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限界利益の使い方の誤解を解く - 固定費があるから変動費がある。コストを固変分解する所に限界利益あり!

管理会計(基礎)
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■ どうして、あなたは固定費なの? と100回位は問いかけてほしい

最近、限界利益に関する質問をとあるクライアントから受けました。

「限界利益が黒字確保されるギリギリまで値引受注し続けていると、会社やばくないですか?」
「どうして制度会計の段階利益表示に『限界利益』が無いのですか? 制度ルールが認めていない利益は恣意的なものではないですか?」

基本からおさらいなのですが、

売上高 - 変動費 = 限界利益 …(式1)
売上高 - (製造変動費 + 販売変動費) = 限界利益 …(式2)

製造業において、制度会計の売上総利益(全部原価ベース)との差異管理をするためには、少なくとも上記の(式2)で変動費を把握しておく必要があります。

限界利益 - 固定費 = 営業利益 …(式3)
限界利益 - 製造固定費 + 販売変動費 = 売上総利益 …(式4)
売上総利益 - 販売固定費 = 営業利益 …(式5)

式3を見ただけでは、算出される利益が「営業利益」かどうか判然としません。厳密には、式4、式5のようにコストを区別しておくと、制管入り乱れるコスト・利益概念を整理することができます。

まとめます。

制度会計向けには、
売上高 - (製造変動費 + 製造固定費) = 売上総利益 …(式6)
売上総利益 - (販売変動費 + 販売固定費) = 営業利益 …(式7)

これを変動費と固定費にくくり直して、管理会計における限界利益を炙り出す、CVP分析や、固変分解の実施、直接原価の把握を行うことで、

売上高 - (製造変動費 + 販売変動費) = 限界利益 …(式2)

という『限界利益』算定式が求まるのです。

こういうコスト・利益概念に分解できるのは、コストが発生費目によらず、つまり製造原価か販管費かを問わず、「変動費」と「固定費」に分類できる状態にビジネスがあるとき限定です。コスト費目を眺めて、100回は「あなたは本当に固定費なの?」と問いかけてあげてチェックしてあげてください。(^^;)

(参考)
⇒「意思決定のための管理会計
⇒「長期的意思決定 CVP分析より(1)
⇒「長期的意思決定 CVP分析より(2)

 

■ 『固定費なき世界に限界利益なし』の意味とは?

固定費とは、例えば、製造ラインにおける生産設備を購入し、数年間かけて設備投資額を減価償却費として、その後、そのラインで製造した製品の売上高で回収する必要があるコストとしてイメージしてください。過年度の経営意思決定によって、今期、発生不可避となったコスト、今期の費用管理では支出をコントロールすることができない、正社員の給与(労務費)などです。

生産設備の購入を無かったことにする(耐用年数が終了する)、正社員をリストラして、給料の支払いをストップするまで、指をくわえて、費用計上(原価計上)されるがままになっている時間軸における損益管理業務においてのみ、限界利益と固定費が存在し得ます。つまり、長期的(具体的には数年から十数年の間)には、あらゆるコストは固定費ではなくなります。

つまり、コスト発生を回避できない固定費を最大限の効率や生産性で変動費を抑制するか、最大利得が得られる商談によって回収するしか、固定費を損益管理することはできません。

<ケース1>
タコ焼きを100個作りました。閉店間際に10個売れ残っています。材料費や労務費(アルバイト代)、ガス代など、発生・支出を無かったことにできない全てのコストが、閉店間際には固定費となってしまいます。通常は変動費扱いとなる材料費に至るまで。こういう場合は、大幅に値引きして1円でもコストを回収するように努めます。

これが、制度原価計算(全部原価ベース)で言うところの、赤字受注・販売でも、利益貢献する、という文脈の真の理由です。作ってしまったタコ焼きは、冷凍保存して社員・アルバイトが食さない限り、全て廃棄処分となり、全額廃棄損となります。1円でもプラスの値段で販売すれば、廃棄損の影響を少しでも和らげることができるのです。

(参考)
⇒「値決めと管理会計
⇒「原価計算 超入門(7)全部原価と直接原価の違い

 

■ 『固定費回収を合言葉に値引する営業部長がいる会社は倒産する』の意味とは?

致し方が無い、在庫廃棄処分の損失を和らげるため、値引販売(赤字受注)が常態化してしまうとどうなるでしょうか?

<ケース2>
とあるアパレルメーカーで、いつもシーズン終わりに大量の在庫が発生して、常にバーゲンセールで在庫を少しでもはけるようにしています。バーゲン価格を付けないと、毎シーズンごとに在庫の半分も捌くことができない状態になっています。つまり、正貨販売で、在庫廃棄損をカバーできない場合、間違いなく、どうにか限界利益が黒字でも、中長期的に固定費が回収できずに大きな損失が残り、資金繰りが続かず、銀行取引停止に近づくことになります。

制度会計では、全部原価(簡単に考えると固定費込みの原価)があるべき原価です。これは、企業がゴーイングコンサーンとして、ビジネスを継続するために必要な利益水準を示すものだからです。

一方で、固定費が存在する短期的な意思決定に迫られている時に、全部原価(固定費を全額回収できる水準の原価)でしか、製造や販売をしないという社内ルールに縛られている場合、羹に懲りて膾を吹く。一時の選択的製造や販売機会を逸失してしまい、大局的に固定費の回収機会を永遠に失ってしまいます。

例えば、生産能力が余っている時に、限界利益がプラスのスポット生産の注文が来た場合、その注文は受けるべきです。余剰生産能力の減価償却費が少しでも回収できるからです。

例えば、売れ残りの在庫の廃棄期限が迫っています。半額なら引き取ってもいいという取引相手が現われました。でも、半額で販売してしまうと、全部原価ベースでは赤字になってしまいます。その注文には応じて、在庫廃棄損を少しでも緩和させるべきです。

しかし、『限界利益がプラスの場合、商談に応じてもいい』というセリフは劇薬に違いありません。

(理由1)中長期的には、固定費総額を回収できずにビジネスが立ち行かなくなってしまう
(理由2)常に、バーゲン価格で販売してくれるという評判が立ってしまうと、誰も正貨で購入してくれなくなり、ブランド価値が毀損してしまう

限界利益というものは、固定費があって初めて存在し得ます。ビジネスの持続可能利益は、固定費を回収した上で、どれだけ利益を企業に残せるかどうかの利益水準であらねばなりません。

何十年かけたR&D先行投資の回収計算、数年先まで利用予定の生産設備投資の回収計算は、会計年度を超えた先行投資が有効な期間にどれだけの限界利益で回収することができるかでその良否が左右されます。限界利益は限りなく、設備投資の意思決定基準として、キャッシュフローに違い利益概念として役立ちます。しかし、その限界利益のプラスだけに拘泥していては、そのプラスを言い訳にしているビジネスは、やがて終焉を迎えるは必定なのです。

バカに持たせる道具で一番怖い部類に入るのが「限界利益」。使い方は計画的に。(^^;)

⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(2)基本モデルを理解する - 数式モデルの成り立ちについて
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(3)基本モデルを理解する - チャートモデルで可視化
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(4)チャートモデルを味わい尽くす - ビジネスモデル分析や利益モデリングを試みる!
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(5)変動費型モデルと固定費型モデルの違い - 決算短信における業績予想の修正のカラクリ
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⇒「CVP分析/損益分岐点分析(7)決算短信の業績予想修正の根拠を探る旅②線形モデルで増収率10%かつ増益率30%は1点だけ
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