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企業不祥事の責任どこまで 役員賠償保険(D&O保険)、割れる対応 東京海上、企業訴訟でも支払い 損保ジャパン、適用の範囲限定的に

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 社外役員のなり手探しの一環として賠償保険適用で優遇したいが課題あり!

経営管理会計トピック

昨今のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)流行りで、社外役員(社外取締役・社外監査役)のなり手不足で、各上場企業が適任探しに躍起になっている姿はいささか滑稽なものがあります。

本ブログでも、社外役員の選任と、なり手不足ついて何度かコメントをしてきました。
⇒「(真相深層)社外役員、適材奪い合い 企業統治改革は1年にして成らず 株持ち合いも根強く
⇒「社外取締役 出席率97% 昨年度 主要100社の取締役会 半数は複数社兼務
⇒「社外役員の兼務制限 日立、4社まで 外部の知見、自社に集中
⇒「社外取締役の有力供給源 大手法律事務所、就任にためらい 利益相反を懸念/本業に不利益も

ポイントは、エージェンシーコスト(エージェンシー理論)が究極の課題と言えます。

エージェンシーコストとは ~ exBuzzwords用語解説 より

株主と経営者との利益相反により発生するコストのこと。
経営者(経営委託者)が株主(オーナー)の意向にそぐわない意思決定を行うことによるコスト、及び、経営者が株主よりも情報優位にあることを利用して、自己の利益を高めようとすることによって発生する株主側のコスト。
会社経営において、所有と経営の分離がある場合に発生する経営委託(エージェンシー)に伴うコストの総称。

つまり、株主の利益に沿わない行動を経営者が実践しないか監視・予防・牽制し、株主価値最大化のための経営管理活動を実施するように促し、時にはそのための経営視点からのアドバイスを行うことを期待されて、社外役員が選任されます。その社外役員に株主から支払われるのが役員報酬で、株主にとっては、本来は100%自己の経済的利得(現金配当や株価値上がり)となるところから支出される必要経費ということになります。

今回は、正規の役員報酬だけでなく、その役員たちが民事・刑事を問わず、裁判で被告(人)となった際に、負わされる損害賠償のどこまで、保険料で手当てして会社が支払う(しつこいようですが株主が負担する)べきか、もう少しテクニカルなお話です。

 

■ 企業不祥事の際に、社外役員の賠償責任はどこまで保険でカバーされるべきか?

本ブログで役員賠償責任保険(D&O保険)を取り上げるのは2回目です。

▼会社役員賠償責任保険 役員が業務に関わる内容で株主や企業から賠償請求された際、賠償金や弁護士費用などを補償する保険。「D&O保険」とも呼ぶ。企業が加入し、保険料も企業負担が多い。犯罪行為などで賠償請求された時は保険金が支払われない。

(前回)
⇒「役員の賠償、会社も負担 政府、指針で容認 社外から迎えやすく

2016/6/27付 |日本経済新聞|朝刊 企業不祥事の責任どこまで 役員賠償保険、割れる対応 東京海上、企業訴訟でも支払い 損保ジャパン、適用の範囲限定的に

「不祥事で賠償責任を問われた企業役員を保険でどこまで救済すべきか。会社役員賠償責任保険の適用範囲拡大を巡り、損害保険会社の対応が割れている。東芝の不正会計など不祥事が相次ぎ、社外取締役の成り手不足に悩む企業にとって、今や保険加入は必須。だが保険に安住し、役員が経営監視の目を緩める懸念も常に付きまとう。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

前回投稿の元ネタになった同じく日経新聞の記事(2015/7/4)が出たのは、経済産業省が役員賠償保険の保険料を起業が全額負担してもいいとの法解釈を明らかにした時点でした。それから、企業の要望が次第に大きくなり、損害保険会社も相次いで保険金の増額に対応してきた中での今回の問題提起と潮目の変化となるのです。

「企業が役員を守る保険をこぞって手厚くする背景には社外取締役の成り手不足がある。東証などが2015年6月に導入したコーポレートガバナンス・コードは2人以上の選任を求めており、人材不足が顕在化した。
 しかも近年は賠償請求が高額の株主代表訴訟が増えている。ある大手企業の社外取締役は「複数の企業から誘いがあったが、保険が充実している企業を優先的に選んだ」と打ち明ける。」

(下記は、同記事添付の役員賠償保険を取り巻く環境のイメージ図を転載)

20160627_役員賠償保険(D&O保険)を取り巻く環境_日本経済新聞朝刊

このように、年々、役員賠償保険料が件数・金額ともに増加傾向にあり、それは社外役員を事実上義務化してきた上場企業を取り巻く企業統治環境の変化がその要因です。悪しくも、そうした企業統治の強化の流れと同調するかのように、またそうした外形標準的な企業統治強化策をあざ笑うように、企業不祥事を原因とする高額賠償請求事案も目立つようになりました。

(下記は、同記事添付の高額賠償請求事案ケース一覧を転載)

20160627_近年の高額の賠償請求事案一覧_日本経済新聞朝刊

「そんな状況もあり、損保大手は今春、相次いで保険の適用範囲拡大に動いた。焦点になったのが企業が自社の役員を訴える場合に保険を適用するかどうかだ。」

これは、D&O保険が、株主代表訴訟(会社が賠償責任を生じさせた役員を訴えない場合、株主が代わりに当該役員を相手に損害賠償請求の裁判を起こすこと)の事案の際には適用されるのですが、逆に、積極的に会社が当該役員を訴える際に、保険が適用されるのか、されないのかという問題です。

「「社長、これから会社があなたを訴えますが、保険が下りるので安心してください」――。株主代表訴訟は企業が提訴に動かない場合に限られるため、企業がお手盛りで訴訟を起こす可能性もある。取締役が執行部の経営を厳しく監視する目が緩みかねない。
 損保各社はこうした事態を避けるために保険の適用に慎重で、実際に企業が不正会計を巡って元社長ら5人に3億円(のちに32億円に増額)の賠償請求を起こした東芝のケースでは保険金が支払われなかった。」

 

■ 経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」の公表資料を確認してみる

2015年7月24日に、経済産業省が、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書を公表し、その中に、「別紙2 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の実務上の検討ポイント(PDF形式:713KB)」というものがあります。この中で、経産省は、実務上の検討ポイントを7つ挙げ、その4つ目に本件(D&O保険)を取り上げています。

20150724_D&O保険_実務上の検討ポイント_経済産業省

次に、この別紙に、D&O保険のスキームを表すイメージ図がありますので、下記に転載します。

20150724_現在の我が国のD&O保険の基本的な設計イメージ_経済産業省

経済産業省の基本的考えとしては、
① 取引先などの第三者
② 株主(株主代表訴訟含む)
会社
が訴えを起こす全てのケースをD&O保険の対象とみるようにしています。

20150724_D&O保険の一般的な補償範囲_経済産業省

さらに、損害賠償請求のスキームとして、会社が当該役員を訴える形に問題があることもすでに見通しています。そして、会社が訴えたケースでも、保険適用外とする免責事項とはしないように指導しているのです。

前章の東芝の件では保険は支払われなかったのですが、

「だが保険需要が高まってきたことで、東京海上日動火災保険は今春、企業訴訟のケースも含めて保険金を支払うパッケージ商品の販売に踏み切った。この商品では東芝のケースでも支払うことになるという。
 三井住友海上の場合は特約として企業訴訟もカバーできる商品設計だが「踏み込んで対応する」ように方針を転換した。あいおいニッセイ同和損害保険も同様だ。
 一方、最も慎重なのが損害保険ジャパン日本興亜だ。第三者委員会が企業訴訟が正当だと判断した場合に限って保険金を支払うという。」

各社各様ですが、一応経済産業省のガイドラインに沿うように商品設計を進めている感じですね。4社間にはかなり温度差はあるものの。。。

 

■ ますます社外役員による企業統治礼賛の世論の高まりについて

最近よく耳にする議決権行使助言会社による様々な意見表明が話題になっています。

2016/7/2付 |日本経済新聞|朝刊 米ISS「社外取締役4人以上に」 監査等委設置会社に要求 監査役の横滑り不満

「米議決権行使助言大手のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、企業に社外取締役を4人以上起用するよう求める方針だ。社外取締役が監査役を兼務する「監査等委員会設置会社」に移行する企業が対象。同設置会社は役員の外部からの起用が増えず、ガバナンス強化になっていないとして、海外投資家などから不満が出ていた。
 監査等委設置会社は昨年導入され、6月末で約680社が移行を決めた(三菱UFJ信託銀行調べ)。移行するには最低2人の社外取締役が必要になるが、従来の社外監査役を横滑りで社外取締役に選ぶ企業が多い。社外役員の数自体は増えないため、外部の目を経営に生かすには不十分との指摘があった。
 ISSは最低基準の2倍にあたる4人の社外取締役の起用を求める方向で、助言先の機関投資家と議論していく。来年の導入を視野に入れている。
 満たせない企業に対しては、株主総会で監査等委設置会社への移行議案に反対することも検討する。移行済みの企業に対しても、社長再任に反対する可能性がある。」

ちなみに、会社機関設置は主流なのは次の3つ。
① 監査役会設置会社
② 監査等委員会設置会社
③ 指名委員会等設置会社

この3つの違いと、そのメリット・デメリットは下記過去投稿をご参照ください。
⇒「「監査等委」設置広がる 上場600社、企業統治強化 - 監査等委員会設置会社への移行メリットとは?

でもこうやって、海外の助言会社や海外の投資ファンドの顔色を窺わないといけない日本の株式市場における海外マネーの影響力の方が心配ですが。社外役員がそんなに有効なら、海外企業の不祥事や業績悪化はそんなに少ないんですね。本当?

前章で紹介した新聞記事に戻ると、
「海外では企業訴訟分を含めて保険金を支払うのが主流だ。プロの経営者が多い海外と社内昇進型の日本では事情が異なるが、外国人役員を呼び込む際の障壁になっているとの指摘もある。
 今や役員賠償保険は上場企業の8~9割が加入している。損保大手4社の役員賠償保険による保険料収入は15年度に前年度比で6%増えて初めて100億円を超えた。市場の盛り上がりとは裏腹に、損保の現場担当者は悩みながら対応を進めている。」

繰り返しになりますが、D&O保険料も、株主が負担すべき必要悪的なコストです。そんな支出はできれば少ない方がいい。D&O保険を手厚くして、むりやり社外役員をかき集めて体裁を取り繕って本当に企業価値が最大化されるのか。筆者なら、社外役員の監視に頼る前に、頼りになる名経営者が率いる会社の株式を購入することを考えます。えっ、筆者が購入している(したい)銘柄ですか? ここはそういうブログでもありませんし、風説の流布で罰せられるのも嫌なので、秘すれば花ということで。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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