社の株主なら誰でも、バフェット氏に代わって、バークシャー・ハサウェイの経営権をコントロールしたいという動機を持たないと思います。
先述の、国際石油開発帝石の黄金株の件にしろ、あくまで例えばの話ですが、外資による経営権取得により、目先の株主還元のみを狙った事業分割や、同業や投資ファンドへの身売り等が無いことが保証されているからこそ、安心して株主になっている人もいるかもしれません。2014/10/27前場終値ベースで、同社株は、PER:10.79、PBR:0.68、出光興産株は、PER:10.98、PBR:0.47、JXHDは、PER:9.32、PBR:0.53、となっています。
直近の株価動向では同業他社に比べて何ら遜色はない、という感じです。
■ (おまけ) ソニー狂想曲の仇花 - トラッキングストック
種類株の話をすると、必ず筆者は、ソニーのトラッキングストックのことを思い出します。2001年6月に、当時の子会社名:ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソネット・エンタテイメント)を対象としたトラッキングストック(子会社業績連動株式)は、議決権はソニー親会社に対して行使しますが、配当等の経済的権利は、対象子会社の業績に応じて配分するというものでした。80年代に、GEやディズニーが採用した方式で、巨大なコングロマリットの中に居ながらにして、外部から資金を調達できるという「いいとこどり」ができる、という触れ込みのものでした。
コングロマリットの中にいれば、優秀な経営者の知見も利用でき、巨大な共通経営資源も有効活用でき、そのうえで外部の資金も利用できるわけです。結果は、2003年4月のソニーショックとなり、、、その後は、本体株式に吸収されてしまいしたが。
同様の資金調達にひと工夫があった例としては、旧ボーダフォン買収時のソフトバンクの資金調達方法(LBOでノンリコースローンの活用)も、2006年当時はびっくりしました。
最後に一言、「資金の需要、資金の供給、あるところに、ファイナンス・スキームあり。どんなスキームを組むかは、経済活動の自由で当事者に選択権があった方が良い」
ソニーのトラッキングストックの件も、半年遅れで、当時の商法が種類株導入に向けて改正されたのでした。
ソニーのパイオニア精神、甦れ!
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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