■ 祝! ROE10%越え。それでも喜べない理由とは?
ようやく日本企業も世界標準のROE2桁に再到達。これで収益性でも見劣りする必要はなくなったのか、日本企業の企業行動に死角はないのか、という点について簡単な考察を行います。
2018/3/14付 |日本経済新聞|朝刊 企業の稼ぐ力、米欧に迫る ROE、17年度 初の10% 海外需要取り込む
「日本企業の収益力が欧米企業に迫っている。どれだけ効率的に利益を稼いだかを示す自己資本利益率(ROE=総合2面きょうのことば)は2017年度に10.1%まで上昇する見通しだ。データを遡れる1982年度以降で10%を超えるのは初めて。海外市場を開拓する一方で事業の選択と集中を進め、純利益が過去最高を更新する。世界の主要企業が目安とする2桁のROEを維持するには一段と効率的な資金の使い方が求められる。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
(下記は同記事添付の「ROEが高い主な企業」を引用)
新聞記事によりますと、
・米国の主要企業は約14%、欧州は約10%
・17年度の日本の上場企業の純利益は前期比27%増の35兆円と過去最高を更新する見込みで、ROEは1.4ポイント上昇する
従来、日本の経営者は、金融機関との株式の持ち合いに守られ、ROEに対する意識が希薄であったとされています。それが昨今、アベノミクスの一環で海外機関投資家を日本株式市場に呼び込むために、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を導入し、株主目線から取締役会運営の透明化や株主還元方針の明示化に舵を切り、俄然、2014年からどこもかしこもROEが声高に叫ばれるようになったのです。
現在では、海外機関投資家の日本株の所有比率は3割を超え、今まで以上に企業にROEの向上を求めるようになるとともに、生命保険協会の調査では企業の半数がROE目標を掲げるようになりました。
それでも、本気でROE経営を推し進めようとはしていないことが数字から表れているのです。それを下記でかいつまんで説明していきたいと思います。
■ まず、ROEの計算ロジックの再確認から
冒頭の新聞記事から。
「ただ、高いROEの維持は簡単ではない。上場企業は利益の半分を株主に還元しているが、自己資本は増え続けている。総資産に占める自己資本の比率は80年代前半は20%強だったが、現在は40%に増加した。欧米の企業と比べ10ポイントほど高い。」
どうして、ROEの話なのに、自己資本が取り沙汰されるのか? それは、ROEの計算式を見れば一目瞭然です。
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 ×100
その自己資本が曲者で、分子に来る当期純利益がそのまま分母の自己資本の増額の影響を及ぼすのです。これを、株主還元として、自社株の買い入れか、現金配当という形で毎期の好調な企業活動により、当期純利益が計上されることで自然と積みあがった自己資本を何とかしないと、分子と共に分母も増えていくことになるので、ROEが徐々に小さくなるのは、小学生でもわかることなのです。(^^)
■ 残念なコメントから、ROE経営が理解されていない理由とは(1)
冒頭の新聞記事から。
「企業の借り入れ余力はかつてないほど高くなった。借金を上手に活用して設備投資やM&A(合併・買収)など攻めの経営を進めなければ、ROEは頭打ちになりかねない。東海東京調査センターの平川昇二氏は「成長投資に使い切れなかった資金は株主に還元しないとROEは低下していく」と指摘している。」
一見、正しいことを言っているようですが、正しいことと誤りが混在しているステートメントなので読解に注意が必要です。
設備投資やM&Aなどで、積極的投資をおこなうことで、もっと収益性の高い新事業を起こすか、既存ビジネスの収益性を高めることは、当期純利益を増やすことなので、結果としてROE計算式の分子を大きくすることなので、そこまではROE経営に沿った企業行動を促すものになります。ただし、手元の余裕資金を設備投資やM&Aに投下することは、貸借対照表(B/S)の借方の勘定科目の内訳が変わるだけなので、その営みだけでは、貸借対照表(B/S)の貸方の、外部借入と自己資本の構成比率を直接は操作しない会計活動なのです。
借入金を新規に起こすことと設備投資やM&Aに投下することは、一旦切り離して考える必要があります。なぜなら、積みあがった自己資本を元手にしても、そういう積極投資が実際に行えるからです。
次に、成長投資に使い切れなかった資金は株主還元しないとROEが頭打ちになる、というステートメントもギリ、間違い。成長投資に使い切れなかった資金は、まず外部借入を返済することに使えばいいのではないでしょうか? 要は、ROE計算式の分母を減らせと言っているのでしょう。そのまま社外流出させるか、自己資本から負債に振り替えるか、余ったとされる(本質的に余った自己資本という概念の存在自体を筆者は否定するものですが)ROE計算式の分母である自己資本を減らす方法は大別して2つあるのです。
■ 残念なコメントから、ROE経営が理解されていない理由とは(2)
同日の朝刊、「きょうのことば」でもROEが取り上げられていました。
2018/3/14付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)ROE 効率よく稼ぐ力示す
「Return On Equity」の頭文字をとった略語で、企業が株主から預かった資本をどのくらい効率的に使っているかを示す指標。最終的なもうけである純利益を自己資本で割って算出する。ROEの値が高いほど効率よく稼いでいることを示す。」
次の節で、ROEを、①売上高純利益率、②総資産回転率、③財務レバレッジの3要素に分解する、いわゆる「デュポンチャート」が紹介されています。
これを踏まえて、③財務レバレッジに着目したコメントが、グラフ付きで最終節に紡がれています。
「日本企業は純利益率を高めてROEを向上させたのが特徴で財務レバレッジは下落が続く。バブル崩壊などを経て借入金の増加を嫌がる経営者が増えたためで、2016年度に上場企業の6割が実質無借金になった。増えた利益は自己資本に蓄積されROEは徐々に上がりにくくなる。高いROEを維持するには株主還元で自己資本を圧縮するか、負債を上手に活用した成長戦略が必要になる。」
このステートメントにもあらたな問題が2つ潜んでいます。
① 高いROEを維持するには、デュポンチャートで示された3つのレバーすべてが有効
② 成長戦略投資は自己資本でもできる(既出)
③ 3つのコントロールレバーのうち、財務レバレッジが無視されている
①について
そもそも、高いマージン率の確保と、総資産回転率の向上は、ROEを持ち出す前に、ROAで事業採算を管理する段階で議論されていてしかるべきなのです。
③について
ROA経営の後、対株主対策として、主に、財務戦略(資金調達戦略)に基づき、企業の調達資金管理戦略から、より条件のいい資金調達手段を選択する段で、初めて株主対策としてROEが語られるべきなのです。
(下記は同記事添付の「財務レバレッジは低下が続く」を引用)
この推移から読み取れることは、業績回復により、売上高純利益率が伸長していく過程で、企業内に自己資本が積みあがっていることが見て取れます。この自己資本の積み上がりが健全な判断に基づくものなのか、それとも不作為の過失と見做せるものなのでしょうか?
下記は、昨今の金利情勢を日本国債の利率を見ることで代替させて頂きます。
何が言いたいかというと、ここまで金融市場における利息が低下している現況で、資本コストを下げるためには、ある程度までは負債比率を上げることが、欧米で常道となっているROE経営の最後の神髄であるということ。
表面的な文章で分かった感じにならずに、ROEをデュポンチャートで要素分解し、
① ビジネスモデル戦略
② 事業投資戦略
③ 資金調達戦略
という3つの視点で、ROE経営を語ってみてはいかがでしょうか?(^^;)
成長投資については、一方で財務健全性の問題もあり、全てを社外借入で賄うのがベストかどうかは、微妙な問題であると共に、会社内の意思決定が全てROE向上にだけに執着して行われることもいかがなものかと思います。まあ、そうした施策の是非を問う前に、基本的なROEという指標の意味の理解を深めるのが先と、本稿を起こしました。
ご参考ください。
(参考)
⇒「(真相深層)ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標「ROA」 – ROEとROAのどっちが使える財務KPIか?」
⇒「アマダHD、 成長投資重視に転換 今期、100%還元→「50%以上」に 年間投資5割増やす - ROE経営への過剰反応を軌道修正中」
⇒「世界企業・日本の立ち位置(1)ROE、低いといわれるが… 資産効率、日本が米を逆転 8年ぶり、構造改革で」
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