業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦

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■ 事業部の利益の質を高めるための着眼点とは?

事業部制組織によるプロフィットセンターを、社内取引制度(社内仕切制度、社内振替制度、振替価格制度)の観点から3回にわたって、事業部の利益の質をどうやって、高めるかというお話をしてきました。

<事業部利益の質>
① 事業部長の事業活動の裁量下で生み出される「管理可能利益」であること
② トップマネジメントが事業ポートフォリオ管理をする際の指標として利用できる「業績評価利益」であること
③ 株主に対する説明責任を果たすべく、すべての事業部利益を合算すると全社利益となり得る「セグメント利益」であること

⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?

実務解として、次の2つに着目して、筆者は事業部別業績管理制度を設計してきました。

① 社内商流・社内取引制度における社内振替価格の適切な設定(社内振替価格制度)
② 本社組織の共通固定費の適切な負担ルールの設定(本社共通費の配賦基準)

ようやく、今回は、本社共通固定費の配賦に触れられそうです。共通費(あるいは固定費)の配賦の議論は管理会計の花。はてさて、どういう理屈で説明してきましょうか。(^^)

管理会計(基礎編)_共通費の配賦に対する対立的見解

(参考)
⇒「固定費の配賦の目的をきちんと認識していますか? -共通費と固定費の違い
⇒「事業部別業績管理 間接費の配賦

 

■ そもそも事業部への配賦にどうして日本人は疑問を感じないのか?

そもそも、事業部とは、それが独立して市場に対面し、機動的な意思決定を可能にし、どれだけの成果(例えば事業部利益など)を上げることができるか明確に評価できることを前提に組織化されるものであると、一般的な組織論や管理会計の教科書には記述されています。しかし、現実には、関係各所との社内調整に次ぐ社内調整。その上、様々な社内取引により、事業部長が完全に自分の責任だけで対処しきれない事業部利益を表す管理レポートが社内で出回る始末。そして、これに大抵の日本人は「なぜ」と思わない不思議。それは、ライン&スタッフ組織が、事業部別組織(事業部制組織)の一形態ではなく、事業部別組織そのものという思い込みがあるではと邪推しています。

経営管理(基礎編)_ライン&スタッフ組織

上図によると、管理本部長の配下には、大別して2つの性質を持つ部門がぶら下がっています。

① シェアードサービス部門
② コーポレート部門

① シェアードサービス部門
例えば、調達・購買部門がそれに該当するのですが、一個の独立したビジネスを営む事業部としては、固有の購買・調達部門を中に抱えることは、別段問題視されることではありません。しかし、CEOなどの経営者が、各事業部個別に存立する調達・購買部門を全社統合して、各事業部の配下から取り出すことがあります。

その理由は、「専門家利益」の享受と、全体最適化。サプライヤーとの丁々発止の買った売ったの交渉術は一朝一夕に身に付くものではありません。その道のスペシャリストとしての購買担当者に全社の部品や原材料、商品の調達を一括して任せた方が、自社に有利な売買条件を引き出せるというものです。

全体最適の方は、例えば、集中購買とか全社購買と呼ばれるもの。製造業では部品の共通化という言葉も通りがいいかもしれません。まとめ買いすれば、ボリュームディスカウントが効いて安く仕入れることができます。また、製造業の場合、いろんな事業部で取り扱う購入部材の規格を統一すれば、設計技術や生産技術まで標準化する道につながり、全社で生産性が著しく向上するかもしれません。

② コーポレート部門
例えば、経理部や法務部。事業部それぞれでこういうスタッフを個別に雇い入れていると、人件費がかさみます。そういう専門性の高いスキルを必要とする機能部門は、全社で一箇所にまとめてしまえば、繁忙期の調整も効いて作業効率アップ、入社後教育コストも低く抑えることができるなど、ここでも、専門家利益と全体最適がキーワードとなります。

これが日本の大企業の当たり前の風景です。それゆえ、社内にシェアードサービス部門や コーポレート部門を抱えている企業では、それらの部門で計上されたコストは、発生時点では、まだどの事業部にかかったコストかを識別することができません。それゆえ、「配賦」という会計的お作法でこれらのコストを各事業部に割り振って、それぞれの事業部の本当の利益を探ろうとするのです。

 

■ 誰のための本社費の配賦か?

前章の最後に「事業部の本当の利益」という言葉を用いました。ここで言う「本当」とは? 「本当」の利益のために、事業部に本社費を配賦するというのなら、「本当」の持つ意味を100万回噛み締めて頂きたいものだと考えています。

まずは、社内にプロフィットセンターが2つ(A事業部、B事業部)あり、コーポレート部門が1つ(管理本部)ある場合の事業部別損益がどのようになるのか図示します。

業績管理会計(入門編)本社費を配賦しない場合の事業部の業績

繰り返しになりますが、事業部利益には3つの性質を併せ持つ必要があります。

<事業部利益の質>
① 事業部長の事業活動の裁量下で生み出される「管理可能利益」であること
② トップマネジメントが事業ポートフォリオ管理をする際の指標として利用できる「業績評価利益」であること
③ 株主に対する説明責任を果たすべく、すべての事業部利益を合算すると全社利益となり得る「セグメント利益」であること

事業部長にとって、コーポレート部門で発生した本社費を、自分のあずかり知らぬところでいくら背負うことになるのか、つまり本社費の配賦額がいくらになるのか、決まったとして、その被配賦額を唯々諾々と受け入れられるものでしょうか。上記の「管理可能利益」としての事業部利益の性質を失ってしまうので、本社費の配賦を安易に受け入れてしまっては、事業部長としての利益責任を全うすることはできません。

にもかかわらず、日本企業で本社費の配賦が日常化しているということは、どの企業も「業績評価利益」と「セグメント利益」の情報を欲していることの裏返しだということができます。つまり、本社費の配賦は、事業部長ではない誰かのために行われると言っても過言ではないのです。

 

■ 全体最適と管理可能性の追求は完全なトレードオフ関係にある!

そもそも、共通経営資源の多重利用による共通固定費の節約とか、専門家利益の享受とかは、機能別組織が得意とするところです。そこでの全体最適を図るための施策、または全社規模での利益管理は、経営管理職(CEO)のミッションであったはずなのです。にもかかわらず、一部事業部制とか、ライン&スタッフ組織とか、事業部別組織(事業部制組織)の長所を一部取り崩してまで、機能別組織で得ようとしたメリットを実現しようとすると、責任会計制度が崩れてしまうのです。

つまり、本社費の配賦とは、事業部長の管理可能性原則を貫くことをあきらめるほど、専門家利益や共通経営資源の多重利用によるコストメリットの方を優先した方が、全社利益にプラスになると判断されたときに行われるものなのです。

業績管理会計(入門編)本社費を配賦する場合の事業部の業績

上図は、A事業部とB事業部に割り勘方式で本社費を配賦した事業部別損益表になります。本社費の配賦が、事業部長の会計責任を崩壊させる2つの要素をできるだけ簡単に説明します。

(1)本社費の節約の責任が曖昧になる
A事業部長も、B事業部長も、管理本部で発生する300という金額が本当に発生不可避なのかを知るすべもないし、300をなるべく減らそうと工夫する手段も持ち得ません。経営者に対して、管理本部長が、本部予算300が妥当かどうかの説明責任を有していると考えるのが妥当ですし、管理本部長でないと、300の本社費の節約の方法を考えることはできません。それゆえ、本社費の実際発生額としての全額300を配賦先の各事業部長の統括する事業部利益に含めてしまうと、300の管理責任が中空に浮いてしまう恐れがあるのです。

(2)本社費の適切な配賦基準を探すのが難しい
上図は、とりあえずA事業部とB事業部とに本社費を割り勘で配賦してみたものです。それでは、よく耳にする、以下の配賦基準でA事業部とB事業部の利益を求めてみます。

①売上高基準
②コスト基準
③利益基準
④用役基準(在席人員比、A事業部:400人、B事業部:200人)

業績管理会計(入門編)様々な配賦基準で本社費を配賦する

この表における利益率は、売上高利益率(ROS: Return on Sales)を用いています。さて如何でしょうか? 筆者は何も会計操作も粉飾もしていません。4つの配賦基準があれば、4つの配賦結果があるだけです。そして、どの配賦基準が正しいか、誰が判断できるのでしょうか? あちら(A事業部)を立ててればこちら(B事業部)が立たず。(^^;)

適切な配賦基準があるのではない。誰かにとって有利(不利)になる配賦基準があるだけだ!!!

適切な配賦基準などこの世に存在しません。そもそも「適切な配賦基準」とは言葉として矛盾しています。適切に損益(原価)評価対象に配分できないからこそ、「配賦」という会計的手続きを取っているのです。適切な割り当て方法があるのなら、それは「配賦」を語る前に、その適切とされる方法で「直課(あるいは賦課)」されているはずですから。(^^;)

さてさて、今回、何度、「そもそも」という言葉を使ったんでしょうね。それくらい、この問題は業績管理会計の本質・本源に近いものなのですよ。

(連載)
⇒「業績管理会計の基礎(7)事業別組織における責任会計構造の設計 ①プロフィットセンターとしての事業部利益管理を難しくしている要因とは?
⇒「業績管理会計の基礎(8)事業別組織における責任会計構造の設計 ②社内商流・社内取引による振替価格制度の功罪とは
⇒「業績管理会計の基礎(9)事業別組織における会計責任構造の設計 ③社内取引制度は仕切価格をどう決めるかがポイント!
⇒「業績管理会計の基礎(10)事業別組織における会計責任構造の設計 ④受注生産方式と在庫販売方式で異なる仕切価格の設定
⇒「業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦
⇒「業績管理会計の基礎(12)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑥本社費の配賦と管理可能利益の両立

業績管理会計(入門編)業績管理会計の基礎(11)事業別組織における会計責任構造の設計 ⑤本社コーポレート部門における共通固定費の配賦

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