経営戦略概史(28)ポーターが世紀末に放った反撃の一打『戦略とは何か』 - 日本企業には戦略がないという指摘について

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■ 再びポジショニング派とケイパビリティ派の激突を見る!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、ケイパビリティ派とポジショニング派の争いの潮目について取り上げたいと思います。

ポジショニング派もケイパビリティ派も、「持続的な競争優位」を築き、他社よりも高い収益性を確保するヒントや理由・根拠(それこそが経営戦略だとも言えますが)をミクロ経済学や統計学などに依拠する定量的な評価モデルを用いることで自説の正しさを証明しようと躍起になっていました。

「JIT方式や、タイムベース戦略を生んだ日本では、すべての企業が「時間」や効率化・多品種化に向かって突入していきました。商品開発サイクルは短くなり、品種は激増し、価格は下落を続けました。」
(本書p232)

いわゆるチャレンジャーとしての日本企業がコア・コンピタンスを有効に活用して、北米市場で既存のメガプレイヤーのシェアをホンダやキヤノンが次々と奪っていく様をケイパビリティ派の論客たちは見事に表現しており、その説の正しさが証明されたかに見えました。

⇒「経営戦略概史(17)キヤノンとホンダ 無鉄砲な日本企業たちの躍進 - この2社の躍進がケイパビリティ学派登場のきっかけとなった

しかし、そうしたケイパビリティ的な競争の行き着く先は、低収益な市場だけが残るという有り様で、どの企業も「高効率低収益の罠」(本書p232)に陥っているかのようでした。

そこに一石を投じたのが、かのポジショニング派の大家、マイケル・ポーターでした。

 

■ 『戦略とは何か(What Is Strategy?)』

ポーターは、「戦略とは何か」という18ページの小稿を1996年に発表し、その中で、

「ケイパビリティ戦略など、戦略ではなくてただの業務効率化だ」
「その見分けがつかないから、みな(ケイパビリティで競争優位が築けるという)作り話に騙されのだ」
(本書p233)

と、ケイパビリティ派をこき下ろします。

特に、ケイパビリティ派が持ち上げた日本企業について厳しい意見を突きつけています。北米市場で小(新規参入組の日本企業を指す)が大を負かすのには、小には小なりの成功要因があって、それがケイパビリティ(厳密には、コア・コンピタンスと言い換えた方が分かりいいかもしれませんが)だという意見に対して、真っ向から反対意見を述べたものになります。

以下、本書p234の箇条書きより

・ソニー、キヤノンらは例外で、ほとんどの日本企業は互いに模倣し合っているだけ
・その状態から抜け出すには、日本企業は「戦略」を学ばなければならない
・しかし、悪名高きまでにコンセンサス重視の日本企業では、戦略というものが求める「厳しい選択(Hard Choice)」は行えまい
・かつ、日本企業は顧客満足を重視するあまり、すべての顧客にその求めるすべての商品・サービスを提供しようとして、自社のポジショニングを失ってしまう

と、日本企業を散々に批判しています。これらのポーターによる日本企業への鋭い批判は傾聴に値するものがあるとは思いますが、一部、筆者の目線からは反論したいところもあります。バブル崩壊後、日本企業はこぞって、ポーターらのポジショニング派の意見に従って「集中と選択」を推し進めてきました。コンセンサスと模倣とを忌み嫌って、いわゆる欧米の先進大企業に倣って、同様の事業ポートフォリオ作りに邁進しました。その結果はどうでしょうか? それこそ、相手の土俵で同じような事業ポートフォリオの収益性ばかり追いかける一企業になりました。それこそ、戦略眼をどう持つかとか、短期的な事業収益性だけで事業選択をする企業行動は、欧米先進企業の後追いとなるだけで、独自性を失った日本の製造業の一部は軒並み膨れ上がるグローバル市場で埋没しています。

ポジショニングや選択と集中は大切な企業価値観でしょう。しかし、それこそが欧米先進大企業の模倣であっては、一歩も二歩も先に進んでいる欧米大企業にはキャッチアップすることは難しいでしょう。筆者も90年代から00年代までは、欧米型の「選択と集中」こそ、日本の製造業復活の道と信じていたものです。

今では、「擦り合わせ型」と「モジュール型」のアーキテクチャーでのものづくりの違いを正視し、自社の強みがどちらかを厳しく見定めるべきと考えていますし、まだまだグローバルニッチトップである数々の日本企業の輝きは失われてはいないと考えています。「戦略」という言葉を必要以上に有り難がり、「模倣」はNGと決めつける考え方では、いつまでたっても欧米のそうした面でこなれた企業には勝てません。それこそどこで差別化を図るかは、その企業の得意領域で決めるべきなのです。(^^)

■ ポーターも競争優位を築くための考える要素を増やしてみたものの。。

かくいうポーターも、上掲の論考内で、従来の戦略三類型だった、

① コストリーダーシップ
② 差別化
③ ニッチトップ

経営戦略(基礎編)_ポーターの戦略3類型

に加えて、3つのポジショニングの基盤を提示しました。
(本書p235)

① 商品・サービスの絞り込み
② 顧客ニーズ
③ 顧客のアクセスのしやすさ

しかし、①はニッチトップとどう違うのか、②と③に至っては、経営戦略論としてのポジショニング派の意見というより、マーケティングの要素が色濃くなっています。案の定、これらの新しい指摘は、あまり世の中では大きく反応が示されませんでした。

ただし、ポーターが言い放った、「効率化は戦略じゃない」「大きなジャンプは何も生み出していない」という指摘は学界や実業界では大きな波紋を広げました。ポジショニング派とケイパビリティ派の論争はますますヒートアップすることになります。

ちなみに、本書が書かれた時点(2013年)では、ポーターの『競争優位の戦略』は1985年以来改訂がない、という指摘がありましたが、最近新調版が刊行されました。

これについて、筆者は2つの意見があります。まずひとつめは、どちらでもない第三の考え方があるとするミンツバーグの「コンフィギュレーション」の方が事業を説明できているのではないかとするもの。ふたつめは、ポジショニング派もケイパビリティ派もお互いの主張の根底にある統計学的な立証アプローチそのものに無理があるではないか、とするものです。

⇒「経営戦略概史(15)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場① - ファイブ・フォース分析はミクロ経済学から誕生した
⇒「経営戦略概史(16)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場② - 戦略3類型とバリューチェーンは経営戦略論不朽の名作!

 

■ 因果関係と相関関係は似て非なるもの

ひとつめについては、次稿で触れるとして、ここではふたつめについて簡単に説明しておきます。

この上掲書のp34にある原因と結果が示す「因果関係」には見せかけのものがあり、それはたんなる「相関関係」だとするチャートがあります。つまり、何が言いたいかというと、「風が吹けば桶屋が儲かる」は、風が吹くのと桶屋が儲かることには、相関関係はあっても、直接の因果関係があるわけではないことからわかるように、ポジショニング派もケイパビリティ派も、自説の正しさを統計学的な因果関係でもって、企業業績にどちらの要素が強く反映されているかを証明しようと試みてきましたが、いずれのデータ分析モデルも所詮データモデル。正しく企業活動と企業業績を「原因」と「結果」とに分別して要因分析はできないのではないか、という主張です。

例えば、アップルの成功は、i-Podやi-Phoneという儲かる位置取りの製品を世に送り出したともいえるし、そうした新製品を生み出す開発力が備わっていたともいえる、ということです。どちらが原因でどちらが結果など、統計的な推論でどこまでわかるのでしょうか。

上掲書には、3つの相関関係が例示されています。
(1)海賊の数と地球の平均気温には正の相関関係がある
(2)体力がある子供は学業成績も高い
(3)警察官の数と犯罪の発生件数には正の相関がある

(1)について
これは統計的推論という技法を待たずして、平均気温が上がったから海賊の数が増えたと結論付けるのはおかしい常識的に分かります。この常識的というのが曲者で、経営戦略論の世界で、ポジショニングとケイパビリティのどっちが企業業績の上下の要因なのか結果なのか、というお題については、常識論に頼ってしまうと、どっちが原因でどっちが結果かはその人の常識に依拠してしまうのです。

(2)について
「交絡因子(こうりゃくいんし)」とは、原因と結果の双方に作用してしまう第三の変数のことをいいます。子供の体力があるのは、スポーツを習わせるという「親の教育熱心さ」が原因であり、それは同時に、学習塾などへ子供を通わせることの原因ともなっています。つまり、「親の教育熱心さ」という原因が子供の体力向上と学力向上の両方を同時に増進させている可能性が高い、ということになります。ポジショニングがうまい企業は、同時に他社にはない優れたケイパビリティを用いたからこそその位置取りができたのかもしれず、両者をうまく導いたのは、実は卓越したリーダーの存在かもしれないのです。アップルにとってのジョブズのように。

(3)について
「逆の因果関係」というものがあり、警察官の多い地域では犯罪活性件数も多いというデータがあるそうです。これを解読するに、犯罪が多い危険な地域だから警察官を多く配備するという方が自然な考え方です。警察官が多いから、些末なことでも軽犯罪で取り締まられているから犯罪発生件数が多くなるのだ、と難癖をつける人もいるかもしれません。そういう人には、「割れ窓理論」「ブロークン・ウィンドウ理論」をググってもらうことにしましょう。

このように、経営戦略論における、ポジショニング派とケイパビリティ派の大論争は、筆者の現在の研究テーマである、「データモデル・数理モデルによる経営管理理論」に取り掛かるきっかけとなりました。と同時に、ミンツバーグ教授の学説に触れるきっかけともなったのです。人生何が縁で次のチャンスが到来するのか分かりません。(^^;)

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(28)ポーターが世紀末に放った反撃の一打『戦略とは何か』 - 日本企業には戦略がないという指摘について

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