業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

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■ プロフィットセンターとしての事業部利益の意味を問う

事業部制組織によるプロフィットセンターに対する事業部利益にこだわった事業評価、事業部管理を実践するのに、制度的な2つの論点である、社内取引制度(社内仕切制度、社内振替制度、振替価格制度)と共通固定費の配賦を取り上げてきました。

今回は、事業部利益の質を左右する3つの要素と、本社費の配賦の論理の両立をはかる実務解はどの辺にあるのかを探っていきたいと思います。理論だけなら、教科書を読んでください、ということです。わざわざ、ネット検索されて、本ブログに辿り着いたということは、教科書的な紋切り型の答えではご満足されていないんでしょう?(^^;)

反復連打の繰り返しになりますが、筆者が強調する事業部利益の性質を以下に再掲します。

<事業部利益の質>
① 事業部長の事業活動の裁量下で生み出される「管理可能利益」であること
② トップマネジメントが事業ポートフォリオ管理をする際の指標として利用できる「業績評価利益」であること
③ 株主に対する説明責任を果たすべく、すべての事業部利益を合算すると全社利益となり得る「セグメント利益」であること

等しく、これら3つの事業部利益が備えるべき条件を唯一の利益指標で代表させることができたなら、こんなに幸せなことはありません。

「管理可能利益」で、「業績評価利益」で同時に「セグメント利益」にもなり得る事業部利益を求めることはできるか?

この問いに対して、一般的な事業部制を採る日系企業においては、答えは「否」というのが筆者の見解です。それでは、何か解決策というか、実務解は無いのでしょうか? あります。3つの性質をひとつの利益指標で代表させることができないのなら、3つそれぞれ用意すればいいのです。簡単でしょ!

 

■ 3つの事業部利益を使い分けるために必要なこととは?

3つも事業部利益の定義があると、それぞれがバラバラに運用される恐れがあり、それでは組織内で事業部運営に支障が出そうという声があることは分かっています。それゆえ、3つの事業部利益は、たったひとつの事業部別P/Lの中で実現します。つまり、3つの事業部利益の相関関係を明確に定式化し、相互の差異は理解可能なように運用するのです。それは、通常の、制度会計上の損益計算書(P/L)には、段階利益というものがあることを業績管理会計に援用するのです。営業利益と経常利益の間には営業外損益があります。経常利益と税前利益の間には特別損益があります。事業部利益にもそういう段階利益概念があってもいいのです。

業績管理会計(入門編)事業部利益を段階利益で理解する

事業部別損益表においては、ネーミングセンスは各社各様でOKとして、このような段階利益を置き、目的別に使い分けることにします。むしろ、その段階利益の間に差しはさまれている配賦金額の意味の方が重要です。

① 事業部管理利益
② 事業部貢献利益
③ 事業部営業利益

① 事業部管理利益
収益も費用(原価)も、その発生要因が全て事業部長による事業部運営に起因するもので構成される。よって、その差額概念で計算される利益は、事業部長の会計責任を問うに十分な利益概念となる

② 事業部貢献利益
期初の予算編成や目標設定の際に、本社管理部門からの配賦額を予算額(予定額)として、事業部長と管理本部長との間で握っておく。予め本社費の負担を約束したうえで稼ぐ利益を経営者と事業部長で握る。事業部の全社利益への貢献度を測る利益概念となる

③ 事業部営業利益
本社管理部門で発生したすべての実本社費を賄ったうえで各事業部がどれくらいの利益を上げたかを見る。経営者にとって、本社費の回収計算を行ったうえで、各事業部の稼ぐ力を社外の利害関係者(株主や債権者など)に説明するための利益概念となる

 

■ 本社費の予定配賦と実際配賦にこだわる理由とは?

事業部制は、その設計思想から徹底的に分権化組織であるべきです。よって、事業部長がミニ社長として、その組織の全責任を負うと共に、全権限も持つ必要があります。それゆえ、自身の権限が及ばない本社管理部門でいくらの予算差異が発生するのか、アンコトローラブルなので、これを事業部長の責任内に収めるには無理があります。それゆえ、予算編成時に、各事業部には、一定額、もしくは一定のルールに従った本社費の負担をお願いした上で、各事業部の目標利益を設定してもらいます。

筆者はこれを、事業部長の立場からすれば、「事業部管理利益」と「事業部貢献利益」との間には実質的な差異はないのだがね、と考えています。なぜなら、経営者と事業部長の間で、本社費の負担相当分(予定配賦額)を上乗せした「事業部管理利益」を握れば、あえて、事業部長の目線から、「事業部貢献利益」の目標(予算)と実績の差異を測定する意味はないからです。

これは、あくまで、経営者がコストセンターである管理本部長に対するコスト発生責任(予算枠内にコストを抑制する)を問うために、事業部別損益表に組み込んでいると解釈するのが妥当でしょう。こうすることで、事業部別の利益責任を追及する事業部別損益表の中に、コストセンターである管理本部も苦も無く組み込むことができて、組織別の会計責任管理が楽になるからです。

その上で、全社の固定費回収計算を行ったうえで、全社が本当に黒字になったかを知るために、本社費の実際配賦を行います。この時、先に予定配賦を行っているので、予定配賦額と実際配賦額の差額だけを最後に事業部損益に乗せれば、事業部営業利益は計算することができます。

 

■ 事業部利益という名前でも、事業部長のあずかり知らぬ利益があっても良い理由とは?

事業部長は、自身の組織運営の良否を判断するために、「管理利益」に集中していればいいのです。一方で、本社コーポレート部門の責任者と経営者は、本社費が十分に回収できる程度の事業部利益が上げられるか、という全社の収益性を検分するために、本社費の予定配賦後の事業部貢献利益の程度を知る必要があります。ここで、全社損益が赤字になるなら、

① 各事業部の収益性が不足している
② コーポレート部門の構えが大きすぎる

のいずれかの問題が潜在化しているであろうことに気づくことになります。経営者は予算段階でどちらかの問題を解決するようにするべきでしょう。両方の負の相乗効果であることも多いですが。(^^;)

もうひとつ、仮に、本社費の予定配賦総額より実際配賦総額が増えてしまった場合、全ての責をコストセンターである本社管理部門長に負わせることは危険極まりないことです。もしかすると、とある事業部からのビジネス支援要請により、本社費が予算より膨らんだ可能性もあるのです。経営者は会計的数字の裏に潜む実態の把握に努めるべきです。

事業部利益は、決算後に結果だけを見て簡単に評価できるものではなく、予算や目標設定時にも留意すべきことがあること、誰のための、何の目的のために測定される利益概念かを忘れないこと。これが大事ですね。

(連載)
⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?
⇒「業績管理会計の基礎(8)事業別組織における責任会計構造の設計 ②社内商流・社内取引による振替価格制度の功罪とは
⇒「業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!
⇒「業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定
⇒「業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦
⇒「業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

業績管理会計(入門編)業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

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