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資本主義経済と計画経済はむしろ共存しているのでは - 官民ファンド批判の報道を見て

経営コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ 所感
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計画経済がとことんダメである刷り込み

私がまだ大学生だった頃、東西冷戦真っただ中から、西側の自由民主主義と資本主義経済の勝利が高らかに宣言された大激動の時代でした。政治学や経済学の授業でも盛んに自由民主主義と資本主義経済の正当性やすばらしさを教えられた記憶があります。

トラバント(旧東ドイツの国民車)はボール紙でできているとか、ソ連の配給待ちの長い行列を映し出す国際ニュースを繰り返し見せられて、まだ無邪気な若者としては、いかに計画経済が不効率で資本主義経済が市場(マーケット)という優れた利害調整機能を有していることがどれだけ我々の社会に恩恵を与えたか、について頭の芯にまで刷り込まれていました。

そうしたナイーブな心理状態のまま社会人となり、最初の大きな仕事が「予算」を作る仕事でした。

会社に入って最初の戸惑い

私は、散々「計画経済は不効率である」「マーケットに任せれば財・サービスは効率的に欲しい人の手にわたり、同時に適正価格が実現する」と教わってきたわけですから、その資本主義経済、自由経済を中心的になって担う私企業(株式会社でした)が、向こう一年間の収支の計画(単年度予算)を作って、それをひたすら守ろうとする姿に違和感を覚えたのも不思議なことではありませんでした。

今から思えば若気の至りといえばそれでおしまいになるのですが、当時の上司だったTさんに面と向かって、「日本は資本主義経済なのだから、どうして予算なんか作る必要があるんですか?」と真っ向から反発して、意見を求めたことがあります。もちろん、Tさんはいきなり新人から管理会計の基本中の基本である「予算策定」のそもそもの存在意義を問うてきた、頭でっかちの生意気な新人の扱いにてこずったのは想像に難くありません。

「んー、でも社長から作れと言われているから、この部で作らないとみんなが困るんだよね」

まともに生意気な意見を抑え込むのではなく、こういう切り返しができる上司のEQ(心の知能指数)の高さは、今となってようやくその凄さが分かりました。しかし、当時の若い自分には単なる言い逃れ以外の何物でもないと受け止めるしかなく、憮然とした表情を浮かべながら、いやいや予算策定の作業を始めた苦い思い出があります。

投資は遠い将来のことを計画できるから決断できる

今から思えば、いかに自分の知識と判断能力が稚拙だったかが分かります。今でも同じようなものかもしれませんが、ただ一つだけ言えるのは、やっぱり今でも予算は「おざなり」につくっておけばいいと考えています。決して「なおざり」でいいと思っているわけではありません。

(「おざなり」と「なおざり」の違いにピンと来ていない方は次の記事をご参考ください)

より高いリターンを望むためには、より長い期間が必要になる性質があります。より長い期間というのは、現在時点から見ると、どんどん不確実性が高まっていく状態です。それはリスクとなり、もっと高いリターンが見込まれないと投資するお金がリスク(不確実性)に見合わないと自然に感じることができます。

みなさんも、手元の100万円を友人に貸すとしたら、プータローのパチンコ好きのAさんが、「ごめん、生活費がちょっと足りないからお金貸して」といわれて、年利10%で貸してあげたほうが得か、公務員で勤勉なBさんが、返済計画書を携えて、「父親の介護のためのリフォームのための融通のため、100万円貸してください。次の冬のボーナスで返す当てがあるから」といわれて、年利5%で貸してあげたほうが得か、一目瞭然ではないでしょうか。

投資(融資)にあたっての「目論見書もくろみしょ」があるのとないのとでは、信用が全然違います。そして、「目論見書」を作成するにあたり、信用力をもっと高めるためには、精度の高い将来予測計算を行うことが必須となります。そういう話の流れの中において、「予算」がそうした目的に沿って作成されて一年間運用されるのなら作る意味は、社会主義経済でなくても、断然「アリ」ということができます。

企業の経営陣にしたって、足元の損益状況や資金繰り状況がどうなっているのか、そして近い将来どうなるトレンドになっているのか、を知らないで大きな投資をすることには必ず迷いが生じて、的確に判断・決断をすることが難しくなるでしょう。

公的資金のほうがワイズ・スペンディングの要請が強いのは分かりますが

当然の措置と言うべきだろう。農林漁業に投資する官民ファンドの農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が新規投資を2020年度末にも停止する見通しとなった。これを機に無駄が指摘される他の官民ファンドの見直しにも着手する必要がある。

2019/11/27 |日本経済新聞|朝刊 (社説)農水ファンドの新規投資停止は当然だ

社説はその新聞紙の顔です。その社説は次のような言葉で絞められています。

財務省は今後、投資の妥当性や収益性についてこれまでより厳しく監視するという。官民ファンドは本来は淘汰されるべきゾンビ企業の延命につながり、産業の新陳代謝を阻害する懸念などがかねて指摘されてきた。必要性に疑問符がつくファンドの抜本的な見直しを急ぐべきだ。

2019/11/27 |日本経済新聞|朝刊 (社説)農水ファンドの新規投資停止は当然だ

官民ファンドには公的資金が入っていることもあり、民間資金よりさらに厳しく、「ワイズ・スペンディング(wise spending)」が求められることも承知しています。「ワイズ・スペンディング」は「賢い支出」という意味で、財政政策の有効性を唱えたケインズの「不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい」という考えを表したものです。

マスメディアが厳しく政府などの公的機関の一挙手一投足を監視し、一般大衆に情報公開をしてくれているので、そういう意味では、もちろん、このような報道・ニュースが、納税者と公的機関の間に存在する「プリンシパル・エージェント問題」の緩和に役立っているのも事実であることは否定しません。

補助金と比べて資金の使い道の自由度が高いことや、取引企業への信用力が高まることが官民ファンドを活用するメリットとされてきた。農林水産省はファンドの利用が農林漁業の成長産業化につながると説明してきた。

確かに、個別案件を見ると、不適切な投資や不採算がある程度予見できたものが含まれていたのは事実かもしれません。しかし、これらはあくまで投資であって、融資や公共支出ではないのです。リスクテイクすることが許されているリスクマネーです。びた一文損してはならぬ、というのでは、そもそも投資という行為が成り立ちません。

むしろ、こぞって批判の的にしている「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」の2012~2017年の投資執行比率は、わずか5%にすぎません。

2012~17年における投資執行比率の実態は次の通りです。

投資計画総額:1,767億円
投資実績:89億円

むしろ、差し引き1,678億円の待機資産の機会コストのほうが心配になるほどです。やっちまった89億円の投資より、やらなかった1,678億円の責任を追及するほうが先ではないでしょうか。どうして1,678億円もの投資予算の未達があったのか。そこに官民ファンドの真の問題があると思います。

ワイズ・スペンディングもいいですが、ワイズ・レポーティング(wise reporting)の方もよろしくお願いします。^^)

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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