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原価計算基準(23)製造原価要素の分類基準 ②機能別分類 概論

管理会計_アイキャッチ 原価計算(入門)
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■ まず形態別分類の復習から

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今回は、前回に引き続き、原価計算で用いられる勘定科目の区別のやり方の2回目となります。

前回は、勘定科目の区別のやり方の総論と「形態別分類(形態別区分)」について説明しました。原価構成を分かりやすく表示するために、「形態別分類」として、①材料費、②労務費、③経費の3つに大別します。これは、企業活動のために経営資源として費やしたソースの種別、①モノ、②ヒト、③それ以外のサービス(用役:ようえき)という「どんな形態の経営資源を消費したか」を区別するものでした。

形態別分類は、企業活動を維持するのに、どういう種類の経済的価値のある資源をどれくらいの構成割合で使用したかを明示することによって、

  1. 原価を構成する要素のどれが一番割合が大きいか?
  2. 一番割合の大きい原価要素を削減できるとしたらどういう工夫によってか?

を知るためのものです。この思考の順序をもう一段掘り下げて考えてみます。あなたの会社の製品は、材料費が70%、労務費が20%、経費が10%という構成割合(内訳)だとします。それぞれ原価を半分に削減することができる施策を同時にはどれかひとつだけ選ぶことができるとしたら、あなたはどの原価要素の原価削減のための施策を選択するでしょうか?

材料費が半分にできれば、現行の製品原価の35%を削減することができます。もし、経費を選ぶなら、5%しか原価削減の効果が発揮されません。このような原価削減のための施策選びとその効果を評価するために、形態別分類を用いることができます。

■ 機能別とは目的別???

では、原価計算基準における「機能別分類」の条文を見てみることにしましょう。

(二) 機能別分類  機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手待賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類する。

原価計算基準(原文)

これだけだと、さっぱりしすぎていること、相変わらず「機能」という言葉の定義がないことから、この説明文をただ読むだけでは、条文の意図は汲み取ることは難しいと思います。ここは原価計算実務における経験から説明をする必要がある部分です。まず、原価計算基準を解説する一般的な教科書には「機能とは目的である」という言い換えがなされています。おそらく、初学者にはこの言い換え自体が意味不明のことでしょう。筆者ですと、次のようにできるだけ噛み砕いた説明をするところです。

「機能とは、提供されるべき製品(またはサービス)を生み出すために、企業内でどういった活動がなされるのか、付加価値を生み出すプロセスの種類を識別するものである」

ただし、今度は「プロセス」という言葉の真意を推し量る必要が出てきます。では「プロセス」という用語の背景までもう一段掘り下げてみましょう。経営活動は、「プロセス」を中心に置いた場合、下図のように、図解することができます。

プロセスとは

この図を見ると、「プロセス」には、その活動を行うべき対象となるインプットがまず必要になります。前工程から流れてきた仕掛品やサプライヤーから購入した部材がこれにあたります。プロセスには、その仕掛品を完成品に仕上げるための加工・組み立て作業などが当てはまります。その加工・組み立て作業という経営活動の当然の帰結として、完成品が産み出されます。これがアウトプットというわけです。

そうすると、一般的な教科書は同義反復どころか、初学者を迷わせる言い換えだけして、本質を完全に説明していないことが手に取るようにわかると思います。改めて例示によって定義しなおすと、「機能」とは、加工、組み立て、検品、修繕、梱包など、企業内で付加価値をつけるために行われる活動を指しています。加工をするというプロセスの結果、「加工済み半製品(仕掛品、前工程品)」というものが手に入ります。

あるいは、検品というプロセスの結果、「検品済みの完成品(不良品ではない!)」が産み出されます。「加工済み半製品」を得る目的で、「加工」という作業(プロセス)を行います。「検品済み完成品」を生み出すことを目的に、「検品」という作業(プロセス)を行います。

ですので、プロセスとアウトプットが1対1(1:1)の場合は、「機能 = 目的」と位置付けてもほぼ間違わないので、「機能」とは「目的」である、という言い換えが世の中にあふれているのです。厳密には、「検品」という作業(プロセス)からは、「正常品」と「不良品」が産出(アウトプット)されます。仮に、等級付けも可能だとしたら、「1級品」「2級品」「不良品」と3 tier に仕分けられることになります。

というわけで、業務マニュアルを作成するとか、原価計算システムを設計するとか、用語の厳密性が問われる仕事の場合は、どうやら「機能」と「目的」という言葉は意識的に区別して使い分けた方が無難なような気がします。

■ 形態別と機能別を組み合わせる必要性とは?

それでは本論に戻りましょう。前回、原価計算基準が提示している製造原価要素の分類基準には3種類あることを説明しました。さらに材料費を例にそれを組み合わせた例を図表にまとめたものを下記に再掲します。

原価計算(入門編)財務報告目的で材料費を分類

これもまた、きちんと背景にまで言及されていなければ、初学者にとって惑わせる例示以外の何物でないという整理になっています。「主要材料費」と「補助材料費」って、、、

ここには2つの意味が込められています。きちんとひとつずつ順を追って解説していきますね。原価計算基準は文章で書かれたものなので、先頭行から順に解説がなされていきます。後の条文(基準11)で材料費の計算方法が示されているのですが、金額の大きい、管理のし甲斐がある項目を「主要材料費」ということにしておいて、事細かく出入りを管理して、できるだけ節約するように心がけよう。そういう製品原価の高低を決める大事なものは、「主要」というグループに入れて、厳密な賦課または配賦計算の対象にしよう、という意図が込められているのです。

その一方で、「補助」というグループに入れられたものは、金額的重要性があまりないので、簡便的な計算で済ませよう(計算コストの節約の方が効果が大きい!)、という意図が込められているわけです。

もうひとつ、労務費や経費と違って、材料費が与えるイメージの問題があります。先程の、インプット→プロセス→アウトプットの図表で示されていたように、材料費はどちらかというと、「インプット」のイメージが強いというのは皆さんにも同意頂けると思います。一方で、労務費や経費はそれを必要とする作業(プロセス)そのもののコストであるというイメージが強いのではないかと思います。

それゆえ、労務費(賃金)は、その労務費が使われる作業の種類別に区分することで「機能別分類」がなされるものと定義されています。経費は、原則として、部門をその目的別に区分して、「機能別分類」がなされるように定義しています。例えば、「修繕のための経費」「加工のための経費」「工場内でモノを移動させるための経費」という具合に。

「材料費」はインプットにかかるコストというイメージが強いので、製品別原価を計算するときの計算方法の厳密さを意識して「主要」⇔「補助」の違いを際立たせます。一方で、「労務費」と「経費」はプロセスにかかるコストというイメージが強いので、製品別原価の計算手法の前に、プロセス自体を「機能」とか「目的」(本当は厳密な視点では「目的」はプロセスの種別には当たらない場合が起こりえるのだけれど)の視点で仕分けるのです。

あらまあ~。久しぶりに熱く原価を語っていたら、紙面が足りなくなりました。^^;)
次回、改めて各論として、部品表(BOM:Bills of materials)との位置づけや、活動基準原価計算(ABC: Activity Based Costing)の基本的考え方との関係を説明したいと思います。

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参考記事原価計算基準」(全文参照できます)

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