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日産、カルソニックカンセイ売却 先端技術に資金 全保有株1000億円超で

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 日産自動車の連結財務諸表への簡易インパクト分析にトライ!

経営管理会計トピック

5/24の日本経済新聞のTOPを飾ったこの記事。日産がカルソニックカンセイを売却する理由は、まことしやかにビジネス視点でいろいろと語られています。しかし、事業(子会社)売却の裏には、そりゃまあ、いろいろ理由があるわけで、その種の暴露話にも非常に興味をそそられるところです。しかし、ここは落ち着いて会計的に財務諸表に対してどういうインパクトがあるか、超簡便法でありながら、そういう大人の分析に徹したいと思います。

2016/5/24付 |日本経済新聞|朝刊 日産、カルソニックカンセイ売却 先端技術に資金 全保有株1000億円超で

「日産自動車が系列の最大手部品メーカー、カルソニックカンセイの全株式の売却を検討していることが23日、明らかになった。売却額は1千億円を超える見込み。電気自動車(EV)や自動運転車の登場で自動車メーカーが必要とする部品や技術は大きく変わっている。株式売却で得た資金を先端技術の研究開発に振り向け、次世代の競争に備える。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、
「6月に1次入札を実施する予定で、保有する約41%の全株式を売却する方針。カルソニックカンセイの時価総額は23日の終値ベースで約2400億円。日産が保有株を全て放出した場合、売却額は1千億円を超える可能性がある。」

とあり、日産自動車がこの売却話でいったん約1000億円の現金を手中に収めるということ。記事の通りならば、いずれこの現金も設備投資や事業買収に向けられますが、それはまた別のお話し。

 

■ 連結子会社を会計上、子会社足らしめる要件とは?

下記に、記事添付の、日産自動車の部品・車体メーカーへの出資状態の整理図を転載します。

20160524_日産自動車が出資している主な部品・車体メーカー_日本経済新聞朝刊

2004年11月30日の日産自動車のプレスリリースと、カルソニックカンセイのプレスリリースから、日産の議決権保有比率は27.6%から41.7%となり、カルソニックカンセイが日産の連結子会社となる旨が開示されました。議決権を50%超保有していなくても連結子会社と言っていいのか? そういう素朴な疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。

● 子会社の定義
親会社によって、意思決定機関(取締役会など)を支配されている会社。この概念を、「支配力基準」といいます。

<要件>
1)過半数(50%超)の議決権を所有
2)40%以上、50%以下の議決権を有し、かつ、
  ① 自社および自社と密接な関係者の合計で議決権の過半数を占めている または、
  ② 自社の使用人などが意思決定機関の構成員の過半数を占めている または、
  ③ 重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在する または、
  ④ 負債の部に含まれる金額の過半を融資している または、
  ⑤ その他の意思決定機関を支配していると類推できる事実が存在している
3)ただし、上記の要件を形式的に満たしていても、実質が違えば外してよい

かなりシンプルにしたので、法務の専門家の方々は片眼を瞑っておいてください。(^^;)
このうち、会計報告上で重要な会社は、「連結子会社」扱いとなります。

● 関連会社の定義
親会社によって、議決権比率に加え、財務・営業の方針決定に対して重要な影響を与えることができる会社。この概念を「影響力規準」といいます。

<要件>
1)20%以上の議決権を所有
2)15%以上、20%未満の議決権を有し、かつ、
  ① 自社の使用人などが意思決定機関の構成員の過半数を占めている または、
  ② 重要な投資を行っている または、
  ③ 重要な技術を提供している または、
  ④ 重要な販売、仕入れその他の営業上または事業上の取引がある または、
  ⑤ 財務、営業、事業の方針決定に対して重要な影響力を及ぼすことができる
3)自社および自社と密接な関係者の合計で議決権の20%以上を占め、かつ上記①~③の条件を満たす

上記の条件を満たす場合、会計上重要性が認められる場合は、「持分法適用会社」として扱います。

ということで、カルソニックカンセイは、売上高の80%を日産に依存している他、決定的なのは、取締役会を構成する5名のうち、3名が日産本体出身(会長、社長兼CEOの2名含む)ということで、子会社の要件を十分に満たすということになります。

 

■ この売却が日産の連結損益計算書にどういう影響を及ぼすか?

さて、いよいよ本題に入ります。三菱自動車の燃費不正の件で、不正公表後、たった20日で財務支援、33.4%の議決権取得(特別決議での拒否権発動に必要な下限値)の第三者割当増資に応じる日産の超優秀なデューデリチームメンバには到底かないっこありませんが、あくまで公表財務データのみで、今回のディールにおける日産の損得を、あくまで連結財務諸表へのインパクト分析の形で説明します。

まずカルソニックカンセイのP/Lから。

経営管理会計トピック_両社のP/L(2016/3月末)

日産自動車向けの売上比率が84.1%あるので、外販金額は1677億円。この分、日産自動車の連結売上が減少するという表の見方をします。グループ内外で売上高営業利益率が同率と仮定した場合、連結営業利益も61億円減少します。当期純利益は、議決権比率で減少額をみます。ここが普通の制度連結決算とは少々異なる管理会計的なものの見方。94億円減少するとみます。ここから分かるのは、売上高営業利益率は、カルソニックカンセイを売却した方が高まるということ。そして、対売上高で当期純利益の稼ぎ方はいったん落ちてしまうということ。カルソニックカンセイを売却することで、これまで稼いでいた94億円がなくなるので、同額以上を稼ぐ新規ビジネスに売却で手に入れた資金を投資して、同額(または同率)の稼ぎがあるものにする必要があるということです。つまり、カルソニックカンセイの収益性が、次の投資先の最低限のハードルレートになる、とする考え方です。

 

■ この売却が日産の連結貸借対照表にどういう影響を及ぼすか?

続いて、貸借対照表へのインパクトをみます。

まずは、売却益を読みにいきましょう(どうせ、すぐに結果発表されますが、、、)。

経営管理会計トピック_B/S インパクト 1

日産自動車のプレスリリースカルソニックカンセイのプレスリリースから、2005年1月11日に、第三者割当増資で連結子会社化したことが分かります。真実の現在の日産自動車の持ち株比率は、41.59%なのですが、当初保有株式数などを類推するため、プレスリリースで公表されていた41.7%の方を仮計算に採用します。当初から保有していた181,800千株の評価金額は、カルソニックとカンセイが合併した2000年末日の株価(ここが時価評価というのがあまりに保守的ですが)を採用します。ここから、日産自動車の出資額を881億円と読みます。

あとは、PBR:1倍の水準で売却(売却益①)、新聞報道にある1000億円で売却(売却益②)、新聞報道された日の終値で売却(売却益③)の3つの値のゾーンに入ると類推します。個人的な見解では、23億円~119億円に入ると思いますがね。あくまでご参考まで。

続いて、筆者が個人的にトヨタ自動車と比較して、日産自動車の財務体質強化が必要であると考えているところから、「ネットD/Eレシオ」という財務指標の変化インパクトを読みにいきます。

ネットD/Eレシオ = (有利子負債 - 現預金) ÷ 純資産

この値は、低い方が倒産リスクが減少する、急場しのぎの現金支出の余裕が出てくる、という風に理解します。ただし、昨今のマイナス金利下の金融市場の状況では、こぞってどの社も負債での資金調達に走っています。あれほど自己資金にこだわっていたベンチマーク先のトヨタ自動車でさえ、先日、超長期債とはいえ、負債での資金調達に踏み切りました。

2016/5/20付 |日本経済新聞|朝刊 超長期債 発行相次ぐ トヨタ、18年ぶり20年社債 金利低下で長め資金

「日銀のマイナス金利政策による金利低下を受け、企業が超長期の社債を発行して資金を調達する動きが広がっている。トヨタ自動車は18年ぶりに満期までの期間が20年の社債を発行する。一般に償還までの期間が長くなると金利が高くなるが、信用力の高いトヨタの場合、20年物でも0.4%程度の低利になる見通し。マイナス金利下で同様の動きが続きそうだ。
トヨタは27日にも発行条件を決める見通しだ。10年物と20年物の2本で合計500億~600億円規模を調達。資金は設備投資や運転資金などに充てる。利回りは10年債が年0.1%程度、20年債が年0.4%程度となりそうで、いずれも民間企業として過去最低水準だ。」

だからこそ、改めて、トヨタ自動車をベンチマークするなら、どれだけ(ネット)D/Eレシオで差がついているかを気にしておくべきです。ちなみに、トヨタ自動車の2015年度末のネットD/Eレシオは、0.85 です。

経営管理会計トピック_B/S インパクト 2

出資額と売却益の出し入れを加味したうえで、カルソニック売却直後の日産自動車の現預金、有利子負債、純資産の動きを予想すると、上図のように、ネットD/Eレシオが、1.88 から 1.22 へ変化(あえて悪化とはいいません!)しています。これは、カルソニックカンセイの貸借対照表が、財務安定的で、実質無借金経営だったことが効いています。昨今の金利情勢から、上手にお金を借りてね、というメッセージを日銀様から頂戴しているので、D/Eレシオをより低く、という姿勢が好まれた時代も変化しようとしています。

さてさて、ここまで議論してきた連結財務諸表へのインパクト分析は、日産自動車がカルソニックカンセイの売却益を現金で手元に置いたままのタイミングでの数値にすぎません。大事なのは、ここで手にした現金を何に使うのか?

毎日新聞 2016/5/24
日産 子会社「カルソニックカンセイ」株を売却へ

「三菱自への出資金に 金額は1000億円程度見込む

 日産自動車が、子会社の自動車部品大手カルソニックカンセイの保有全株式を売却する方針を固めたことが23日、分かった。売却金額は1000億円程度を見込んでいる。日産は売却で得た資金を資本業務提携で基本合意した三菱自動車への出資に充てるほか、電気自動車(EV)など競争が激化している先進技術の投資に振り向けたい考えだ。」

先日報道があった三菱自動車への財務支援のお話し。その原資にするとの報道。

「日産自動車は12日、三菱自動車に2373億円を出資し、三菱自動車株の34%を取得することで基本合意した。」

ということなので、三菱自動車への出資の約42%を今回のカルソニックカンセイ売却益で賄うことになります。何に使うか(資金の使途)、よっぽど工夫しないと調達資金には色はつかないのが普通です。新聞等がカルソニックカンセイ売却で手に入れる現金を何に使うのか、それは日産自動車の経営陣のみぞ知るところ、それが、単にトップラインだけを追う(1000万台クラブ入り)のではなく、より一層の日産自動車の財務体質強化と収益性向上に貢献することを心より願っております。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

(参考投稿)
⇒「自動車、日本勢が快走 トヨタ、純利益首位を堅持 今年度上期、ホンダ・日産自も浮上 米韓勢は失速
⇒「三菱商事、1000億円自社株買い 2桁増益で8年ぶり規模 株主還元を強化
⇒「トヨタ、4~6月純利益最高 円安・北米が支え 新興国不透明 通期は据え置き
⇒「(ビジネスTODAY)トヨタ総会、議論の場に 過去最長の3時間、新型株の賛成率は75%」

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