そもそもキャッシュフロー計算書とは
日本では、C/Fとの略称の方が通りが良いですが、英語圏では、SCF のほうが大勢を占めているので、ここではそれに倣って、SCFと呼称(記載)することにします。
SCFは、一会計期間における、現金及び現金同等物 Cash and cash equivalents の増減変化を表すものです。I/S は、当期純利益 Net income の一会計期間における増減変化を表すものなので、利益がキャッシュになっただけの、1年間の増減明細と素直に理解していただければ事足りるでしょう。
USCMAの過去問でも、現金同等物の定義が問われるものがあったので、改めて確認しておきます。
Cash equivalents の本義は、ほとんど現金と言ってもいい金融商品のことです。ほとんど言っていい、という定義には2つの意味が込められています。文章にすると下記の通り。
- highly liquid(容易に換金可能である)
- Short-term(価値の変動について僅少なリスクしか負わなくて済む)
これを形式的に整えるために、
- 取得日から満期日または償還日までの期間が3か月(90日)以内
という条件をクリアする短期投資項目のみにその資格が与えられます。代表的なものとしては次の通り。
- treasury bills 財務省短期証券
- commercial paper コマーシャルペーパー(CP)
- money market funds
ただ、ここに引っ掛け問題があるかもで要注意です。通常、treasury notes, treasury bonds なんかは、中期と長期の債券なので、償還日が3か月後という状態で新規発行されることはないので、cash equivalents にそのままなることはありません。
しかし、流通市場 secondary で、償還日まであと3か月を切る時点で購入した場合は、cash equivalents の仲間入りになります。その一方で、償還日まで3か月以上前に購入した treasury notes や treasury bonds の償還日を3か月切ったら、投資勘定から現金同等物勘定に自動的に切り替えることもしません。購入時点の投資勘定のままにしておきます。
SCFの作成上の形式面で問われること -取引の分類
一会計期間のキャッシュの増減を表示するのに、関連する取引を次の3つに分類して表示がなされます。この分類を問う過去問題がありました。いまさら感ありありですが、
分類に迷うことはあまり考えられませんが、日米の会計規則の違いは押さえておく必要があるかもしれません。まず、日本の方は、受取配当金、受取利息、支払利息について、下表のような選択の余地があります。
少なくともUSCMAの試験上は、下表のように決め打ちで問題ないと思います。TAC講師の方がそうおっしゃるので。
Interest | Dividend | |
受取 | Operating | Operating |
支払 | Operating | Financing |
この表が意味するところは、SCF にて Operating Activities に分類するものは、I/S に計上される取引で、Financing Activities に分類するものは、I/S に計上される取引ではない、と暗記するのが良いとのこと。
SCFの作成上の形式面で問われること -営業CFの表示方法
ここは日米で同じ論点なのですが、営業CFの表示方法には、2通りあります。
そして、出題も、Indirect method を前提に、Account receivables, Inventory, Accounts payable の増減を SCF に反映することを要求します。直接法の存在意義が問われています。
ここでは、気を取り直して、この三勘定の増減と営業CFの関係を整理して、今回の投稿を締めたいと思います。
Accounts receivable 売上債権
現金と売掛金は、同じく、B/Sの借方を構成する流動資産です。ですから、他の条件が一定であると仮定した場合、貸借バランスをとるために、期首時点と期末時点の売掛金のマイナスは、その分、現金のプラスと考えます。逆に、売掛金のプラスは、その分を、現金のマイナスと考えます。
これを、実際の営業現場の理解から後付けします。毎年同じ売上を計上していて、全部掛売上 Credit sales だとした場合、売掛金の回収期間が変わらなければ、売掛金の残高は、期首も期末も同額ということになります。
ここで、期首と比べて期末の売掛金の残高が減ったということは、その分、回収が早まり、債権回収分は手元に現金の増加として現れることになります。
逆に、期首と比べて、期末の売掛金の残高が増えたということは、その分、回収が遅くなったことを意味しており、債権が滞留した分だけ、手許現金が少なくなったと考えられるのです。
Inventory 棚卸資産
棚卸資産も売掛金と同様に、現金と同じく、B/Sの借方を構成する流動資産です。ですから、他の条件が一定であると仮定した場合、貸借バランスをとるために、期首時点と期末時点の棚卸資産のマイナスは、その分、現金のプラスと考えます。逆に、棚卸資産金のプラスは、その分を、現金のマイナスと考えます。
これを、実際の営業現場の理解から後付けします。毎年同じ売上を計上していて、全部現金仕入だとした場合、在庫期間が変わらなければ、棚卸資産(在庫)残高は、期首も期末も同額ということになります。
債権債務の回収・支払から棚卸資産の動きを切り離して独立して考えるために、棚卸資産の全額は決まって現金売上されていると考えます。
ここで、期首と比べて期末の棚卸資産の残高が減ったということは、その分、販売を通じて現金回収が早まり、その影響は手元に現金の増加として現れることになります。
逆に、期首と比べて、期末の棚卸資産の残高が増えたということは、その分、現金回収が遅くなったことを意味しており、在庫が滞留した分だけ、手許現金が少なくなったと考えられるのです。
Accounts payable 仕入債務
買掛金は、流動負債であり、流動資産である現金とは反対の性質を持ちます。他の条件が一定であると仮定した場合、貸借バランスをとるために、期首時点と期末時点の仕入債務のマイナスは、その同額を、現金のマイナスと考えます。逆に、仕入債務のプラスは、その分を、現金のプラスと考えます。
反対と言っているのに、プラスとマイナスの方向が一致しているのはおかしいですか?
貸借関係にあるからこそ、反対科目の増加は自勘定の増加だし、減少は自勘定の減少ですよね。簿記上はちっとも変なことじゃありませんね。
これを、実際の調達現場の理解から後付けします。毎年同じ金額の棚卸資産を購入していて、全部掛仕入 Credit purchases だとした場合、買掛金の支払期間が変わらなければ、買掛金の残高は、期首も期末も同額ということになります。
ここで、期首と比べて期末の買掛金の残高が減ったということは、その分、仕入に対する支払期間が早まり、その影響は手元の現金の減少として現れることになります。
逆に、期首と比べて、期末の買掛金の残高が増えたということは、その分、サプライヤーへの現金支払いが遅くなったことを意味しており、サプライヤーへの信頼をもとに、支払代金を待ってもらっている(その分、サプライヤーから仕入れ代金を借りているのと同じ)分だけ、手許現金が多くなったと考えられるのです。
そもそも、SCF は、期首のB/Sと期末のB/Sの各館残高の差分を現金勘定(一部現金同等物含む)で解いているだけなので、上記のように、B/S項目の期首期末のΔ(デルタ)で各現金取引が表記されていても何ら不思議はありません。
財務諸表の構成が分かっていれば難なく計算問題は解けます。
I/Sの方が実は一段階難しいロジックに立っているほどです。I/Sを理解するためには、まず、B/S内で、Equity は、Asset と Liability の差額であるという前提を置きます。期首期末の Equity の増減を Net income という Equity の差額概念で説いたのが I/S ということになります。
まあ、本稿の最後の部分が理解できなくても、USCMAの Multiple Choice の問題は解けるのでご安心ください。^^)
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