制度会計と管理会計(2)制度会計は過去、管理会計は未来を見ている はもう古い!

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■ 時間軸で「制度会計」と「管理会計」を考えてみる

このテーマは、筆者としてはコラム風にしておかないとシャレにならないので、つらつらと口語的に連載していきたいと思います。この新年度でビジネスパーソンの仲間入りをしたフレッシュな方々にも、会計とは、を語る機会が多く、本ブログでも思いを記しておこうと思います。

「制度会計」と「管理会計」。

制度会計は、ディスクロージャー制度に基づき、企業業績に関する実績情報を「決算書」として財務的状況を詳らかにステークホルダーに公開し、企業業績に対する理解を求めるためのものです。一方、管理会計は、将来に向けて企業を儲けさせるために、経営者に対して、様々な経営判断のためのインプット情報を提供するためのものと一般に考えられています。

制度会計:過去決算情報をステークホルダーに提供するもの
管理会計:将来業績情報を経営者に提供するもの

こういう紋切り型の区分が一般に流布しているために、制度会計ルールに従った決算情報を見せられても、将来経営予測に基づいた経営の打ち手を考える材料にならない、そんな昔の情報は役に立たないと、制度会計は切り捨てられることも多々あります。

ここには、2つの誤解というか、新しい会計数値の見方の変化が隠されています。

 

■ 本当は多くの将来予測計算から成り立っている制度会計数値

以下に、将来予測計算を含んだ制度会計ルールを例示列挙してみたいと思います。

● 税効果会計に係る会計基準
会計上は損金にならない費用にかかる法人税等を、将来十分な利益(≒益金)が計上されることを見越して、繰り延べ税金資産を積んで、当期の期間費用を将来に繰り延べる。

● 固定資産の減損に係る会計基準
固定資産の帳簿価額を固定資産の割引前将来キャッシュフローが下回っていると判断した際に、減損損失を当期に計上する。割引前将来キャッシュフローは、その固定資産を使用し続けて継続するビジネスから将来時点で得られるキャッシュフローを意味する。

● 企業会計基準第15号 工事契約に関する会計基準
受注工事について、見積工事原価総額が請負金総額を上回る可能性が高いと見込まれ、かつ、その損失見込額が合理的に算定できる場合に、工事損失引当金を計上し、当期費用に計上する。

● 企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準
有形固定資産の将来における除去に関して発生が見込まれる費用、例えば、原子力発電所を廃炉にする際の解体費用などが合理的に判明している場合、将来の負担額相当分を当期の負債に計上して将来の現金支出に備えておく。

● 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準
勤務費用、一定の期間にわたり労働を提供したことなどの事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される金額を退職給付引当金として、当期費用として計上する。

時空を超えた業績予測や会計的見越し計算に基づき、当期の期間損益に加味されるべき(主に)費用は、きっちり当期のP/Lとその相手科目をB/Sに計上することで、制度会計ルールに準拠した財務諸表(決算書)が仕上がるのです。こうして考えると、制度会計が過去だけを見て、実績値のみを開示しているので、そんな死亡診断書を見ても、会社の将来業績の予測や経営判断には使えないよ、という批判はまったく筋違いであることがお分かりになるかと思います。

「昨日? そんな昔のことは覚えていない。今夜? そんな先のことは分からない」
(ハンフリー・ボガード 映画「カサブランカ」より)

そんな、嘯きは通用しないのが、昨今の制度会計なのですよ。

 

■ どうして多くの将来予測計算が制度会計に盛り込まれているのか?

従来の会計観は、当期業績主義が中心でした。ひとつの会計期間(通常は1年)の間のフロー業績、即ちP/L上の当期純利益が毎年更新され、1年1年ごとに企業業績判断を行っていたのです。業績管理は1年ごとの積み重ね、もしくは、1年ごとに区切って、業績評価が仕切り直されていました。

これは、プロダクト型経済、買って作って売る、というビジネスサイクルを永続的に繰り返し、どの始まりからどの終わりまでがいつ終わるのか、ビジネスサイクルが会社の中に多数存在するので、スタート・エンドのタイミングをいつ、とひとつの時点に定めることが不可能であるため、人工的に決算期という業績評価のための期間を設けて、その間のフロー、収益と費用を計算し、その差額概念である期間利益で、決算期の企業業績を測定することにみんなが慣れてしまったからです。

それゆえ、過去実績を見ても、将来予測はできないですし、過去実績は当期実績と比べることで、当期業績が前年比で上向いたのか下向いたのかを測定するために間接的に使用するだけの数字と捉えられていました。

しかし、企業活動は永続的に行われる前提、すなわち、「ゴーイング・コンサーン(継続企業)の公準」に基づき、費用収益の見越計上など、経過勘定を用いて、①業績予測の反映、②現金収支と期間損益計算のギャップ調整、を行い、制度会計上の財務諸表が作成されることを忘れてはいけないのです。

⇒「企業会計の基本的構造を理解する(5)「会計公準」とは ①企業実体、②継続企業、③貨幣的評価の3つから成る

 

■ もうひとつ、IFRSによる公正価値、時価主義会計の影響もある!

企業活動と企業を取り巻く経済環境が変化し、企業会計もそれに合わせて計算構造を変えていく必要が出てきました。会社そのものをディール(売買)対象とするM&Aが常態化するようになりました。武田薬品工業のシャイアー買収や、富士フイルムによる富士ゼロックスと米ゼロックスのいわば経営統合など、買って作って売る単位のビジネス採算を計算するための会計から、企業価値を算出するための会計も世の中から要請されるようになったのです。

この様に、企業自体を取引対象とする経済情勢をファイナンス型経済と呼びます。プロダクト型経済における企業活動の業績評価としては、取得原価主義に基づき、当期業績を制度会計は表していれば事足りていました。それはP/Lを見ることで何とかしようと。しかし、M&Aのために会社の値段を知りたいという要請に応えるためには、企業の公正価値(時価)を常にB/Sに表示することで何とかしようと。

こうして、企業のその時点での公正価値、M&A時の適正価値をできるだけ表現・把握しておきたいために、割引現在価値に近い将来予測計算に基づくB/Sを算定したり、包括利益計算を行ったりすることを、制度会計に求められているのです。ですので、従来は、管理会計は制度会計ルールに基づく期間損益計算が経営判断に使えないとして、CVP分析や、直接原価計算に基づく期間損益予測を行っていましたが、もはや制度会計に基づく期間損益やB/Sでの純資産額など、小馬鹿にして看過される時代ではなくなったのです。

常に、その時点での企業価値を把握するための会計技法について、新しい制度会計ルールをきちんと理解した上で、諸処の管理会計というか、その企業独自の企業価値把握、企業価値向上のための施策評価の計算技法とはどういうものかを真剣に考えなくてはいけない時代になったということなのです。

それゆえ、従来の制度会計、管理会計の線引きや特徴を引きずって、どっちの数字が経営判断に使える/使えない、真の企業業績を表しているかという議論をする暇はもう与えられていないのです。これで、筆者が、制度会計VS管理会計の議論に積極的に参加し、どちらかの肩を持つような立場にないことを理解して頂けましたでしょうか?(^^;)

↓下記、制度会計と管理会計の代表的な入門書、いずれを読んでも、底辺に「企業価値とは?」という問いに会計が答えようとする等しい精神に貫かれていることの真の理由がここにあるわけです。

(連載)
⇒「制度会計と管理会計(1)「比較」するという視点からは共通の性質を持っている!
⇒「制度会計と管理会計(2)制度会計は過去、管理会計は未来を見ているはもう古い!

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