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親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(2)ソフトバンク親子上場に伴うコーポレートガバナンス問題とコングロマリット・ディスカウント問題を斬る!

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ ソフトバンクグループが傘下のソフトバンクを親子上場!

経営管理会計トピック

親子上場は近年、コーポレートガバナンス重視の風潮と、その真因である海外機関投資家を日本市場に呼ぶこむために解消される傾向にありました。しかし、低金利(日欧ではマイナス金利)政策に伴うカネ余り現象が、世界中の株式取引所間の企業誘致競争を激化させ、そのあおりで、規律が緩んでいるのではと言われても仕方のない親子上場や種類株式の発行要件を緩めることを許容する現状であることを前回確認しました。今回は、個別ケースにあたる親子上場とさっくり内容確認したいと思います。

2018/1/15付 |日本経済新聞|朝刊 ソフトバンク、携帯会社を年内に上場 2兆円調達、戦略投資に

「ソフトバンクグループ(SBG)は傘下の携帯事業会社ソフトバンクを東京証券取引所第1部に上場させる方針を固めた。年内の上場に向け東証などと近く本格的な調整に入る。資金調達額は2兆円程度で、過去最大規模の新規株式公開(IPO)になる見込みだ。財務体質の悪化を避けつつ、調達した資金を新たな成長分野へ投資する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ソフトバンクグループ(SBG)の構成」を引用)

20180115_ソフトバンクグループ(SBG)の構成_日本経済新聞朝刊

調達した資金は、主に次世代通信規格「5G」への設備投資負担に応えるためと一般的には受け止められています。

以下、同記事によるソフトバンクグループ(SBG)による傘下の携帯事業会社ソフトバンクの親子上場の概観を要約させていただきます。

1)ソフトバンクを上場後もSBGは7割程度は保有し続け、残りの約3割を投資家に売り出す
2)日本市場だけでなく、英ロンドン証券取引所など海外市場にも同時上場させる方向で調整
3)調達資金は負債の返済ではなく、海外のIT企業への出資などに充てる
4)SBGの有利子負債は17年9月末時点で約14兆円と巨額で、自己資本比率も17年3月期で14.6%と低いため、この親子上場を財務体質の改善につなげる思惑もありそう

ここからは、SBGの上場規制に対する戦略に踏み込んだ解説です。

5)上場企業の子会社が東証1部に上場する場合、親会社は持ち株比率を65%未満にとどめなければならない
6)しかし、当該会社が海外の市場に上場している場合は、この規定が緩和されることがある
7)そのため、そもそもビジョン・ファンドの本拠地がロンドンにあり、ソフトバンクの知名度も高いことからロンドン証取への上場を視野に入れていると思われる

「一般的に、親会社と子会社が同時に上場する際は審査項目が多くなる。親会社の影響が強いため、子会社が独立した経営判断をしているかどうかを確かめる必要があるためだ。今後は日本取引所グループ傘下で上場の可否を決める自主規制法人の判断も注目される。」

 

■ (ちょっと横道に逸れますが)日本取引所自主規制法人について

日本取引所自主規制法人(JPX-R)は、日本取引所グループの子会社で、金融商品取引法に基づく、取引所市場における自主規制業務を専門に行う日本唯一の法人です。最近では、不適切会計で取り沙汰された東芝の上場維持を承認した件でやり玉に挙げられた組織です。

2017/9/18付 |日本経済新聞|朝刊 取引所の番人、形式主義と一線 自主規制法人 発足10年 東芝問題 問われる真価

「上場企業の審査などを手掛ける日本取引所グループの自主規制法人が発足してから10月で10年を迎える。東京証券取引所から分離した当初はルールに基づいて粛々と審査する姿勢が強かったが、現在は自ら規範づくりに関わるまでに変化した。背景には、投資家保護といった市場のあるべき姿を重視して規制を運用しようという姿勢への転換がある。」

(下記は同記事添付の「取引所から独立した立場で自主規制業務を担う(日本取引所グループの組織図)」を引用)

20170918_取引所から独立した立場で自主規制業務を担う(日本取引所グループの組織図)_日本経済新聞朝刊

同記事において、日本取引所自主規制法人が変わってきたと言われたのが、2014~16年の間に上場企業向けに2つのプリンシプル(行動原則)、資金調達をする際の留意点をまとめた「エクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)のプリンシプル」と「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を公表したことです。

(下記は同記事添付の「上場企業の規範作りに積極関与してきた」を引用)

20170918_上場企業の規範作りに積極関与してきた_日本経済新聞朝刊

ルールベースでは対応しきれなくなってきたので、IFRSやコーポレートガバナンス・コードと同様のアプローチで規律をということで、「エクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)のプリンシプル」として以下の4つのプリンシプルを公表しています。

第1 企業価値の向上に資する
第2 既存株主の利益を不当に損なわない
第3 市場の公平性・信頼性への疑いを生じさせない
第4 適時・適切な情報開示により透明性を確保する

(参考)「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」について|日本取引所グループ
(参考)エクイティ・ファイナンスの プリンシプル – JPX(PDF)

ここでは、本件についてはプリンシプルの存在を指摘するにとどめ、今後、同法人がどのような判断を下すか注目していきたいと思います。

 

■ 引き続き、ソフトバンク親子上場の特徴と留意点について整理します

よく親子上場で問題視されている子会社利益の社外流出について、本質的な問題の所在が誤解されている点が常々残念だなあと個人的には思うところがあるわけで。。。

2018/1/16付 |日本経済新聞|朝刊 次世代投資へ親子上場 ソフトバンク、借金増避け資金調達 一部利益 グループ外流出

「ソフトバンクグループ(SBG)が傘下の携帯事業会社ソフトバンクを上場させる方針を固めた。次世代通信の「5G」への設備投資など資金需要が高まる中、14兆円を超える有利子負債の膨張に歯止めをかけつつ多様な資金調達の手段を確保する。複雑になった事業構造を整理する意味も大きい。ただ、国内の携帯電話は競争が激化しているうえ、上場すればグループ外に利益の一部が流出する。親子上場に踏み切る意義を株式市場に丁寧に説明する必要がある。」

(下記は同記事添付の「ソフトバンクグループの借金は増加している」を引用)

20180116_ソフトバンクグループの借金は増加している_日本経済新聞朝刊

このグラフにあるようにSBGは米携帯大手スプリントや英半導体設計アーム・ホールディングスの買収、10兆円規模の投資ファンドへの出資といった巨額の資金需要を有利子負債で賄ってきました。その反動で、ムーディーズとS&Pグローバルの米格付け2社の格付けは「ダブルB格」:投機的水準となっており、国内では機関投資家向けの社債を発行しにくい状況にあると言えます。

さらに、2020年をめどに国内でサービスが始まる「5G」関連の投資、10兆円ファンドの第2弾を設立する構想と、資金需要(孫氏の野望)はとどまるところを知りません(笑)。

それゆえ、SBGの財務調達戦略として、

① 持ち株会社(SBG)と事業会社を上場で分離して、事業会社独自で資金調達させる
② なぜなら、ソフトバンク(事業子会社)は年間5000億円規模の純現金収支を誇る安定したキャッシュフローの裏付けで、SBGより高格付けを取得可能で、社債発行や新規借入のコストを低減することが可能
③ 事業子会社のIPO時は、コングロマリット・ディスカウントされていない事業子会社の実力値で発行株価が決まるので、おそらく親会社の増資より資金が集まりやすい(高株価が付く)

というSBGのメリットが想定されるのです。

しかし一方で、「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」でも謳っているように、既存株主の利益も尊重されねばならず、次のような留意点が湧き上がってくるのです。

① 事業子会社が調達した資金は、事業子会社で使用されねばならない、引いては事業子会社の株主利益最大化のために使用されねばならないので、SBGが他の事業投資に費やすことは不健全な資金使途となる
② 上場子会社からSBGが受取配当金を得る場合、法人税という社外流出は不可避である

むしろ、事業子会社の少数株主に配当金が社外流出する点を、報道ではよく企業価値やキャッシュの社外流出と指摘して、ことさら問題視するのですが、株主が親会社であろうと、少数株主であろうと、出資額に応じて配当金をもらうので、その点では株主平等の原則がはたらき、なんら経済計算的に問題はないのです。だって、少数株主に配当金を払う前に出資を仰いでいるのですから。むしろ、配当金を払うことで、お上に差し出す法人税のキャッシュ負担の方が問題視されるべきなのです。

あとは、コーポレートガバナンスの視点から、

③ 各種事業意思決定において、親会社と少数株主の間で利益相反が起きる可能性が高い
④ 連結決算処理と決算開示手続きが煩雑になり、適時・適切開示の妨げになる可能性が高い

という問題点も親子上場は避けて通れないのです。その辺の通り一辺倒の配当金が社外流出する、という指摘は、他に比べるとさほど大事な論点ではない旨、ここで覚えておいて損はないでしょう。(^^)

「SBGにとって国内通信事業は連結売上高の3割強、営業利益の約7割を占める存在だ。ソフトバンクが上場すれば新たに誕生した株主に利益が配分される。稼いだ資金を自社で使うようになればSBGは他のグループ企業から資金をより多く吸い上げる必要がある。
現金を稼ぐ力ではヤフーはソフトバンクに見劣りし、アームやスプリントも寄与度は小さい。NTTドコモの手厚い配当は親会社のNTTに大きく貢献している。上場するソフトバンクの配当政策も注目されそうだ。」

つまり、親子上場で新規に調達したお金は、事業会社(通信事業)に原則として投下されねば、ソフトバンクのIPOに応えた投資家の期待に応えたことにならないのです。そして、持ち株会社として、事業子会社からの利益を株主として享受しようとすればするほど、法人税というキャッシュの社外流出の影響も度外視できなくなるのです。

 

■ とどめに、コングロマリット・ディスカウントとコーポレートガバナンス問題について

2018/1/16付 |日本経済新聞|朝刊 事業急拡大で決断 持ち株会社、ファンドに力

「ソフトバンクグループ(SBG)が携帯事業会社を上場させる方針を固めた背景には、経営体制がここ数年で大きく変わったことがある。成長企業への投資に力を入れる持ち株会社と通信事業会社を切り離すことで、分かりづらさや評価の低さを解消する狙いだ。」

いえいえ、持ち株会社と事業会社の親子上場は、そもそも適正な市場価格(株価形成)を阻害するもの以外の何物でもないので。分かりづらさは倍増します。

(参考)
⇒「日本郵政、来年9月上場 郵貯・簡保と3社同時 ドコモに匹敵、大型公開
⇒「郵政3社株 評価は… 売り出し価格の仮条件発表 証券各社、個人対応を強化
⇒「スクランブル 親子上場に敏感な株価 日立「本体で稼ぐ力」評価

そしてその評価の低さの正体が、いわゆるコングロマリット・ディスカウントなわけで。。。

「SBGは有利子負債が多く事業分野が多岐にわたる。現在のグループの時価総額は約10兆円だが、アナリストは事業ごとの価値の積み上げよりも2割ほど低いとみている。こうした「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる状態を解消したいという思いが経営陣にある。稼ぎ頭の携帯会社が上場すれば、グループ全体の価値向上につながる可能性もある。」

これを簡単に言うと、英語と国語は評価5だが数学は評価2なので、総合的に評価4になっている。英語だけ切り出すと、株式市場から評価5をもらえる。そういっているだけのこと。じゃあ、英語だけで評価5としてついた株価によるIPOで手にした資金は英語の成績を上げることだけに使ってくださいね。本音では、英語の得点の高さで得た資金で、数学のテコ入れをしようとしていませんか?

これが、「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」に抵触するリスクありですし、少数株主との利益相反の可能性であり、コングロマリット・ディスカウントの発生原因そのものでもあるのですよ。

長くなってしまったので、ソフトバンク親子上場の留意点が思わぬところに飛び火した件については、次回に説明を回したいと思います。

(連載)
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(1)親子上場のブーム再来の流れを中心にまずは株式市場の状況を確認する
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(4)ソフトバンク債、子会社の連帯保証が東証の独立性審査の影響を受けること必至!?
⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(5)鴻海の世界最適地上場は日本の電機メーカーの対極にあり!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

コメント

  1. 通りすがり より:

    トランプ減税と繰延税金負債の関係が不明で調べていて、こちらにたどりつきました。大変、勉強になりました。その流れで本記事を拝読しましたが、支配関係にある会社の場合、二重課税を避けるため、受取配当金は益金不算入となるのではないでしょうか? つまり、新たな株主(少数株主)への配当という意味ではキャッシュアウトですが、受け取った配当金に関する法人税という観点ではキャッシュアウトにはならないと思います。記事の主旨はよくわかりましたが、この点が間違いであれば、訂正されたほうがいいと思います。

    • TK より:

      わざわざ、複数の投稿へのお立ち寄り頂きありがとうございます。m(_ _)m

      さて、親会社が子会社から受け取る配当金の損金不算入も立派な法人税法の論点でキャッシュフローに関連するお話です。
      ちょっと筆者の指摘ポイントは斜め下をいっていまして、その前の子会社がそもそも当期純利益をあげることが法人税支払いから逃れることができないという論点でした。

      分かりにくい解説だったと反省し、説明の深堀を続編として投稿しました。
      是非、そちらもご一読頂ければと思います。

      ⇒「親子上場の是非を再び ソフトバンク、鴻海の事例から(3)本当に株主に報いる財務戦略とは 少数株主との利益相反解消策まで考える 」
      http://keieikanrikaikei.com/publicly-listed-parent-subsidiary-pairs-3