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業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定

業績管理会計(入門)
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■ デカップリングポイントの置き方で社内仕切取引の型を考える

取り扱い製商品の性質と顧客との営業関係の妙で、大別すると、顧客からの注文を受けてから製商品を購買・生産する「受注生産方式」(受注調達方式)と、見込で製商品の在庫を調達・生産しておいて、顧客の引き合いがあった都度、販売する「在庫販売方式」(見込生産方式)とに、ビジネスモデルを大別することができます。まだ、ネットやアプリ全盛の現況にピッタリ合う方式は一般的になっていません。当然、筆者に個別にコンサルティングを依頼して頂ければ、適確なモデルを提示する準備はありますが。(^^;)

今回は、古くて新しい、生産方式の別による社内取引制度(社内仕切制度、社内振替制度、振替価格制度)について、もう少しだけ踏み込んだ実際の運用法を解説したいと思います。

(参考)
⇒「サプライチェーン管理(2)- 在庫の持ち方によるビジネスモデルの分類
⇒「サプライチェーン管理(3)- デカップリングポイントによる7つのビジネスモデル

デカップリングポイントは、在庫をはさんで、在庫を作る仕事と在庫を捌く仕事の流れをいったんそこで分離することができます。社内(グループ内)において仕事の流れがいったんストップする地点(時点)こそ、社内取引を認識するポイントにふさわしいと言えるのです。

経営管理(基礎編)_『デカップリングポイント』による7つのビジネスモデル

「在庫」概念を顧客に提供される価値を具象化したものという定義に従えば、必ずしもハードウェアと製造業に限定されたものではなく、固定概念の枠を超えて、他業種を含む一般的な議論へと昇華させることができます。

経営管理(基礎編)_7つのビジネスモデルと業種・業態の関係

 

■ 「受注生産方式」におけるコミッションフィー方式

下図は、受注生産方式のケースで、生産事業部と販売事業部の双方が納得しやすいであろう社内取引の仕組みを図解したものです。販売ロイヤリティ方式、コミッションフィー方式、営業口銭方式などと一般的に呼ばれる取引方法です。顧客に対して、販売納期、製商品の品質、直接的なコストと会社が得るマージンは生産事業部がそれらすべての責任を一義的に負います。

業績管理会計(入門編)受注生産方式における振替価格制度

販売事業部は、顧客の探索、見積作成支援から契約締結までをミッションとします。プロフィットセンターとして、自事業部の収入(コミッション)をなるべく極大化したいと考えれば、できるだけ顧客への販売金額を引き上げるように営業努力するように仕向けます。

一方、生産事業部は、販売事業部がもたらしてくれたビジネスチャンスをふいにしないように、真摯に原価見積(C)と納期設定(D)と品質保証(Q)を行い、販売事業部の契約締結への全面支援を行うように動機づけられるように仕向けます。

ここで運用の手練手管を2つ。

(1)製造固定費の回収と赤字受注
完全仕切制度とした場合、販売事業部は仕切価格より低い販売機会は、逆ザヤとなってしまうため、提案辞退をするのが、プロフィットセンターとしての正しい営みです。しかし、製造事業部としては、限界利益がプラスである値付けであり、かつ設備稼働率に余裕がある場合は、その赤字受注は受諾した方が全社として採算は改善します。

コミッションフィー方式の場合は、販売事業部は販売金額に対して一定の乗率が自事業部の収入となるので、赤字受注かどうかの判断は生産事業部の裁量に任せることができます。販売事業部は、常に、ビジネスを拡大するために、広く市場に対して顧客探索に努力を集中させることができます。生産事業部は、販売事業部がもたらしたビジネスチャンスに対して、自組織で完結したQCDに対する意思決定を行うことができます。責任会計としては、ミッションと会計責任のバランスが取れている、比較的優良な社内取引制度ではないかと筆者も感じています。

(2)値引販売によるブランド価値の毀損
コミッションフィー方式にした場合、販売事業部としては、何でもかんでも受注を取って量というか販売金額を嵩増しすれば、自事業部の収入および利益が増えるので、ブランド価値とか生産ラインの逼迫度などを度外視して、無理な受注、いわゆる採算度外視をした大幅な赤字受注、を行いがちとなる、という批判の声も聞かれます。

この方式を上手く機能させるには、QCDの判断権限は生産事業部へ、そして最終的な受注可否判断も生産事業部に委ねることで、上記のような弊害を回避することができます。それでも、販売事業部が調整する余地、もしくは生産事業部が譲歩する余地もあります。それは、生産事業部から販売事業部へ案件ごとに、コミッションフィーの乗率の値引を申し出ることです。販売事業部としては、コミッションを得られる機会そのものをフイにするか、コミッションマージンが低下しても少しでも収入を得ようとするか、販売事業部の方でも、プロフィットセンターとしての判断ができるように制度設計するのです。

 

■ 「在庫販売方式」における仕切価格方式

下図は、在庫見込生産のケースで、主に販売側に着目して、在庫販売方式と呼ぶ方式と同義となります。こちらの方が、社内振替制度としてはより一般的で、多くの人がイメージするものであると思われます。

業績管理会計(入門編)在庫販売方式における振替価格制度

販売事業部が需要予測を自組織の責任としてまず行い、PSI計画を適宜見直しながら、生産事業部へ社内発注を行い、生産事業部から在庫を引き取ります。売れ残りがでそうになったら、大幅値引きをしてでも、ボリュームディスカウント等という契約条件を提示してでも、売り切ろうとするインセンティブが販売事業部に自然と生まれます。

注)PSI:
Production(生産)またはProcurement(調達)、Sales(販売)、Inventory(在庫)

受注生産方式に基づくコミッションフィー方式とは真逆で、販売または生産量と、多品種の製商品を取り扱っている企業においては、セールスミックス(またはプロダクトミックス)についても、販売事業部が主導権を握る取引構造になっています。

上記のように筆者が解説すると、多くの読者は首を捻るであろうことも承知しています。それは、日本の産業構造に根深い原因があるのです。

これまでの、日本の産業を支えていたのが製造業でした。そして、親会社は日本にあり、企業成長と事業多角化を標榜して、海外市場に販路を求めました。これが何を意味するかというと、日本の親会社内にある製造部門と海外拠点にある販売部門における仕切価格制度における意思決定構造がねじ曲がっていることがお分かりかと思います。

つまり、仕切価格制度は、販売事業部側が、

① 市場価格から逆引きで適正な仕切価格を決める
② 需要予測から、売れるであろう製商品のポートフォリオを決める
③ コンペチタ―との競争から納期設定を行う

という機能活動を担うのが自然なのですが、

① 資本的支配構造が日本の親会社にある → 海外拠点は日本の指示に従え!
② 製造部門の多くは日本にある → 工場が作ったモノを販社は営業努力で売り切れ!

という社内マインドが蔓延しているはずなのです。つまり、多くの日系製造業において、社内仕切制度は、その意思決定の中心的役割と機能活動とが不一致であるため、至る所で機能不全を引き起こす元凶となっているのです。

そこで、筆者も長い間、日本の製造業様をお客様にしてコンサルティングをしている手前、上記のようなジレンマに手をこまねいているわけではなく、

① 販売事業部と生産事業部が、仕切価格の前に、市場価格の値決めを真剣に協議する
② SCMの仕組みの活用、製販会議の設定などにより、両者の利害調整を仕組化する

という風な提案を続けています。

しかしながら、上記の日系製造業の構造的な課題がある中で、このような施策は弥縫策に過ぎないことも承知しています。経営管理とか管理会計の制度設計を担う人には、もう少し広い視野でビジネス環境を眺められるようになることをお勧めします。(^^)

(連載)
⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?
⇒「業績管理会計の基礎(8)事業別組織における責任会計構造の設計 ②社内商流・社内取引による振替価格制度の功罪とは
⇒「業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!
⇒「業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定
⇒「業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦
⇒「業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

業績管理会計(入門編)業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定

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