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業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?

業績管理会計(入門)
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■ 事業別組織のメリット・デメリットとは

前回は、機能別組織における組織運営のメリットと会計責任構造の設計のポイントを説明しました。今回は事業部制組織における会計責任制度の設計を取り上げます。もうほとんどそれは代表的なプロフィットセンター管理手法の解説そのものに他なりません。

まずは、事業部制組織の特徴をかいつまんで説明します。

① 事業多角化に適した情報管理に適している
分権的組織の代表格として、経営トップから傘下の事業に関する意思決定を大幅に権限移譲されています。各事業内では、担当する事業に関することならば、顧客・市場情報、製品・開発情報、内部オペレーション情報に関する情報共有が容易になります。そうすることで、コンペチタ―の動向、市場動向や経営環境の変化への機動的対応を容易にすることにつなげることができるのです。

② 事業ポートフォリオ管理に適している
経営トップは、各事業が直面している個々の市場動向や、幾百・幾千の製品単位の開発進捗や需給状況を細やかに把握することは不可能です。それゆえ、ブランド、販売市場、サプライヤーとの取引単位、製品、要素技術の単位で業績管理ユニットを形成します。それぞれのユニットのほぼ全権を事業担当者に任せるとともに、自らはそれらの間の経営資源の配分意思決定に集中するのです。

③ 専門家の利益を犠牲にしてしまう
各事業部はかなり独立性の強い組織となってしまうため、分業することによる専門家の利益を犠牲にしてしまいます。例えば、研究開発や生産技術について、全社レベルでの知識共有や経験蓄積の機会が減じる恐れが出てきます。

⇒「組織管理(1)- 組織デザインを考える 「分業」の利益と「調整」コストのバランス

④ 経営資源の重複投資の危険性が出てくる
これは具体例を出した方が理解しやすいようです。例えば、複数の事業部が同じ国に海外進出する場合、同時期に同じ地域・国に海外拠点や生産工場を作ってしまい、共通固定費や管理費が高つくことがあります。また、新事業への進出についても、通信機器製品を扱っている事業部と、ソフトウェアを扱っている事業部とで、新たにネット環境でコンテンツビジネスを展開しようとした際、それぞれの要素技術と開発リソースを持ち寄らずに、個別にプラットフォームを構築するため二重投資が発生するリスクも生じかねません。

⑤ 業評価や報酬体系の構築の難しさ
各事業部は権限と会計責任において、経営層・トップマネジメントに対して、平等でかつ公平に、横並びで評価されるべしと一般的には考えられています。そうでないと、大きすぎて分割統治せざるを得なくなった組織を、水平的または垂直的に、多角化または分権化して各責任者に任せることができないからです。しかし、60年代から事業管理に活用されているプロダクト・ポートフォリオ管理(PPM)をそのまま適用してしまうと、成熟事業と成長事業とで、資金需要も利益率や成長率もバラバラな中、同一基準による業績測定と事業評価は最初から難問です。

⇒「経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

⑥ 次代の経営者の孵化器として有用
小なりとはいえ、一つのビジネス単位を任される事業部長の権限と必要とする知識・経験は大変広範でかつ多様的なものになります。事業部長のそうした日々の事業部オペレーションから得られる経験は、次の段階のより大きな組織(全社)の経営トップになるための訓練期間ともいえます。

⑦ 目標の整合性と分権化組織の業績評価の整合性
各事業部が自律的に自部門の利益を最大化するように行動しても、常に会社全体の利益を最大にするように最終的には帰結するように制度設計がなされている必要があります。よその事業部にいちいちお伺いを立てないと、自組織の機動的な事業戦略を実行できないとしたら、それはすでに分権化組織として制度設計した目的に達していないことになります。そうした遠慮がない意思決定を各事業部長に促すためにも、各事業部長の業績評価指標の設定は重要になります。たいていの場合、事業部はプロフィットセンターとして利益指標が業績評価指標に選ばれます。

本シリーズは、この点について、プロフィットセンターとしての事業部の業績評価の問題点にフォーカスを当てていきたいと考えています。

経営管理(基礎編)_事業部別組織

 

■ 事業別組織の会計責任構造の基本形はプロフィットセンターである

前章で7つの事業部制の特徴を説明しましたが、その底流にあるのは、事業多角化と事業ポートフォリオ管理の考え方です。各事業部の責任者が該当事業の利益責任を死守すれば、各事業が頑張った分の利益の合計が全社利益となる会計責任構造が理想形となります。

業績管理会計(入門編)事業別組織の会計責任構造

事業部長は、業績評価ユニットとなる事業部単位で、
・他ユニットや社外の顧客に対する収益
・自組織で発生するコスト
のそれぞれの獲得・発生に責任を持ち、その差額概念である利益に責任を持つことになります。つまり、プロフィットセンターは、レベニューセンターとコストセンターの合成であることが分かります。

この時、トップマネジメントは、事業ポートフォリオマージャ―として、各事業部への資源配分と業績評価判定をする責務と権限があります。これをもって、トップマネジメントの会計責任は「インベストメントセンター」と呼べなくもありません。しかし、そうなると、会社内組織構造の如何を問わず、対株主に対しては、投資リターン(具体的なTSRとかROE、ROICという指標選択の話は別稿で)を約束するプリンシパル・エージェント関係にあるので、常に投資収益性責任を持っているものとします。それゆえ、ここでは各事業部のプロフィットセンターを合計したものが全社のプロフィットセンターとしての業績として扱うことにします。

各事業部は、事業部長を疑似的な社長(経営者)として、利益責任を負うプロフィットセンターとして責任会計上の業績管理単位として認識されることになります。その利益の質が次のポイントになります。

<事業部利益の質>
① 事業部長の事業活動の裁量下で生み出される「管理可能利益」であること
② トップマネジメントが事業ポートフォリオ管理をする際の指標として利用できる「業績評価利益」であること
③ 株主に対する説明責任を果たすべく、すべての事業部利益を合算すると全社利益となり得る「セグメント利益」であること

 

■ 事業部利益の質を左右するのは組織デザインである

筆者が現役の経営コンサルタントとして心砕くのは、この点です。業績評価指標と組織デザイン(組織の業務権限と会計責任のバランス)が適切に設計されているかということです。日本企業は、これまでの経営の慣性の法則(悪しき継続性の原則ともいう)に従い、前例踏襲主義で、なかなか組織形態を改めることがありません。否、毎年、必ずと言っていいほど組織変更はするのです。しかし、会計責任構造まで適切に変容させている例にあまり当たりません。木に竹を接ぐ業績管理会計制度の設計があまりに多くて困ります。(^^;)

(1)一部事業部制組織
通常、事業部の範囲とは、その事業が直面しているビジネスを独立的に運営できる組織から構成されるべきです。すなわち、バリューチェーンにしたがって、マーケティング、商品企画、需給調整、購買・生産、販売、アフターサービス、そして関連する間接業務を一人の事業部長の指揮下で統率されて活動させるからこそ、他事業から独立して、利益責任を負うことができる事業部たりえるのではないでしょうか。

しかし、バリューチェーンの一部を、
① 専門家利益の享受
② 特定機能にかかる共通固定費の多重利用
を理由に、事業部長の指揮下から外す組織形態を採る日本企業がほとんどといっても過言ではありません。

この場合、計算される事業部利益が、
① 事業部長がその発生・獲得に関して十分に管理可能か?(管理可能利益か?)
② その事業部の本当の稼ぎはいくらか?(業績評価利益か?)
という点が怪しくなるのです。

経営管理(基礎編)_一部事業部制組織

(2)ライン&スタッフ組織
通常、事業部の範囲とは、独立したバリューチェーンの運営に必要な経営資源が集中管理されているべきと考えられます。しかし、上記(1)に加えて、各事業部の規模が十分にない、つまり、間接業務に当たらせるべき独立したスタッフを養う規模にないが事業部の看板を掲げているケースが多くみられます。当然、コーポレートとか本社とか呼ばれる組織の間接業務支援がないと、事業部運営ができないため、そのコーポレート組織の運営コストの負担が問題視されることになります。

この場合、計算される事業部利益が、
① 事業部長がその発生・獲得に関して十分に管理可能か?(管理可能利益か?)
② その事業部の本当の稼ぎはいくらか?(業績評価利益か?)
③ 合算して全社利益となるのか?(セグメント利益か?)
という点が怪しくなるのです。

経営管理(基礎編)_ライン&スタッフ組織

⇒「組織管理(2)- 組織デザインパターンの応用形 「機能別組織」と「事業部制組織」の間には

業績管理会計のテクニック的には、上記のような問題は、次の2つの管理会計制度設計の問題に帰結します。

① 社内商流・社内取引制度における社内振替価格の適切な設定(社内振替価格制度)
② 本社組織の共通固定費の適切な負担ルールの設定(本社共通費の配賦基準)

筆者は、この問題に対処し始めて四半世紀以上。この「適切な」というものは決して成立しないと声を大にして言いたい!

しかしながら、読者の方々は、それを踏まえたうえで、どうにかする知恵がないかとこの連載を楽しみにしていらっしゃると思います。そこで、無い知恵絞って、この問題にどう対処すべきか、基本的な姿勢を次回以降、説明していきたいと思います。(^^)

(連載)
⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?
⇒「業績管理会計の基礎(8)事業別組織における責任会計構造の設計 ②社内商流・社内取引による振替価格制度の功罪とは
⇒「業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!
⇒「業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定
⇒「業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦
⇒「業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

業績管理会計(入門編)業績管理会計の基礎(7)事業別組織における会計責任構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?

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