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ナッジで人の心理に働きかける(6)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学

経営管理会計トピック 経済動向を会計で読む
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■ 投資の世界の行動経済学PART2

経営管理会計トピック

2017年10月にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学リチャード・セイラー教授。彼の行動経済学の神髄は、合理性ではない人間心理を巧みに利用すること。前回は、「損失回避バイアス」「現在バイアス」を見ていきました。今回も摩訶不思議な投資の世界の心理学。投資の世界は数字の塊。数字を見ていれば合理的に判断できると思いきや、ここにも非合理的な人間心理が潜んでいるようで。。。

2017/11/26付 |日本経済新聞|電子版 行動経済学を味方にしよう 投資の落とし穴、ノーベル経済学賞の理論で回避[日経ヴェリタス2017年11月26日号]

「ノーベル経済学賞の授賞式が間近に迫っている。リチャード・セイラー教授の受賞で脚光を浴びた行動経済学は、合理的であるはずの投資の世界の珍現象をひもといてくれる。個人投資家が陥りがちな思考パターンなどを学び、落とし穴にはまらないように用心しよう。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

 

■ 「メンタル・アカウンティング(心の会計)」- 自分に都合よく心の勘定袋を使い分けていないか?

「人間は心の中でお金を目的別の勘定袋に仕分けている。貯金、生活費、夏の旅行代、投資といった区分だ。生活費から出すシャンプーや朝食用のハムの価格には5円10円単位で目を光らせるのに、夏の旅行代に含まれる「一日カヌー体験」などの料金は多少高くても支払うことにしてしまう。」

これは、食事代はけちけちと節約しているけれど、交際費となると気が大きくなって高額なお店で散財してしまう。知らず知らずの内に、人は支出項目ごとに脳内でいくつものお財布を分けているというお話。

会社組織でもあるあるかもしれません。同じ経費項目でも、花形のA事業部にはどんと気前よく、斜陽のB事業部には厳しく、そしてCV(コーポレート・ベンチャー)という名目を得たら、そこは誰のチェックもかからず、全ては経営者責任という美名のもとで。。。(^^;)

(下記は、同記事添付の「メンタル・アカウンティング(心の会計)のクセに注意」を引用)

20171126_メンタル・アカウンティング(心の会計)のクセに注意_日本経済新聞電子版

ここは架空のAさんのお話。ビットコインの相場は11月まで上昇を続け、残高はほぼ倍増。ビットコインは円に交換せずに保有し続けているが、含み益が生じたことで臨時収入が入ったように感じてしまう。そこで自分にご褒美ということで、高額出費となるレジャーにお金を使ってしまう。

しかし、相場の一寸先は闇。株価もビットコインも下落リスクは常にあり、含み益がいつ含み損に転じるとも限らないのが相場という世界。確定していない含み益だけで家計を見ていたら、資金繰りで窮することも。株主への説明責任のない家計簿はできるだけ現金主義で。当然、上場企業も会社を守るためには最終的に資金繰りが大事であることは言うまでもありません。

こういう心理状況が分かっているのなら、逆手に取るのはどうでしょうか。メンタル・アカウンティングのワナから逃れるために、用心深い投資家は自分なりのルールを課す「ナッジ(誘導)」を逆に自分に仕掛ければいいのです。

毎月の生活費を月初に引き出し、週毎の封筒に現金を入れておき、その封筒に入っているお金異常には無駄遣いしないようにするとか。銀行口座から現金を引き出すときに、カードはタンスの奥にしまっておき、必ず煩雑になるように、わざとハンコと通帳でしか現金を引き出せないようにするとか。

 

■ 「最終レース効果」- 負けている時に一発逆転を狙う誘惑に勝てるか?

「メンタル・アカウンティングが裏目に出やすく、注意が必要なのは「負けている」時だ。一発逆転を狙う誘惑に陥りやすくなる。行動経済学で「最終レース効果」と呼ぶ事象だ。」

例えば、とある個人投資家を例。銘柄の株式を購入したところ、数か月して株価が下落して含み損を抱えることに。ナンピン買いして挽回しようと思い立つ。通常ならリスクが大きく踏み出せない場合でも、負けが続くと、うまくいく可能性を過大に見積もる傾向が人間にはあるようです。

コイン投げや丁半サイコロなど、五分五分の勝負事でも、最初負け続ければその後に取り返すのは難しい。バカラとか。おっとこれは言いすぎました。

運用の世界のプロフェッションたちは、常に自分を戒めるために「失敗の記憶」を呼び起こすものを手近に置く手で、冷静な判断力を保ち続けようとする小技があるようです。

「ウィズ・パートナーズの石見直樹副社長は1980年代、英ロンドン駐在時の為替トレーダー時代に負けを取り返そうとしてさらに負けが続いた。「当時のシステム手帳を今も手元に置いて戒めにしている」と語る」

 

■ 「ハーディング現象」- 市場の経験則やアノマリーを逆手に取ることができるか?

「「5月に売れ」「申酉(さるとり)騒ぐ」「戌(いぬ)笑い」──。投資家が気にする市場の経験則「アノマリー」は数多い。アノマリーが有効になる背景を行動経済学では群集心理で説明している。人間は動物の群れのように、安心を得ようと知らず知らずのうちに周囲の人々に同調したり他人の行動に追随したりする傾向があり、これを「ハーディング現象」と呼んでいる。」

例えば、高配当銘柄や手厚い株主優待銘柄は、配当や優待の権利確定日に向かって株価が上昇する傾向があることが知られています。

(下記は、同記事添付の「配当や株主優待の権利を狙った売買には規則性がある」を引用)

20171126_配当や株主優待の権利を狙った売買には規則性がある_日本経済新聞電子版

相場の格言にもこういうものがあります。

人の行く裏に道あり花の山

「群れの効果で株価が上がるパターンを知っていれば、高くなる前に株を買っておき、権利確定日の前に売って値ざやを稼げる機会を狙えるかもしれない。」

 

■ 「ナッジ」は誰のもの? - 消費者個人も自衛のために行動経済学で武装すべき

セイラー教授は、非合理的な判断をしがちな人間の性向、そして誰かを気持ちよく誘導する仕組みさえあれば、ある程度の人間行動はコントロールできることを示しました。この手法を取り入れた商売人や大企業に騙されるな、という否定的なというか、感情的な批判の声もないこともないですが、それは、消費者や個人があらかじめ自分自身を誘導(ナッジ)する仕組みを自分で意識的に形成すればよいのです。

「ナッジ」は、生産者、企業、政府だけの特権ではないのです。

投資や人生に関わる選択と判断は最終的には自己責任だということを忘れずに。

(連載)
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(1)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(2)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(3)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(4)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(5)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学
⇒「ナッジで人の心理に働きかける(6)2017年ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授の行動経済学

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

コメント

  1. TK より:

    6回連載のリンク貼りました。通してご覧になりたい方はご参考に。