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(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(1)株主重視のガバナンス改革が進展 小樽商科大学准教授 手島直樹 - コーポレートガバナンスとROE経営の関係とは

経営管理会計トピック とことんROE
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■ 衝撃に慣れよ!「伊藤レポート」のくびきから自由になってROEを語ろう!

経営管理会計トピック

日本経済新聞 朝刊で2016/10/14~10/25、全8回連載で、「ROE重視と企業価値創造」について小樽商科大学手島直樹准教授による解説記事が掲載されました。2014年8月に公表された「伊藤レポート」の衝撃から、株主還元100%を宣言する会社が登場する等、ROEが経営者や一般投資家を巻き込んで激しい論争や株式市場での思惑を生み出し、ROEに対する興味関心はまだ衰えることがないようです。筆者は、もう少し落ち着いた論調で(実は内心では冷ややかに)ROEについて、手島准教授の文章を解説しながらコメントを付していきたいと思います。

2016/10/14付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(1)株主重視のガバナンス改革が進展 小樽商科大学准教授 手島直樹

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

 

■ 「株主重視のガバナンス改革が進展」の意味とは?

「コーポレートガバナンス(企業統治)改革が2年目を迎え、日本企業には多くの変化がみられます。自己資本利益率(ROE)が経営指標として定着したことはその一例です。生命保険協会の2015年度調査では、ROE目標を設定する企業は56.5%に上り、今後も上昇する見込みです。」

この一節から「(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造」としての一連の連載が始まるのですが、平成26年(2014年)6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」にしたがって策定された、東京証券取引所が2015年6月に公表した「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」では、決して「ROE」という文言が登場しているわけではありません。

とりわけ、株主(投資家)に重点的に報いるため、株主指向の財務指標と言われている「ROE」のみを取り上げているわけでもなく、むしろ、株主以外のステークホルダー(利害関係者)への配慮を忘れぬようにという留意の方に力を割いて記述されていると認識しています。

コーポレートガバナンス・コードには、5つの基本原則がまず挙げられており、
【1.株主の権利・平等性の確保】
【2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
【3.適切な情報開示と透明性の確保】
【4.取締役会等の責務】
【5.株主との対話】

株主以外のステークホルダーとの関係性への配慮は次のように語られています。

20161112_株主以外のステークホルダーとの適切な協働_コーポレートガバナンス・コード

労働者への賃金をケチれば、人件費を圧縮でき、利益水準を改善することで、ROEを高めることができます。タックスヘイブンを活用して納税額を節税すれば、税引後利益を増やすことができ、これもROEを高めることができます。しかし、コーポレートガバナンス・コードは、株主重視の姿勢は決して採用していません。

さらに、株主との対話では次のように語られています。

20161112_株主との対話_コーポレートガバナンス・コード

中長期的な企業成長のためには、年度決算で決まる会計的利益である当期純利益を犠牲にして、将来投資をすることも有り得ます。ROEの計算式の分子である当期純利益を犠牲にすることは、目先ではROEという指標の悪化を招きますが、中長期的な企業成長のためにはいい方向の経営判断かもしれません。それゆえ、株主のみ重視の経営指標と呼ばれる「ROE」を金科玉条のように崇め奉り、【5.株主との対話】でも最優先事項としているというのは大きな誤解です。

コーポレートガバナンス・コードの運用開始が即、株主重視、ROE信奉、と直結して考える単純的思考とは、筆者は一線を画したいと思います。

 

■ 「ROE」は本当に株式投資の判断に有効な手段なのか?

「様々な経営指標の中で、なぜROEがスタンダードになったのでしょうか。結論から言えば、投資家が企業を評価する上で有効な指標だからです。株価が上昇し、株主還元が強化される企業のROEは高水準であることが多く、投資家による企業へのけん制が強まる中で、投資家が重視する指標を企業も重視するようになるのは当然の流れです。」

筆者も少額ですが株式投資を実践しています。しかし、ROE水準で投資先企業を選んだことは一度もありません。このブログは筆者の投資指南をテーマにはしておりませんので、それは秘中の秘とさせて頂きますが(^^;)、同記事から下記文章を引用させて頂きますが、このような「ROE」一辺倒の企業価値評価はどこか歪んでいる、という指摘はさせて頂きます。

「実際、企業にROE改善を求める圧力は高まっています。14年8月に経済産業省が公表した「伊藤レポート」は「最低限8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである」と明記しています。JPX日経インデックス400の採用銘柄選定には3年平均のROEを基準として利用しています。」

⇒「アマダHD、 成長投資重視に転換 今期、100%還元→「50%以上」に 年間投資5割増やす - ROE経営への過剰反応を軌道修正中
⇒「今年度の予想ROE改善幅、ブラザーやカシオ上位に 自社株買いで押し上げ
⇒「(会社研究)大還元の先へ(1) アマダホールディングス M&Aで稼ぐ力底上げへ

関係者の皆様には大変申し訳ないのですが、JPX400選出漏れに過敏に反応したアマダの例を丹念に追っかけたのが上記の過去投稿記事です。行き過ぎた反応はきちんと修正されていきます。アマダもしかり。ROE重視が即ガバナンス重視、株主還元強化が即株主重視という風潮はこの辺で終わりにしませんか?

「また、米国の大手議決権行使助言会社は、5年平均のROEが5%未満で改善傾向にない企業の取締役選任議案に反対を推奨しており、16年には約400社がその対象となりました。このように企業にとって低水準のROEは許されない環境が整ったのです。」

⇒「揺れる企業統治(2)2年目の株主対話 低ROE、増える不信任票
⇒「踊り場のROE経営(前編)- 伊藤レポートのくびきを脱し、純利益率が大事との源流回帰まで」

ISSに代表される議決権行使助言会社は、一体誰の利益のために、そのような意見を表明しているのでしょうか? 欧米の機関投資家が日本企業に投資する際、彼らの投資元から、訴訟をうけないために、「きちんと第三者機関の助言にしたがって投資した結果の損失については、我々の責任の範囲外です」というお墨付きを得るための意見表明という真相には誰も目もくれず、その公表された意見だけがマスコミに取り沙汰される始末。薄ら寒い気がしてなりません。

 

■ 「ROE」という財務指標が指し示す本当の意味とは?

「ROEの計算方法を確認しましょう。損益計算書の当期純利益を分子、貸借対照表の自己資本を分母とする割り算によって算出します。実はこのシンプルな割り算に投資家がこの指標を重視する理由が隠されています。単純化すると、当期純利益は株主に帰属する利益であり、自己資本は株主が拠出した資金です。
 つまり、株主の視点では自己資本が元手、当期純利益がもうけとなるため、元手からもうけをいかに効率的に生み出したかを測定するROEを投資家が重視するのは当然なのです。株主の利害を映した指標がスタンダードとして確立されたのは、ガバナンス改革が進展した証しといえます。」

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 ×100

上記の引用では、ROEは、投資家の元手(自己資本)に対するリターン(当期純利益)の比率で、投資収益性を示す指標と解説されています。

① 業績リターンを示しているはずの分子:当期純利益
昨今では、「包括利益」という利益指標が制度会計上の正式な段階利益として公認されています。会計年度で区切った企業業績をしめす指標として、フロー情報として段階利益を採用したとして、「当期純利益」が果たして、現在の「貸借対照表」上で表される元手(投資額)にきちんと対応している業績結果指標として最適なのでしょうか?
分子分母はきちんと対応していないと、その割り算の結果で得られる比率指標には、算数的意味すらなくなってしまいます。

② 企業の保有資産(財産)の公正価値を示しているはずの分母:純資産(自己資本)
期間業績を示すP/Lと、財務状況を示すB/Sの間の計算を透明化するために、P/Lでの利益の積み上がりで、B/Sでの財産がそのまま増える関係を「クリーンサープラス関係」といいます。P/LとB/Sの関連を担保するために、P/Lの弟分の「包括利益計算書」が付属して、

・有価証券評価損益(主に持ち合い株式、政策保有株式)→株式市況に左右される
・外貨換算調整勘定 →外国為替市場に左右される
・年金債務関係費用 →主に、市中金利(債券市場)を中心とした金融市場動向に左右される

等を明示して、B/Sの公正価値の増減理由を明らかにしています。つまり、もはやB/Sと対応するP/L上の利益概念は「当期純利益」ではなく、「包括利益」なのです。

もっとも、真の企業業績を「包括利益」を採用したといえども、そもそも会計的期間利益で定義していいのか、という指摘にはもっと別の説明を必要とするのですが、、、

本稿の結論:
簿価上の会計的利益が真の企業業績と仮定した場合でも、B/Sとの対比で収益性(投資利回りとか利益率という意味)を測定する場合には、「当期純利益」ではなく、「包括利益」まで考慮しないと、比率計算の分子分母の定義が合わなくなり、計算結果は算数的意味もなさなくなる

第1回目は身も蓋もない結論になってしまいました。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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