ソニー、最高益へ「決意」 現金収支重視、IRで発信 実態捉えムダな投資削減 – 事業ポートフォリオ管理に必要なこと

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■ なぜ会計的利益よりキャッシュフローによる業績開示が好まれるのか?

経営管理会計トピック

好決算の発表を続けるソニー。巷では昔日のソニーを懐かしみ、足元の業績に対して懐疑的な向きもありますが、平井社長の下、製品単体の売り切りとは異なり、安定した顧客基盤から継続的に収益を稼げるビジネスモデルを指すリカーリング・ビジネスを標榜して、業績回復したのは確かなようです。

2017/10/19付 |日本経済新聞|朝刊 ソニー、最高益へ「決意」 現金収支重視、IRで発信 実態捉えムダな投資削減

「ソニーが2017年から独自のキャッシュフロー(CF)計算書の開示を始めた。投資家向け広報(IR)を強化する一環だが、財務規律の重視という社内外に向けたメッセージでもある。借入金による増減ではなく事業の現金創出力に焦点を当てる指標の採用は、営業最高益に向けた同社の「決意」を示している。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ソニーは前の期末から1年間でキャッシュがどう増減したかを示すCFを開示」を引用)

20171019_ソニーは前の期末から1年間でキャッシュがどう増減したかを示すCFを開示_日本経済新聞朝刊

今期の会社予想営業利益の水準は前期比7割増の5000億円で、20年ぶりの過去最高益も視野に入ってきました。そのうえでのCF重視のIR戦略。どういった意図が隠されているのでしょうか。

記事によりますと、財務とIRを担う村上敦子執行役員へのインタビューから、
「次はCF」。「2次電池など不採算事業からの撤退が一巡し、本業のエレクトロニクス部門が安定的に利益を生むことができるようになったソニー。収益性のさらなる向上に向け、同社が評価軸に据えたのは現金を生み出す力を映すCF」を重視するとのこと。

記事の書きっぷりの問題だと思いますが、ソニーIR担当者が会計的利益を軽視しているようにはどうも思えません。

■ 会計的利益とキャッシュフローとでは現金の入りと出の動きの捉え方が違うだけ

どうして会計的利益よりCFの方が、IRでもてはやされるのでしょうか。利益が示す収益力よりキャッシュフローが示す収益力の方が質・量ともに格が上だとは思いません。期間損益(会計的利益)は、収益獲得に要したコストを期間費用として計上することで、期間損益計算を行います。300億円の設備投資を行い、3年で回収するなら、初年度の設備投資にかかったキャッシュ・アウト・フローは、毎年100億円ずつ、減価償却費という形で損益計算書に計上されていきます。一方で、キャッシュフローの方は、初年度に300億円全額をキャッシュ・アウト・フローとして計上します。

企業活動を疑似的に1年間で締めた時の、収益費用バランス、現金収支バランスがたまたまずれるだけで、3年トータルの累積値で、その設備投資したビジネスの採算を測るのならば、結果は同じになります。

(参考)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(1)
⇒「管理会計的に『儲け』を測る(2)

ソニーのIR担当者と日経新聞の記者の間には、こういう理屈ではない別の思いを込めた記事内容になっているようです。それは、期間損益計算とキャッシュフロー計算の理屈のどっちが正しい業績指標であるかという、いたずらに、理屈をこねまわす視点ではなく、財務規律、事業部は自分が稼いだお金の中から次の投資に回すのだというセルフファンディングの考えを外部利害関係者に強調して見せ、それでも超過キャッシュインフローがあった事業部が、本当に儲けているのだよ、という2つのメッセージを発したいから、という点を読者に伝えたかったのだと思います。

 

■ 記事掲載の現金収支の表は、ソニーオリジナル

IR向けの社外利害関係者への投資判断に資する情報の開示という意図である一方、記事掲載の上記の現金収支の表は、ソニーオリジナルですので、絶対値として、他社と単純比較していい悪いがすぐに判別できる代物ではありませんし、それ自体が会計監査を受けた財務諸表ではないことには留意すべきです。

⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について
⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(4)経営成績を過大表示する指標の提示 - 利益とキャッシュフローの代替指標によるごまかし

しかし、そういった辛口な目線から見ても、この現金収支表はよくできた代物だと思います。

「資金の流れを測る上で重要なCFだが、ソニーが開示するCF(金融を除く)は事業が現金を稼ぎ出す能力により焦点を当てたのが特徴だ。前の期の現金収支の状況をスタートに置き、営業や投資、財務活動に伴う収支を反映する。ここでは、通常は財務CFとして算入する借入金の返済や資金調達に伴う資金の増減は考慮しない。」

ふつうは、単純に、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローをフリー・キャッシュ・フロー(FCF)と表記し、極言すれば、当期純利益と減価償却費の範囲内で設備投資へのキャッシュアウトを賄っているかどうかを外部に示す決算発表資料が大多数でした。

しかし、ソニーによる現金収支表は、現預金と有利子負債の差額概念になっており、これが、有利子負債の新規借入と返済以外の要因で期中にどう増減したかを示すものになっています。

「「借り入れを増やせば手元資金が増えるのは当たり前」(村上氏)。借り入れに伴う資金の出入りはあくまで別物とみなし、期中の増減要因から除外する。業績回復による社内の気の緩みが懸念されるなか、より実態を厳しく捉えて無駄な投資を削減する狙いだ。」

社外の利害関係者向けというより、それ以上に、社内の各事業・カンパニー別の責任者向けに、セルフファンディングで資金繰りを意識した事業経営をしてください、というメッセージ性の方が強い印象を持ったのは筆者だけでしょうか。

最後に、老婆心ながら一言。現金収支でもEVAでもどんな指標を使おうが、PPMのようなフレームワークを使おうが、事業ポートフォリオ間の資金移動はとても大事な事業別採算管理の要諦になります。要は、どんな指標でも使う人次第ということ。

さらに、そのレベルになれば、会計的利益かキャッシュフローかという収益性指標の定義の違いは小さいことですし、常にセルフファンディングというシーリングを厳格にかけるだけでは、ダイナミックな事業再編や新規事業育成を実現することはできません。やはり、そういう事業ポートフォリオ管理の要諦は、定量的指標としてはなかなかIR的に外部開示されにくいようですね。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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