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組織管理(1)- 組織デザインを考える 「分業」の利益と「調整」コストのバランス

経営管理(基礎)
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■ 個人事業主でもない限り、ビジネスをするなら「組織」の話は避けられません!

経営管理(基礎編)

今回から、「組織」のお話をします。本シリーズでは、経営管理の領域として、
① 事業ポートフォリオ
② エンジニアリングチェーン
③ サプライチェーン
④ 組織
の4つがあるとお話しました。

経営管理(基礎編)_経営管理の全体像

最近は、IT技術の進展により、①コミュニケーション・コストが劇的に下がっている、②相手にする市場変化のスピードが速く、目まぐるしい変化に対応し続けなければならない、ことから、ある程度、静的(スタティック)に、あるべき組織論を語るのは、今時流行らないそうです。一昔前は、職場の同僚や同期と一緒に仕事帰りに飲み屋に立ち寄り、仕事のやり方や組織のあり方について、終電間際まで語り尽くしたものですが。。。

とはいえ、やはり基本に立ち返って、組織管理のお話を以下の4領域に分けてお話しせねば、「クラウドファンディング」や「メイカーズ」のような、最近の組織破壊を起こしている現象を真に理解できないと考えています。

経営管理(基礎編)_組織管理論の整理

1.組織デザイン
「分業」と「調整」のための集団内コミュニケーションが最も効果的に行われるように、ヒエラルキーや意思決定範囲・内容を公式化すること

2.業務プロセスの定義
個々の従業員による分業が最も効果的に行われるように、仕事の並びや職掌範囲を、顧客対応や、財やサービスなどの効率的提供の視点から組み直すこと

3.タレントマネジメント
仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、適材適所を実現し、仕事をスムーズに進めるため、①職場風土、②仕事に対する真剣な取り組み、③能力開発、④人材補強/支援部隊の強化の4つの視点からの取り組み

4.業績評価制度
従業員ひとりひとりの職務上の達成目標が何かを明確にし、その達成度を測定し、達成度に応じた報酬(昇進や名誉や金銭的見返りなど)を用意し、働き手のモチベーションを高める仕組み作り

■ 組織デザインに欠かせない2つの要素とは?

集団でお仕事をするために「組織」をわざわざ作るのですから、「個人」で仕事をするより生産性が高いとか、個人ではできない仕事ができる(財・サービスを提供できる)といった集団化のメリットが無いと、煩わしい組織化なんてことに誰も努力を傾けることはないでしょう。そのキーとなるのが、「分業」と「調整」です。

アダム・スミスが、『国富論』(または『諸国民の富』『諸国民の富の性質と原因の研究』)の中で、ピン製造の話でその高い生産性を証明して見せたように、分業することによって、より高い品質のものを、より低コストでより短時間でつくることができます。卑近な例で説明しますと、

・口下手だが精密な部品加工ができる職人
・社交的で明るい性格だが緻密な計算ができない商人
・手先が不器用だが、計算が早い会計士

の3人がそれぞれ、個人事業主として、ピン製造の工場主だった場合、10ずつの売上をあげているとすると、合計30の売上高。しかし、3人が力を合わせて、1日の労働時間をそれぞれが得意な分野に集中すると、単純に31以上の売上を上げることができそうな気がしてきませんか?分業することによって、それぞれの専門領域での高い生産性を発揮できると、組織全体の生産性も個人事業主でやっていた時より高まる。だから、煩わしいけど、より大きい果実(売上とそれに伴う利益)を得るために、分業のあり方を考えながら組織化を図るのです。

このように、自分の得意領域に特化して、専門家としての知識・技能をフル活用してより高い生産性(ひいては収益性)が求められるとすることを、「専門家利益」とよびます。好きこそものの上手なれ。上手ならば、他人と比べて、より早く、より短時間で、より品質の高い仕事ができるはず。

しかし、職人が注文残や在庫量を全く顧みず、ただひたすらピン加工だけしていたらどうなるでしょう? 商人が注文にこたえられるかどうかわからないのに、ただひたすら大量の注文を取ってきたり、職人が作れもしない品質の注文を取ってきたらどうなるでしょう? 会計士が経理担当として、資金繰りの状態を職人や商人に知らせずに、また逆に生産計画や販売見込みを顧みずに、必要な資金を金融業者から借りることを怠っていたらどうなるでしょう? 早晩、そんな工場は顧客が離れてしまい、資金繰りも上手くいかず黒字倒産してしまうかもしれないし、在庫の山を築くだけになってしまうかもしれません。

そこで、3人の専門家のそれぞれの得意分野に各自の貴重な労働時間を集中投下することを可能にしつつ、3人の間の仕事量のバランスを見て、うまく仕事を仕切る第4の役割、「調整」役の人が必要になります。

それゆえ、企業組織を作る、ということは、各自の専門家利益を享受するための分業が気持ちよくできる体制を整えると共に、専門家同士の仕事を上手くつなげて、集団としての生産性を最大化させるコミュニケーションのつながりを持たせる必要があります。つまり、「専門家チーム」の独立性(仕事のやりやすさ)を尊重しつつ、企業集団としての社内情報交換をスムーズにするための、コミュニケーション維持のパスを作る必要があるのです。他の専門家の都合を考えながら自分の仕事量や納期のバランスを取らなければならない。その上、調整役の人に払うお給料は、個人事業主の時には全く考えなくていいコスト。

「分業」の利益を最大限享受するためには、専門家が働きやすい環境を作らねばならない。しかし、あまりにも独立性が強く、他部署との連携がとれていないと、組織全体での稼ぎが悪くなる。しかも、調整作業もタダではなくコストがかかる。畢竟、組織デザインというものは、「分業」と「調整」のトレードオフの最適化を考える思考実験なのです。

■ では組織デザインの基本パターンをおさらいします!

「組織デザイン」が、「分業」と「調整」のバランスをとること、という原理原則が分かったところで、初学者向けの経営学の教科書に必ず出てくる組織形態パターンについて順に考察していきます。

経営管理(基礎編)_機能別組織

1.機能別組織
最も単純な組織形態で、別名「職能別組織」「職能制組織」とも呼ばれます。個々の組織は、生産とか、販売といった機能に応じて組織が分割されています。それぞれ、生産や販売の専門家利益が最大限発揮できる機能配置を目指したものです。産業革命後、しばらくは「少品種大量生産」に最もふさわしい組織形態として一般的でした。イノベーションのスピードがそれ程早くなく(商品の陳腐化が遅い)、部分最適の追求が全体最適になるケースに採用される形態です。専ら、「経験曲線」効果による職務の習熟度が生産性を左右し、ひいては高い収益性につながることが想定された組織配置です。

したがって、各機能組織の上に位置する経営管理職(図ではCEO職)の組織間調整の負担はかなり大きなものになります。機能組織間の利害対立に関する事案は全てCEO決済となりますので。しかも、機能別組織は日常的なオペレーション(サプライチェーンやエンジニアリングチェーンなど)を機能組織単位で分担・連携しているので、そうした利益相反事案が発生しやすいという欠点もあります。

 

経営管理(基礎編)_事業部別組織

2.事業部別組織
ある一定期間において、個々の組織ユニットが自律的に存続できるように活動できる単位に組織を分割したのが「事業部別組織」です。事業部の単位において、事業部長は全ての意思決定権を持ち、少なくとも日常業務運営権と人事権は掌握します。それゆえ、担当する事業内における意思決定スピードは格段に上がり、流動的な市場変動に即時対応できるのです。

(上記の例では、製品の親和性で事業を分割しています。実際には、相手にする市場、顧客、販売チャネル、垂直統合の場合は工程別、必要とする経営資源別に事業を定義します。その事業分割パターンはまた別の機会に。(^^;))

その一方で、会社全体で課題解決を図るレベルの大きな課題への対応(全社的な経営リソースの配分、特に事業部をまたがる人材配置、設備投資の優先順位付けなど)は、CEOマターとなりやすく、かえって組織の壁がそうした事案の事前調整コミュニケーションを阻害する要因となることが多々あります。さらに、機能部門の専門家利益を全社で享受することが難しくなります。例えば、白物家電の工場での生産管理の方式の大きな改善があったとしても、AV機器事業部傘下の工場への情報の伝播は、よっぽど事業部間の意思疎通に工夫がないとうまくいきません。

しかし、事業部長は事業部内のどんな些細なことでも決裁権があると同時に、その詳細を知っておかなければならないので、小さい会社を経営しているようなものです。将来の経営者のよい育成の場(孵化器)としての機能を持ち合わせていると考えられます。最近は、M&A事案も多く発生し、連結グループ経営も定着しました。こうした頻発する事業の売却や買収、連結グループの構成は、「事業」単位で考えられることが一般的です。それは、「事業」ごとの採算が分別することが容易だからで、それがミニ経営者としての腕を磨く場としても格好の舞台である要因の一つになっています。

 

経営管理(基礎編)_マトリクス組織

3.マトリクス組織
「機能別組織」では、生産・販売・開発等の機能を集約することで得られるコストダウンや、専門家利益が得られます。一方で、「事業部別組織」では、短期的な製品・市場適応の即応性と事業戦略の一貫性が得られます。多頻度の組織変更は、社員を疲弊させ、顧客や現場は混乱させるので避けたいところですが、毎年の組織変更が無い会社は皆無と言っていいでしょう。それは、「機能統合によるメリット」と「製品・市場への即応力」のバランスを経営者が絶えずモニタリングして、全社員の働き方を常に最適化させようとするからです。

そうしたバランスを取るのに、疲れた経営者は、「マトリクス組織」またはマトリクス的に意思決定権を機能組織と事業組織に配分する誘惑にかられ、それを実施することがあります。しかし、「マトリクス組織」は、機能軸と事業軸の上級管理者の権限が同一であったり、重複していたりすることが多いため、各現場にとって文字通り「ツーボス(two bosses)」となるので、指揮命令系統が乱れ、意思決定が遅れる要因となることが多い傾向にあります。これは筆者の実体験によるものですが、そうした煩雑さから逃れるため、現場に負担をかけてツーボスにしたところで、結局、ツーボス間の利害調整はCEOの職責になりますので、何ら自己負担の軽減にはなりませんよ。
(そういう経営権、意思決定の義務から逃避する経営者は経営者失格です!)

ここまで、組織デザインの基本形、基本パターンについて説明してきました。しかし、ここまでのお読みになられて、自社の組織図とはかなりかけ離れてイメージできない読者の方もいらっしゃるかもしれません。実際は、この3つの基本パターンの応用か、その中間形態が採用されます。「分業」の利益と、「調整」コストのバランスを取るのが「組織デザイン」の要諦であることを十分に理解してもらいたいので、基本に忠実に組織形態パターンを丁寧に説明しました。

この説明を十分に理解してもらったうえで、次回は、組織デザインの応用パターンと、最近の組織変更の事例をケーススタディしてみたいと思います。

経営管理(基礎編)_組織管理(1)- 組織デザインを考える 「分業」の利益と「調整」コストのバランス

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