世界企業・日本の立ち位置(1)ROE、低いといわれるが… 資産効率、日本が米を逆転 8年ぶり、構造改革で

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■ 今度は「ROA」神話を掲げる当局の思惑とは?

経営管理会計トピック

日本政府が6月に公表した成長戦略「未来投資戦略2017」において、企業の稼ぐ力を測るモノサシの一つである「総資産利益率(ROA)」の改善を新目標に掲げたため、2014年の「伊藤レポート」で吹き荒れたROE狂騒曲から、曲調がROAに変わりつつあります。

2017/9/2付 |日本経済新聞|朝刊 世界企業・日本の立ち位置(1)ROE、低いといわれるが… 資産効率、日本が米を逆転 8年ぶり、構造改革で

「日本企業は欧米勢と比べて自己資本利益率(ROE)が低い――。海外投資家はたびたび言うが、モノサシを変えると異なる状況が浮かび上がる。2016年の主要企業の総資産利益率(ROA)は、日本が米国をわずかながら8年ぶりに逆転した。財務テクニックに頼らず地道に取り組んできた構造改革が、成果を生みつつある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ROAは日本企業が優勢」を引用)

20170902_ROAは日本企業が優勢_日本経済新聞朝刊

上記のグラフからお分かりのとおり、

2016年時点において、日本企業のROAは2.90%と、5年前と比べて0.37ポイント上昇したのに比べて、米国は0.36ポイント低下の2.89%。ドイツは1.35%と0.18ポイントの上昇にとどまり、日本企業の優勢を伝えています。

念のため、ROEとの計算ロジックの違いを今一度おさらいしておきます。

(下記は同記事添付の「ROAとROEの違いは財務レバレッジにある」を引用)

20170902_ROAとROEの違いは財務レバレッジにある_日本経済新聞朝刊

記事より解説部分の要約。

● ROA
①計算式:純利益を総資産で割って算出
②分母の意味:総資産とは、企業が借入金の活用も含めて積み上げた工場や店舗、現金などの全財産
③指標の見方:分母にある全財産を活用し、いかに効率的に稼いだかを示す

● ROE
①計算式:株主の持ち分である自己資本で利益を割って算出
②分母の意味:自己資本は自社株買いなど財務テクニックで減らすことができる
③指標の見方:株主目線の投資リターン、自己資本がどれくらいの利益率かを示す

これまでは、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)やスチュワードシップ・コードと、このROE偏重のガイダンスで、海外投資家を日本株式市場に呼び込むために、ROE上昇を各企業に呼び掛けていました。その薬が効きすぎて、100%以上の株主還元(配当+自社株買い)や、自社株買いと転換社債発行を組み合わせたリキャップCBで自己資産減らしが横行したため、当局は趨勢をまた中庸に戻すため、次はROA押しを始めた、と筆者は理解しています。

⇒「(真相深層)ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標「ROA」 – ROEとROAのどっちが使える財務KPIか?

 

■ 新聞記事のROEとROA比較解説を解説する!

ROAは、「売上高純利益率」と「総資産回転率」に要素分解されます。それゆえ、ROAという指標の解説もこの2つの部分に分解して行われるのが通常です。ただし、「売上高純利益率」は分子分母が対応していないので、それ単独での評価(特に%で表される比率に意味はない)は危ないので、あくまでROAやROEの分解要素の一つとしてだけ取り上げるようにしてください。

⇒「4~6月期決算番付(4)効率よくもうけたのは キーエンス、自動化追い風 – 売上高純利益率が単独では無意味な理由

● 売上高純利益率
「日本企業のROAを押し上げる原動力になったのは収益性の改善だ。ROAを構成する要素の一つである売上高利益率は、16年に約4.8%と5年前から約0.9ポイント上昇した。米企業は約9.2%と絶対水準は高いが、原油安による石油関連企業の苦戦が響いて5年前とほぼ同水準だった。」

現下は原油安に原因を求めていますが、日米企業のこの財務数値の彼我の差は倍半分となっています。このマージン率の違いは、次の総資産回転率と相まって、日米のビジネスモデルの違いを如実に表しています。

● 総資産回転率
「日本が約0.6倍で、米国の約0.3倍を上回る。岡三証券の阿部健児氏は「日本企業は総資産の膨張を抑えながら利益率を高めてきた」と分析する。」

この指標単独で見る限り、資産を効率よく使って売り上げを積み上げたかを示す「総資産回転率」という指標では軍配が日本企業に上がります、と解説しています。

 

■ 日米企業で好対照なROAの構成要素の違いの真の理由

日米企業がほぼROAが同じレベルで、日本企業の売上高純利益率が米国企業の半分ということは、同時に、総資産回転率が2倍であることを意味しています。お互いに、得意とする領域は異なえど、経営成績は同じという結論を導くことができるかもしれません。

しかし、それでは踏込み不足でしょうね。というのは、資産そのものの構成内容の質が日米企業では異なるからです。それは畢竟、売上高純利益率の彼我の差にも直結する原因なのです。

「総資産を自己資本で割って出す「財務レバレッジ」は約3倍と米国の4倍台より低い。同指標が高いほどROEを引き上げる効果があり、財務テクニックを駆使してROEをかさ上げする米企業の姿を映し出す。」

同記事にはこのように、高い財務レバレッジを許容する米国株主が存在することを暗に示しています。総じて、日本人株主より、米国人株主の方がリスク選好的だともいうのでしょうか? それは断じて違います!

理屈はこう。

米国企業の経営者は常に株主から、ROE最大化の圧力にさらされている。しかも短期的に。そのために、中長期的なR&D投資などにかまけていられない。そこで、すでに収益を上げている事業を含む企業、または研究成果を一定程度上げているベンチャーを買収することで、短期的な業績(利益)を上げることに執着する。買収先の資産(保有現金)を当てにレバレッジ・バイアウト(LBO)を仕掛けることもあれば、膨大な自社株を用いた株主交換で買収資金に充てることもある。

後者は、そのままだと一株当たり価値が下がるため、表面的にP/L上の利益が上がる事業(企業)をまた買いに走る。そういう自転車操業で、高い財務レバレッジと高い売上高純利益率を維持し続ける。ダメになった事業は売却し、よさげな事業を買いに走る。この高い事業売買回転率が、米国企業の利益成長や高収益率の秘密なのです。それゆえ、M&A(企業買収)に伴う「のれん」が膨れ上がることにより、「総資産回転率」が日本企業平均の半分になってしまうのです。しかも、買収先事業の売上高純利益率を高いまま維持するため、IFRSでは、のれん償却は原則しないことになっているおまけつき。

日本企業は自前主義で、製造業を中心に中長期の研究開発によるイノベーションとコストダウンで90年代までの競争優位を維持してきました。ここにきて、世に出る製品の技術的特徴が「インテグラル型」から「モジュール型」に変容してきたので、ますます、米国企業お得意のM&A中心の利益集塊が世にはびこる事態となっています。

⇒「働く日本人はAIを克服することができるか?(前編)補完財とモジュール化から考える
⇒「働く日本人はAIを克服することができるか?(中編)世界一のサービス品質と人間の顔が見える株式投資から考える
⇒「働く日本人はAIを克服することができるか?(後編)モジュール化 対 要素技術・匠の技から考える

ROEだと、ROAだと、当局が振りかざす今どきのイケてる財務指標は何か、という論議に迷わされることなく、どういうビジネスモデルでその財務指標が成り立っているのか、そして自社の得意不得意、創業の精神に立ち返って、どういう収益モデルを選択するのか、真剣に考えさせてくれる示唆成分を多く含んだ記事なのでした!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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