予算管理(1)予算と計画の水平線 - 計画と予算の種類と体系

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■ 予算と計画の違い

いの一番にこの領域のお話をするにあたって突き当たる壁が、「予算(Budgeting)」と「計画(Planning)」の言葉の定義です。

予算
[名](スル)
1 ある計画のために、あらかじめ必要な費用を見積もること。また、その金額。「予算を立てる」「建築予算」
2 国または地方公共団体の一会計年度における歳入・歳出の見積もり。議会の議決を経て成立する。
3 あらかじめ見積もること。あらかじめ考えておくこと。
「細君はちゃんと主人の寿命を―して居る」〈漱石・吾輩は猫である〉
出典:デジタル大辞泉(小学館)

計画
[名](スル)ある事を行うために、あらかじめ方法や順序などを考えること。また、その考えの内容。もくろみ。プラン。「計画を立てる」「計画を練る」「工場移転を計画する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)

私企業における一般的な予算制度や経営計画制度をざっと概括するに、

「計画」
1) あらかじめ、企業活動の予定(活動目標、活動項目、担当者、スケジュール、財務的収支予測など)を明確化する
2) 30年におよぶロードマップ、3~10年程度の中長期計画、四半期~1年の利益計画、月次活動計画など、策定期間は選ばない広義の考え方
3) 全社、事業部、設備投資案件、顧客別や地域別といったセグメントなど、策定単位は選ばない広義の考え方
4) 財務的収支、いわゆる計数とか会計数値で表現されるものと、施策や体制や目的など、言葉で表現されるものの両方を含む

「予算」
1) 様々な計画において、特に財務的収支に基づき設定される計数や会計数値で表されるもの
2) 企業内における公式な制度に基づいて設定されるもの
3) もっとも一般的なものは、会計期間(決算期)に基づく、単年度財務予算(利益予算)

という風に、ざっくりと脳内で識別して、複数のクライアント先でアドバイスを行っています。しかし、各社で用語に込めた「言霊」はそれぞれに違うので、よっぽどのことが無い限り、その会社の用語に合わせるようにしています。ただ一つ言えるのは、同じ社内でも、人によって呼称がさまざまであるケースも多いということです。

一般的には、「計画」が広義で「予算」がそれに含まれる。「計画」は数字と文字とでできており、「予算」は数字が中心、と理解しておけば8割方は間違いがないでしょう。

 

■ 予算と計画の体系と種類(定説)

これも、学会や実務の双方において極めて多義的であり、論者によってさまざまです。その神々の争いに、筆者がおっとり刀でこれから参入するつもりはありませんが、読者がどの辺の話をしているのか、見当をつけてもらうために、強いて言うならということで、極めて広義に「予算」「計画」の見取り図を整理したいと思います。

ちなみに、「原価計算基準」には、原価計算の目的として、「④予算管理目的」「⑤基本計画設定目的」というものがあり、便宜上、筆者が名称を多少変えていますが、そこでは、

1)基本計画(戦略的意思決定)
2)個別業務計画(戦術的意思決定)
3)期間業務計画(短期利益計画、いわゆる単年度予算)

の3つで定義・分類されています。その心は、何の意思決定をするのか、計画設定者が主体となった分類になっています。

原価計算(入門編)期間計画と基本計画の相違
原価計算(入門編)予算管理目的と基本計画設定目的の関係

⇒「原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?

 

■ 予算と計画の体系と種類(筆者の整理)

これをもう少し、見える水平線を広くして体系図にまとめてみる努力をしてみます。

業績管理会計(入門編)計画・予算の体系_2

(1)経営計画
長期的な視点で、経営目標を定め、そのための経営戦略を公式化し、戦略実行のためのヒト・モノ・カネといった経営資源を手配します。計画は立てっぱなしではなく、適時モニタリングされ、定期的にレビュー・振り返りと見直しをする必要があります。

(2)基本計画
「経営計画」を2つの視点から細分化・具体化します。ひとつは「時間軸」、もうひとつは「組織軸」です。計画は達成されねば意味がないので、いつまでにどういった行動が起こされ、その成果はいつ刈り取るのか、時間軸で考える必要があります。また、その戦略実行や成果の発現は、誰のどこそこの組織や管理単位なのか、対象を、責任会計制度と絡めて明確にする必要があります。

(3)個別計画
企業活動の個々の執行計画を定めていく必要があります。企業全体の目標を達成するために、各組織や機能がどういった権能を発揮できるのか、具体的にしていく営みです。

(4)投資計画
これは、投資採算という期間損益計算を超えたレベルでの業績予測と、そのための実行プランの合理性・納得性・課題解決性が十分に担保されているかを見極める必要があります。企業業績は最終的に、会計数字で株主に報告されねばなりません。したがって、この領域の投資判断の良否は、B/Sや企業価値といった数字で最終判断されることになります。

(5)個別業務計画
顧客に提供する製商品/サービスの値付け(プライシング)は、そのまま利益計画に直結します。また、自製/購買といった、経営の構えは、減価償却費や設備投資、固定費や変動費といった会計要素で採算を作り込んでいきます。そこでは、差額収支計算など、どちらかというと、意思決定会計という領域で用いられる会計技法を揮うことになります。また、従来の予算管理技法として、変動予算というものもここに含めることができます。

(6)単年度予算(総合予算)
各社の経営サイクルの長短に影響されますが、一般的には、決算期ごとに、財務諸表に基づく計数計画=予算を立案することになります。配当金支払や、株主総会での決算発表や予算公表など、経営者(取締役会)と株主間のプリンシパル=エージェント理論に基づいた、会計責任の明確化が根底にあります。

(7)損益予算
従来の費用収益アプローチでは、B/Sは期間損益の連結環の位置づけなので、損益予算というと、P/Lはもとより、広義ではB/Sを含みます。

(8)CVP分析
期間損益予算を達成するために、期中のSCMやS&OPという管理活動を整斉と回していく必要があります。その際、期間損益という業績評価をする時間軸では動かしがたい与件としての生産能力の構え(工場の規模とか設備投資の結果、発生回避不能な減価償却費など)などは、コントール変数外なので、限界利益と損益分岐点をもって、期中の計数管理をするためのものです。

(9)資金予算
会計的利益は、実現主義、発生主義に基づいて、収益と費用(原価)が計算されるので、実際の現金(キャッシュ)の動きと微妙にずれています。これが、資金繰りの視点で経営にインパクトがある場合、損益予算と表裏一体で、資金繰り計画を裏で走らせて、資金ショートの悪影響、いわゆる黒字倒産を防ぐ動きを必要とします。

(10)財務予算
マクロ的には、経営構造を変えるためのM&Aや巨大な設備投資をするために、追加的資金の調達が必要になる局面があります。また、株主からの期待から構成される株主コスト、有利子負債につきものの、支払利息など、資本調達にかかる資本コストの最適化を図る必要もあります。こうした、企業と金融市場間の資金調達と借入返済などといった、お金の出入りもあらかじめ、計画されている必要があります。経営者が経営判断を下そうとしても、手元に軍資金が無いと何も手が打てないという事態が発生することを回避するために。

まずは、「予算管理」を語り始めるためのイントロダクションとして、「計画」「予算」という言葉が持つイメージ合わせをしてみました。如何でしたでしょうか?

⇒「原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰
⇒「原価計算基準(20)原価計算の一般的基準 ③予算管理のための一般基準 – 製品別原価予算管理の難しさは半端ない!
⇒「ストレッチ予算の功罪と予実差異の上方乖離の罠とは?
⇒「予算管理でPDCAが回せている自信ありますか?

(連載)
⇒「予算管理(1)予算と計画の水平線 - 計画と予算の種類と体系
⇒「予算管理(2)予算管理プロセスの位置づけ - マネジメント・コントロール・プロセス、PDCAサイクル、ECMやSCMとの関係から
⇒「予算管理(3)予算管理の目的と機能 - 古典に学ぶ「計画機能」「調整機能」「統制機能」の意味とは
⇒「予算管理(4)予算管理の誕生と構造化の歴史 - 予算編成、予算管理、予実差異分析、予算統制の違い

業績管理会計(入門編)予算管理(1)予算と計画の水平線 - 予算の種類と体系

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