原価計算基準(13)原価の諸概念④ タイトネス別に区分される4種類の標準原価の使い分け方法とは

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■ 標準原価は厳格性と使用目的から4種類に区分されます

原価計算基準にて様々な原価概念を3つの対立軸でまとめたのが、今回からご紹介する「基準四 原価の諸概念」です。基準四では、

① 製品原価に使う消費量と価格の算定基準
実際原価 と 標準原価

② 財務諸表上の収益との対応関係
製品原価 と 期間原価

③ 集計される原価の範囲の違い
全部原価 と 部分原価

の3軸、6種類の原価概念を順に説明しています。今回は4種類ある標準原価の使い分けについて見ていきます。まだまだ、標準原価の話題は尽きません。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

前回のおさらいですが、原価計算基準では、「標準原価」(もしくは「原価標準」)を求めるのに、

① 能率
② 操業度
③ 価格

の3要素を考慮するのでした。その求め方の図解を下記に再掲します。

原価計算(入門編)標準原価の求め方

そして、この3要素に持ってくる概念の別と、算出された標準原価の使用目的の組み合わせにより、標準原価は4種類に区分・定義されます。

 

■ 4つの標準原価とは

まずは、関連する条項をご覧ください。

四 原価の諸概念

(一) 実際原価と標準原価

2 標準原価とは、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した原価をいう。この場合、能率の尺度としての標準とは、その標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標を意味する。

標準原価計算制度において用いられる標準原価は、現実的標準原価又は正常原価である。

現実的標準原価とは、良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価をいい、通常生ずると認められる程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、かつ、比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改訂される標準原価である。現実的標準原価は、原価管理に最も適するのみでなく、たな卸資産価額の算定および予算の編成のためにも用いられる。

正常原価とは、経営における異常な状態を排除し、経営活動に関する比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来にすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価をいう。正常原価は、経済状態の安定している場合に、たな卸資産価額の算定のために最も適するのみでなく、原価管理のための標準としても用いられる。

標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもって計算した原価をいう。予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理およびたな卸資産価額の算定のためにも用いられる。

原価管理のために時として理想標準原価が用いられることがあるが、かかる標準原価は、この基準にいう制度としての標準原価ではない。理想標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度のもとにおいて、最高能率を表わす最低の原価をいい、財貨の消費における減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を許容しない理想的水準における標準原価である。

上記で、標準原価制度で用いられる標準原価の種類には、説明順に、
① 現実的標準原価
② 正常原価
③ 予定原価
④ 理想標準原価

の4種類となります。下図は、タイトネス(厳格性)の順に、4つの標準原価のタイプを並べ替えております。

原価計算(入門編)4つの標準原価

 

■ 現実的標準原価

「現実的標準原価」は、工場の通常運転を想定して達成可能な目標原価として、原価計算基準も最も重要視する極めて実務的な標準原価です。

(1)能率
「良好な能率」とは、原価標準が適用される期間中に除去できない程度の不能率(通常認められる範囲の仕損・減損、遊休時間等の余裕率)を許容量として含めますが、高能率の際にのみ達成可能な能率(工場の運転が期待通りに実現した時に到達する能率)を意味します。また、適用される原価標準期間において、生産合理化によって上昇するであろう幅も取り込んだ実現が期待された能率でもあります。

(参考)
⇒「許容原価 - 原価企画まで持ち出さなくても、通常の利益計画でも使います!

(2)操業度
比較的短期における予定操業度に基づくもので、通常は原価計算期間に基づく次の1年間に予想される操業度になります。『原価計算基準』制定時は、季節変動も含め、安定的な生産活動を前提にした工業化経済を前提にしているので、原価標準を決めるための計算要素(操業度など)は、1年単位で考えることを想定しています。よって、文中に「しばしば改訂される」とあるのは、あくまで年単位での改訂を指しています。

(3)価格
比較的短期における予定価格に基づくもので、通常は原価計算期間に基づく次の1年間に予想される予定価格になります。これは別名、当座価格とも呼ばれることがあります。

(4)使用目的
管理会計・経営管理として、「原価管理」「予算編成」に使用することが最も適していると言える標準原価です。原価計算基準においては、これにプラスして「棚卸資産評価」すなわち制度会計用の財務諸表作成目的にも資するものという位置づけになっているのですが、

基準三 原価の本質(四)正常性

を持ち出して、棚卸資産評価に用いることに異を唱える論者も少なからず存在します。

 

■ 正常原価

正常原価は、「経済状態の安定している場合」に限り、棚卸資産評価に最も適する標準原価であるという位置づけになります。これは、前章で触れた「基準三 原価の本質(四)正常性」を最も体現する標準原価であることに起因します。それゆえ、実際の工場の運営において、いつもいつも安定稼働しているとは限らないので、会計実務的には、棚卸資産評価への即時適用が難しい、概念的な原価ともいえます。

「原価標準」設定にあたり、「能率」「操業度」「価格」の全てに共通して考慮すべき点として、

① 異常な状態の排除
② 過去の平均
③ 将来の趨勢を加味

の3つが挙げられています。これは、「正常」に固執する上で当たり前の特質であると言えましょう。それゆえ、経営目標としてもあまり相応しくなく、実現可能性についても乏しいため、予算編成目的が外されていることは当然至極のこととして理解しておく必要があります。

 

■ 予定原価

標準原価とはそもそも、「科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定」された予定価格または正常価格に予定消費量をかけて求められるものです。これを厳密にいうと、

・単純に予想されるものではない
・単純に理想とされるものでもない
・原価目標として、達成が期待されるもの

として、「予定」「正常」という用語が使われています。それゆえ、単純に将来を見越して、これくらいだろうなと当てに行く「予定原価」という意味では、そのままでは厳密には、「標準原価」の仲間に入れることができません。残念ながら。

標準原価の「予定」は、目標値として達成が期待されるものを算出する意味で、
通常の予定原価の「予定」は、これくらいになるだろうなと当てに行く(予想する)意味です。同じ言葉を多義的に読者に断りなく使い分けているので注意が必要です。

しかし、次の背景から、しかたなく容認という位置づけで、原価計算基準では通常の「予定原価」もしぶしぶ「標準原価制度」として認めています(と、一般的な教科書では説明されています)。

(理由1)当時の我が国企業で使用されていた「標準原価」の質がいわゆる「予定原価」のそれとあまり変わらなかった
(理由2)今後の原価計算実務の発展のために、最初から厳しい基準を課すことができなかった

そういう政治的な話はそこまでとして、基準を理解するうえでのポイントは、ここでの「予定原価」は、操業度と価格については、現実的標準原価と同じものを使用しているが、能率だけ一段緩いものを使用しているところだけが異なるという点です。

つまり、原価計算基準が標準的だと考えている「現実的標準原価」との差異は、当てに行く「能率」レベルでいい、という点です。裏返すと、原価計算基準が最重要視している計算要素は、「能率」ということになるのです。

 

■ 理想標準原価

技術的に達成可能な最大操業度、最高能率を表す最低原価は、19世紀初頭のフレデリック・テイラーの考案した科学的管理法が起源の「目標原価」を意味しています。これは、テイラーの動作研究・時間研究のみから求められた机上計算に基づく厳格性(タイトネス)を持つものなので、現実的には常に達成不可能な水準の目標原価となってしまいます。

(参考)
⇒「経営戦略概史(2)フレデリック・テイラーと「科学的管理法」

フル操業を前提とした操業度、自社が最も有利になる購入価格を前提とした価格、原価管理上、いかなる仕損・減損・遊休時間を考慮しない最大能率を前提にした能率では、作業の動機付けとしての目標管理の道具としては厳しすぎて使えない(逆にモチベーションが低下してしまう)ので、原価管理としては不適切なものです。また、多額の標準原価差異の発生が不可避な理想標準原価では、棚卸資産評価すなわち財務諸表作成には使用することができません。それゆえ、原価計算基準では、この理想標準原価は、原価計算制度外の原価概念とし、使うのなら、その他の標準原価の指標(達成度を確認するための測定尺度)として使用することを想定しているのです。

ここまで、4種類の標準原価を説明してきました。

あくまで、学習や試験問題としては、この区分は暗記する必要があるかもしれません。しかし、会計実務においては、科学的・統計的調査にある程度の範囲(のり代)が認められていること、また、標準原価適用期間が1年を前提とされているのですが、現在の経営のスピード化、商品陳腐化の早期化を鑑みるに、市場環境や製品特質から、半年や四半期の標準原価計算期間も考慮する必要がある旨、実務畑の筆者は最後に付言しておきます。

⇒「原価計算 超入門(2)実際原価と標準原価
⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算基準(10)原価の諸概念① 実際原価とは
⇒「原価計算基準(11)原価の諸概念② 標準原価と原価標準の違いを本当に分かっていますか?
⇒「原価計算基準(12)原価の諸概念③ 標準原価の一番簡単な求め方
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(13)原価の諸概念④ タイトネス別に区分される4種類の標準原価の使い分け方法とは

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