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FY2015 トヨタ自動車 財務分析(4)ROS 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より

財務分析(入門)
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9 Matrix Financial Analytics テンプレート 無償版 for Excel

5年間の時系列分析が可能です。
グラフによる可視化が可能です。

・ダウンロード元は本ブログサーバ内なので安心
・MS Excel 2010
・お問い合わせ:e-Mailによる質問可能

9 Matrix Financial Analytics とは

筆者の自作による財務分析テンプレート(Excel 2010)を用いた財務分析手法で、FY2011~15の5ヵ年の時系列分析によるトヨタ自動車の経営状況を概括したいと思います。一つの財務指標でも、5年並べてみれば、単独でそれなりの経営状況の変化のストーリーを見せてくれますし、関連する他指標との比較にまで目を凝らして見れば、ひとつひとつの財務指標がすばらしい経営戦略のストーリーテラーとなってくれるに違いありません。

『9 Matrix Financial Analytics』とは、筆者渾身の財務分析手法で、初心者から中級者向けのツールとして開発したものです。

財務分析(経営分析)は、数字を算出して終わりではありません。確固たる経営管理の目的を果たすために行われる計数分析作業で、各種の経営管理活動(施策)と連動する必要があり、同時に、その施策に何らかの示唆を与えたり、特定の管理目的の達成度評価や目標設定に役立つものでなければなりません。

経営管理の活動レベルとして、①商品戦略、②事業戦略、③財務戦略の3つ、
経営管理の視点の違いとして、①ビジネススピード、②投資収益性、③キャッシュマネジメントの3つ、
3×3のマトリックスで一覧性を保持しながらも、企業経営における重要な財務指標を選抜してあります。

20160821_9 Matrix Financial Analytics
20160820_9 Matrix Financial Analytics_グラフシート

ROS(Return on Sales:売上高当期純利益率)

この指標は、3×3のマトリクスにおいて、「事業戦略」での「ビジネススピード」を管理する目的で使用するものです。

・ROS(Return on Sales:売上高当期純利益率)
・ROS = 当期純利益 ÷ 売上高 ×100

日本企業をはじめ、ビジネスの土台をドラスティックに変革しないと、後の回に登場する「総資産回転率」という指標は大幅に変えることができません。現状のビジネスプラットフォームで裁量的に操作できるのは、相対的に「ROS」の方です。そして、ここで「R」として「(当期)純利益」を採用したのには訳があります。

当期純利益は、そこから株主に対する配当を経て、外部流出する部分と、内部留保で企業内に利益剰余金として内部留保される分に分けられます。内部留保された分から、その企業の成長に向けた将来投資の原資が捻出されます。そのお金を現状のビジネスプラットフォームからどれくらい稼げているかを示すのが、当期純利益ベースのROSなのです。

しかしながら、筆者は常々、「ROS」における「R」に採用する段階利益概念について、ひとつの信念を持っています。段階利益とは、損益計算書(P/L)に登場する各種利益概念のことで、日本の会計基準に則ると、上から順に、

・売上総利益
・営業利益
・経常利益
・税引前当期純利益
・(税引後)当期純利益

(包括利益についての議論はまた別の機会に)(^^;)

となります。損益計算書の構造と段階利益については、次の過去投稿も参考にしてみてください。
⇒「損益計算書を斬る

筆者が財務指標を見る時に、特に分子分母で割り算する比率指標を見る際には、分子と分母の関係性を注意深く観察します。それゆえ、経常利益には「営業外収益」、税引前当期純利益には「特別利益」というインプット情報があるにもかかわらず、経常利益を「R」にした「ROS」や、税引前当期純利益を「R」にした「ROS」は、分母にそれらのインプットが含まれない、という意味で、正確な比率指標になっていないと断じています。

それゆえ、インプットからアウトプットへの変換効率を探求する比率指標として、「ROS」の「R」は、「営業利益」がベストであるという持論があります。しかし、ここは「事業戦略」目線での、ビジネススピードを推し量るための財務指標が位置するところ。それゆえ、この分子分母のアンバランスに目をつぶり、現状のビジネスプラットフォームにおける売上高に占める純利益(外部流出+内部留保)の残存状況を見る意味で、『9 Matrix Financial Analytics』で採用したのです。

これは、「持続可能な成長率」(サスティナブル グロース)を推し量るための第一歩の指標でもあります。

⇒「成長性分析(9)持続可能な成長率
 (これも、トヨタ自動車の財務諸表を用いた分析になっています)

もうひとつ、筆者が「ROS」の「R」に「当期純利益」を採用する理由があります。それは、「デュポンチャート」で、「ROE」を順番にブレイクダウンしていく際に、損益計算書(P/L)項目を詳細化する際に、分析ルートを通過させる指標としても使用せざるを得ない、という事情を考慮して、ということです。

日本企業は、IFRSとは違って日本の会計基準にまだ「営業利益」が残っているので、この段階利益による収益性分析の支持者が多く存在します。筆者もその有効性は認めるものの、事業や企業全体の収益性はもっと下の段階利益で評価されるべきで、従来、営業利益を用いた収益性分析は、キャッシュフロー概念を用いた財務指標に徐々に置き換わっていく、という予想を持っています。
(まあ、これを掘り下げていくと、入門編の枠を超えてしまうので、また別の機会に)

トヨタ自動車の「ROS」を実際に見てみよう!

ではトヨタ自動車のFY11~15の5ヵ年のROSの推移をご覧ください。

20160904_トヨタ自動車_ROS_数表_FY2011~15
20160904_トヨタ自動車_ROS_グラフ_FY2011~15

トヨタ自動車は、FY11からFY13にかけて、北米でのリコール問題からの脱却や、円安の追い風を背に受け、売上高、純利益ともに、拡大基調を続けていました。FY14に、豊田章男社長が「FY14から3年間は意思のある踊り場」発言を行い、量を追わずに質を追っていく、という経営方針を発表。売上高と純利益の推移もその方針を寸分の違いもなく、写し取る鏡となっているように見受けられます。

また、国内事情では、2014年度からの消費税8%への増税。これの駆け込み需要で、FY13の売上と利益の伸びは、FY14の幾分かを先食いした、という見方も成立します。いずれにせよ、外部市場環境、内部経営方針のいずれも、FY14からは、「意思のある踊り場」として、次の飛躍に向けた一時的なしゃがみこみ(それでも減収減益にならない辺りがトヨタのスゴイ所ですが、、、)が見て取れます。数字は嘘をつきません!(経営者が嘘をつかない限りね!)(^^;)

使用方法や解説はこちらから。

財務分析(入門編)_FY2015 トヨタ自動車 財務分析(4)ROS 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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