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業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!

業績管理会計(入門)
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■ 社内取引が発生するのは、外部市場を企業内に取り込むことが有利だから

前回、事業部制組織を採用する企業において、業績管理制度を構築するにあたり、①社内取引制度、②共通固定費の配賦の2つの内、前者について概要を説明しました。社内取引制度は、社内仕切制度、社内振替制度、振替価格制度などと、企業によって呼び名は千変万化ですが、つまるところ、社内にプロフィットセンターが2つ以上存在し、かつ、プロフィットセンター間で商材の取引(社内売買)が発生する際の管理会計上の基本的でかつ大変重要なルールとなります。

そもそもなのですが、企業同士が外部市場を通じて自由な量と品質と価格で財・サービスを取引するのが、自由主義経済の根幹的思想のはず。それをわざわざ同一企業内に外部市場を取り込む(これを市場の内部化と呼ぶ)のは、その方が経済行為、生産活動にとって有利だと判断されたからこそなのです。

業績管理会計の手練手管(How to)を知る前に、組織の業績管理の基本に戻って原理原則を確認しましょう。

「コースの定理」で有名なイギリス生まれでアメリカの経済学者、ロナルド・コースは1991年にノーベル経済学賞を受賞します。彼が提唱したのが、「取引コスト」なる概念です。
(もっとも彼は「取引コスト」という用語は使っていませんが)

外部市場で売り手と買い手が財・サービスの売買に勤しむのですが、その際に売り手も買い手も外部市場で取引するその行為自体がある種のコストを生み、取引価格に上乗せされていると考えます。

① 探索コスト
求めている財が市場で売買されているのか、誰が一番安く・安定して供給してくれるかを意思決定するために費やされるコスト

② 交渉コスト
売り手と買い手が相互に合意できる物量と価格と品質に関する条件を見出すまでの交渉にかかる手間と時間的なコスト。さらに、売買契約を締結するための法務を含む事務コストも含む。

③ 監督と強制のコスト
売り手・買い手から見て相手側に立つ人々に取引契約の諸条件を確実に遵守させるためのコスト。たいていの場合は、契約が守られなかった場合に、契約書に記載のある条項の履行を意図して、法的手段、司法システムを通じて採られる適切な行動に必要なコストを意味します。

これら3つの取引コストは、肝胆相照らす同じ会社に属する同僚相手ならば最小化できるだろうと踏んで、外部市場で行われる取引をわざわざ社内取引に置き換えることで、資源の節約(直接支出と時間と労力など)を図ろうとする点が、社内取引制度の出発なのです。

 

■ 社内仕切価格、社内振替価格の決め方

管理会計の目的のひとつに、「値決め」があります。当然、社内取引制度においても、社内仕切価格・社内振替価格の決め方は大いに盛り上がる論点となります。筆者は、取引条件としての三大要素、①価格、②物量(これに納期を含ませる)、③品質 の全てを絡めて説明をしたかったのですが、それをやろうとすると入門編のレベルを超えてしまうので、ここでは「①価格」のみを対象とします。

そこで、OECDが定めた国境を超えた場合の社内取引(正確にはグループ内の親子会社間、子会社間の取引)の設定ルール、すなわち移転価格税制において、独立企業(資本や人的に支配関係にない企業間)間で取引される価格(独立企業間価格: arm’s length price)をどうやって求めるか、というスタンスが、親子会社間、子会社間、事業部間で納得のされやすい仕切価格・振替価格の値決め法であると考えます。

細かい規定を読み込むと、様々な移転価格決定のメカニズムやルールが存在するのですが、シンプルで分かりやすく管理会計に転用できる考え方として次の4つに絞って解説することにします。

(1)独立価格比準法(CUP法: Comparable Uncontrolled Price Method)
(2)原価基準法(CP法: Cost Plus method)
(3)再販売価格基準法(RP法: Resale Price Method)
(4)利益分割法(PS 法: Profit Split Method)

 

■ 独立企業間価格の算定方法を援用した仕切価格の決め方のパターン

(1)独立価格比準法(CUP法: Comparable Uncontrolled Price Method)

検証対象となるプロフィットセンター間の内部取引で用いられている価格と、比較対象となり得るほどの類似性を有する非関連者間取引(比較対象取引)を一般市場の中で観察することで得られる価格情報に基づいて仕切価格を決める方法です。

素材系プロセス型産業において、上流工程で生み出された粗製品を下流工程で多種多様な最終製品に加工する場合、参照可能な社外の取引価格情報を得る可能性が他業種よりも多いはずです。こうした他社との工程別取引があると信じて参照価格を探していく方法です。当然、一番信頼性が高いのは、自社が間に介在しない他社間取引で得られる参照価格になります。

業績管理会計(入門編)独立価格比準法(CUP法)

(2)原価基準法(CP法: Cost Plus method)

商流ではより上流側、製造者側の通常状態で生産した場合の製造原価に適正利益を乗せた金額で仕切価格を決める方法です。下図は、移転価格算定のケースでも援用できるように、適正利益確保の表を独立第三者の別企業にマッピングしましたが、通常、他社の製造コスト情報がそんなに容易に入手できるはずもありません。よって、自社の上流部門のいたって普通の生産状況、例えば標準原価とか予定原価にコストマークアップ率を乗せた価格になることが多いでしょう。

業績管理会計(入門編)原価基準法(CP法)

(3)再販売価格基準法(RP法: Resale Price Method)

商流ではより下流側、販売者側の通常状態で販売した場合の販売価格に含まれる適正利益を除いた金額で仕切価格を決める方法です。下図は、移転価格算定のケースでも援用できるように、適正利益確保の表を独立第三者の別企業にマッピングしましたが、通常、他社の販売価格情報がそんなに容易に入手できるはずもありません。

BtoCならば、エンドユーザ、最終消費者向け販売価格なら分かりやすいのですが、BtoBならば、BtoCでも中間業者への販売商流ポイントならば、本当の独立的取引における販売価格とそのマージン率の情報入手はそれほど簡単ではないかもしれません。

よって、自社の下流部門のいたって普通の販売状況、例えば定価とか、過去の販売実績単価からマージン率を差し引いた価格になることが多いでしょう。

業績管理会計(入門編)再販売価格基準法(RP法)

(4)利益分割法(PS 法: Profit Split Method)

自社組織が介在する商取引と類似の状況のもとで行われた非関連者間取引に係る非関連者間の分割対象利益に相当する利益の配分割合を用いて、自社の仕切価格を決めようとする方法です。詳細にはこの方法はもっと細分化できるのですが、ここではPS法として代表させることとします。

通常の製造販売状況ならば、その商取引を成立させるのに製造者側が貢献している分は製造者側の利益取り分として、販売者側が貢献している分は販売者側の利益取り分として、お互いに貢献利益を妥当的に算出して仲良くシェアしたところで決まる価格を仕切価格にしようというものです。

業績管理会計(入門編)利益分割法(PS 法)

 

■ 独立企業間価格が分かるという虚構と親会社の横暴の現実の間には

前章で説明した代表的な仕切価格の決め方は、仮に、OECDが取り決めた移転価格税制用の基本三法(Traditional Transaction Methods)と利益分割法(Profit Split Method)を援用したとして、独立企業間価格、すなわち、arm’s length price が判明しているという大前提が成立している必要があります。

しかし、現実の世は、市況製品(原油や貴金属など)のようにスポットでもいいので公開取引市場が全ての財・サービスに当てはまるわけでもありません。ましてや、納期、品質、安定供給などといった取引条件まで、そっくり同じものを見つけてくることは至難の業。

それゆえ、どうしても、社内取引価格は、製造者側の製造コスト、販売者側の実勢価格をベースに双方の適正利益率を考慮して決定されることが通常です。その場合、上流・製造側が親会社だった場合、CP法で親会社の製造利益をまず確保する傾向にあります。一方で、下流・販売側が親会社だった場合、RP法で親会社の販売利益をまず確保する傾向にあります。

公平に、貢献度に比例してPS法で、という声もあるにはあるのですが、「公平」「貢献度比例」を、それぞれの標準原価や実勢販売価格(市場価格ともいう)を相手に押し付けるだけの結果に終わることも多々あります。

賢らに、管理会計の教科書には、市場価格を参照せよとか、全社最適で公平に貢献度を評価することができるより上位監督者が社内取引価格の妥当性について裁可を下すのである、と言い放っているものもあるのですが、実務をあまりに知らない先生の戯言にすぎないのです。

実務解とはこれいかに? 最終結論ではありませんが、会計責任に基づく動機付けの観点から、取引条件を少し工夫して、できるだけ納得性の高い仕切価格を設定できる道もあるにはあるようです。次回は、主に、生産形態別の納得性を追求した仕切価格決定メカニズムの説明をしたいと思います。お楽しみに。(^^;)

(連載)
⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?
⇒「業績管理会計の基礎(8)事業別組織における責任会計構造の設計 ②社内商流・社内取引による振替価格制度の功罪とは
⇒「業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!
⇒「業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定
⇒「業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦
⇒「業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

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