ソフトバンク「10兆円ファンド」資産膨張 市場に戸惑い 株価への影響 見極め難しく

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■ ソフトバンクの10兆円ファンド。ソフトバンクの連結財務諸表への影響はこれから

経営管理会計トピック

日本有数のファイナンスリテラシーが高いソフトバンク。次から次へと奇手奇策を繰りだ出す同社の財務諸表はもう既に一般常識では解析が難しいようです。

2017/6/8付 |日本経済新聞|朝刊 ソフトバンク「10兆円ファンド」資産膨張 市場に戸惑い 株価への影響 見極め難しく

「ソフトバンクグループの株価が堅調だ。6月5日には年初来高値を付けた。5月下旬にサウジアラビアなどと立ち上げた「10兆円ファンド」による成長期待が高まっている。だが新たなファンドはソフトバンクの財務や業績を大きく変える可能性がある。市場では負債や資産が膨らみ、将来を予測しにくくなることへの戸惑いも見える。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

新ファンドは、ソフトバンクの連結対象になるという報道がありました。

2017/5/12付 |日本経済新聞|電子版 ソフトバンク、10兆円ファンドを連結対象に

「ソフトバンクグループはサウジアラビアなどと共同で発足させた10兆円ファンドを、自社の連結対象に加える。全額出資子会社の英半導体設計アーム・ホールディングス株のうち、82億ドル(約9100億円)分に相当する25%をファンドに移し、現金と合わせ総額で280億ドルを拠出。実質的にグループ内にファンドを抱える形となる。」

つまり、10兆円ファンドの有利子負債は、ソフトバンクの有利子負債になります。当然、10兆円ファンドが出資した先がFull連結対象(連結子会社)となったら、投資先のフルB/SがそのままソフトバンクのB/Sに連結されてきます。問題は貸方。

■ IFRSの実質的支配基準は言葉は同じでも日本基準とは異なる

日本基準には、「企業が有する議決権比率が40%以上50%以下であり、かつ、当該企業出身者が取締役会の構成員の過半数を占める場合には、意思決定機関を支配しているものとみなす」といったような、数値基準を含んだ具体的な実質的支配に関する判断指針が存在します。一方でIFRSは、IFRSでは、関連性のある活動を指図する現在の能力を与える既存の権利 (パワー)を有しているか、投資先からの変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有しているか、自らのリターンに影響を及ぼすようにパワーを用いる能力を有しているかという3つの要素に対し、総合的な判断を要求しています。持分法についても、概ね、具体的な数値基準が無い点は同じです。

冒頭の記事ではそれゆえ、次のような奥歯に物が挟まったような表現で支配権について言及されることになるのです。

Full連結について。

「国際会計基準を採用する同社の連結バランスシート(財政状態計算書)上では、投資先がファンドの連結対象となった場合、案件に対して他の出資者がファンドに出した資金を負債、投資した企業の株式価値などを資産の部に計上する。投資先がファンドの連結対象でない場合は出資比率に応じた分がバランスシートに加わる。ソフトバンク本体のファンドへの出資分の計上先は未定だ。」

(下記は同記事添付の「「10兆円ファンド」のソフトバンク財務への影響」を引用)

20170608_「10兆円ファンド」のソフトバンク財務への影響_日本経済新聞朝刊

持分法損益について。

「ソフトバンクの損益計算書では、ファンドの投資先が連結対象なら売上高と利益の全額、連結対象でない場合は出資比率に応じて利益額の一部が取り込まれる。ソフトバンクはファンドの運営者として、他の出資者からの手数料収入も得る。」

貸方におけるソフトバンク本体の出資額(最大約3兆円)が、場合によっては負債に計上される可能性がある、という記述には、連結会計の基本的考え方からは少々違和感があります。

(参考)
実務対応報告第20 号 投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い

上記は日本基準なのであくまで参考の位置づけですが、支配力基準、影響力基準ともに、投資対象が連結対象となれば、資本(純資産)への計上でスッキリします。資本への計上が不明というのは、投資ファンドから投資対象へのソフトバンクからの出資比率が、案件ごとに異なるため、親会社持分か、非支配株主持分かの区別が不明である、という説明ならわかります。ソフトバンクからの出資分が、負債の部への計上、ということになれば、ソフトバンク本体の株主による出資比率と投資対象の会社への支配権の間で何かが捻じ曲げられることになります。

■ ソフトバンクの連結財務諸表の分析方針について

同記事では、以上のことを踏まえ、今後、10兆ファンドが次々と買収する予定の企業への出資分がどのようにソフトバンクの財務諸表に影響するかについて、いろいろと詮索し、どう評価しようか、迷いが生じていると報じています。

「ファンド経由の投資で膨らむ負債は従来の大型M&Aによる有利子負債の増加とは異なり、返済の必要がない。野村証券の魚本敏宏氏は「ファンドの出資分は疑似的に資本とみなすこともできるのでは」と指摘する。」

ソフトバンクが支配するファンドが外部のエンティティから調達する資金は純然たる他人資本なのではないでしょうか? それを疑似的に資本として見るかどうか、なぜ論点になるのかよくわかりません。現時点でも、超長期のハイブリッド債はその50%を資本とみなす、という格付け会社のルールが存在します。それは、格付け会社の評価方法であって、財務諸表の表記ルールではありません。

ソフトバンクをはじめ、ハイブリッド債で資金調達している大企業による決算発表資料では、それを疑似的に資本に繰り入れて、各種財務指標を公表している所が目立ち始めました。会計リテラシーがある人は自分で有価証券報告書を見るからいいものの、決算発表資料だけを見る人は、負債と資本の区分を企業が勝手に都合がよいように表示しているものをそのまま鵜呑みにする危険性があります。ここは要注意ポイントです。

「ファンドでは複数の投資先が決まった段階で、四半期に1度程度のペースで出資者から実際に資金を募り投資する。手続きに一定の期間を要すため、ソフトバンクの連結業績への貢献は7~9月期からとなる見通しだ。」

「資産の膨張で株価の評価も難しくなりそうだ。国内運用会社の担当者は「何を判断材料にすれば」と困惑する。外資系証券アナリストも「もはやバランスシートでは分析できず、キャッシュフローの動向を見ていくしかない」と頭を悩ませる。」

これらの指摘は、ファンドが出資を決定してから、実際に出資が行われ、ソフトバンクへのB/Sへの組み入れ、手数料をP/Lに計上するタイミング等がずれて、財務状況の推移がよくわからなくなる恐れについて言及しているものと推察します。

このことは、プロダクト型企業が人工的な決算期ごとに、どれだけの収益を上げたかを重視する「費用収益アプローチ」による期間業績評価の観点から企業業績を見ようとする所に起因する不都合です。もはや、ソフトバンクはその名の通り、「バンク=疑似金融機関」。それこそ、バークシャー・ハサウェイの財務諸表を米国人はどのように評価しているのかを参考にした方がよいと思われます。ファイナンス型企業の評価は、投資勘定としての財政状態計算書における期末の状態が前期からどのように変動したか、投資分がどれだけ増加したか、それを見るしかないと思いますが如何でしょうか?

(参考)
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(4)「会計主体論」会社は誰のモノで、会計は誰の数字か? - 連結概念の「親会社説」「経済的単一体説」の前座として
⇒「ソフトバンクのアーム買収に伴う資金調達戦略の顛末(前編)奇手を使ったデッドファイナンスは成功した!? 日本経済新聞まとめ
⇒「ソフトバンクのアーム買収に伴う資金調達戦略の顛末(後編)巧妙なエクイティファイナンスが呼び込んだ波紋とは? 日本経済新聞まとめ
⇒「ソフトバンクのレバレッジ経営、アーム・ホールディングス買収を2重のキャッシュフローで読み解く!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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