コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(30)白パンの危険信号 同じレシピを使えば、同じパンができる

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■ 白パンとコンサルティングにどんな関係があるのか?

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページはこちら(英語)

ワインバーグ氏のこの優れた著書を大層気に入りブログで紹介しようと意気込んで筆を進めてきましたが、実は何か所か、ご紹介するのには結構骨が折れるので、思わず立ち止まってしまうポイントが何か所か存在します。これからご紹介するエピソードもそのうちのひとつになります。

それは、マーナ・オルデンハウザー夫人の白パンのお話です。最初に断っておきますが、糸を引くような物語なので、まず長文の事例を読まねばならない苦痛を強いられます。
(本書P60-63)

オルデンハウザー夫人は、栄養学に大変興味がありましたが、高価な食料品を買うほど裕福ではありませんでした。そこで、自分でいわゆるホームメイドのパンを焼くことにしました。その内に、ご近所様が夫人のパンの見事なことを聞きつけて、皆がこぞってお裾分けをせがみ始めました。あんまりにもパンが美味しかったので、中には特別にお金を出して余計にパンを作ってもらおうと依頼する人が出てきました。

夫人のパンの人気は鰻登りとなり、その内に彼女のオーブンはフル回転状態となり、ご主人が気を利かせてダブル幅のオーブンを夫人に買ってあげることにしました。さらに、子供たちをパン焼きのお手伝いから解放してあげるために、お手伝いさんを雇うようになりました。夫人が材料を買い求める地元の食料品店では、マーナの要求する上質の材料を供給することが難しくなり、マーナは卸売業者と話をつけて、ちょっと品質が落ちますが十分に入手できる一般市販級の品物を仕入れることになりました。

配達用のトラックを購入して2,3ヵ月経った時、あまりに交通量が激しくなったので、彼女は引っ越さざるを得ませんでした。そして、その内にいわゆるサプライチェーンが長大になり、パンを前日の半焼の状態で準備しなければ供給が追い付かなくなりました。しかも日持ちがするようにと、防腐剤を使わないといけない羽目になったのです。

そして、数十人にまで膨れ上がったお手伝いさん達に安定した職場を与えるために、夫人は会社組織を設立せざるを得なくなりました。そしてその会社の資金繰りのために、ますます多くの白パンを焼く必要が出てきました。現在、彼女はとある州の最大級の製パン工場を所有するに至り、何千という食堂や家庭のテーブルに彼女の白パンが届けられるようにまでなったのです。

 

■ 白パンの危険信号とコンサルタントが学ぶべき教訓とは?

このお話を、オルデンハウザー夫人の成功物語として、うらやましい、とか、彼女に学ぼうと思った人は、本書で描かれている白パンのお話の前後の逸話にも注意を喚起する必要があります。

まず、オルデンハウザー夫人は、そもそも、ウェリントン夫人印の白パンを味わっていて、彼女オリジナルの白パンを焼こうと決意したという事実が発端だということです。そして、やがて、オルデンハウザー夫人のパン工場が提供している白パンも、本書がいうところの、生煮えのデンプン・プディングの味がする不味い白パンであることも綴られているのです。

これが意味するところとは一体何なのでしょうか?

同じレシピを使えば、同じパンができる

という教訓を我々は必要な時に、きちんと思い出すことができるか? という教訓です。「歴史は繰り返す」というやつです。オルデンハウザー夫人は、製パン業を始める前に、きちんとウェリントン夫人の経営する製パン工場がどのように発展してきたかを調べる必要があった、ということです。

では、きちんと現状分析とか、競合分析、業界分析をすれば、上記の事例のような過ちは完璧に防ぐことができるのでしょうか?

結論を急ぐ前に、我々は、さらに次の2つのことを頭に叩き込んでおかなくてはならないのです。

(1)クライアントにヒアリングする際には、忍耐力が必要である
(2)ポイントはただ一つである、という嘘に学ぶ必要がある

(1)は、ずらずらとオルデンハウザー夫人の経営するパン工場がどうして現在のような姿になったのか、遠大なストーリーを仔細漏らさずトレースしていく必要性を説いています。
(2)は、そのトレースした物語の中には教訓とするべきポイントがひとつしかない、という思い込みを捨てるべき、というものです。これについて、もう少し考察を進めましょう。

 

■ 何を尋ねて、何を尋ねないで済ますか、それが問題だ!

この長大なオルデンハウザー夫人のお話を聞いた本書の中の主人公(コンサルタント)は、歴史的教訓から学ぶ必要性を十分に理解したと早計し、早速、クライアントに、依頼対象である「立て直すべき組織が抱える問題点とは何か」を尋ねようとします。それを、あのオルデンハウザー夫人の物語をとうとうと語ったクライアントがこう切り返すのです。

「だとしたら、あなたはまだ私のいいたいことがわかっていないのですよ。私があの部をどう組織したらよいか、もし知っていたのなら、自分でそうやったでしょう。もしあなたが私のあやまちを繰り返すつもりなら、あなたを雇ってみてもはじまりません。」

そもそも、自分たちでどうやるべきか分からなかったからこそ、外部の専門家としての経営コンサルタントに大枚を叩いて、クライアントは課題つぶしを依頼してきているわけです。そのクライアントに、「何が問題で事が上手く運ばなかったと思いますか?」と聞くのは愚問の極みと言わざるを得ません。

この気の利いたクライアントは次にもっと含蓄のあるセリフを口にしてくれています。

「いいえ。私がどうやったかを、ぜひ聞いてもらいたいのです。しかし、どうやったらよいか聞いてもらっても困ります。私が学んだのは、どうやってはいけないかだからです。」

どうですか、このセリフの意味深なこと、理解して頂けましたでしょうか?

過去に失敗した経験は、そうやってはいけない、という「べからず集」「教訓話」として聞き出すことに意味があります。しかし、クライアントに「どうやるべきか」という対策を聞いてはいけないのです。それは、聞き役である経営コンサルタントが自分の頭脳から捻り出すべきものなのです。それを安易にクライアントから得ようとは、コンサルタントの風上にも置けない、おっと言いすぎました。(^^;)

頂いたコンサルティングフィーだけの働きをするには、問題の所在をヒアリングから明らかにして、課題を整理し、解決策はまずコンサルタントの方から提示するという基本スタンスを忘れないという点において、コンサルタントの初動とスタンスを忘れないように、という大事な教訓がこの話から得られるということです。

さて、この話はここでおしまいになりません。続きがあります。それは次回で。このズルズル感。だからこのエピソードの紹介にはつい二の足を踏んでしまうのです。(^^;)

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