小池氏、内部留保課税「修正も」 首相候補は検討中(後編)企業価値最大化に逆行する内部留保課税

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■ 「内部留保課税」を管理会計コンサルタントはどう考えるか?

経営管理会計トピック

まだ、衆院選の公示(10/10)前ですので、特定の政党の特定の公約に関する新聞記事へのコメントをお許しください。希望の党の6日に発表した公約において、2019年10月の消費増税の凍結を打ち出し、代替財源として、300兆円(この金額の説明は後述)にのぼる大企業の内部留保への課税をもって充てることを課税政策として掲げました。

後編は、前編から打って変わって、筆者の企業経営論にズバリ踏み込んだ解説となります。

露払いの前編はこちら。
⇒「小池氏、内部留保課税「修正も」 首相候補は検討中(前編)二重課税の回避は税制の常識のハズ

2017/10/7付 |日本経済新聞|朝刊 小池氏、内部留保課税「修正も」 首相候補は検討中

「希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は6日の日本経済新聞とのインタビューで、衆院選公約で掲げた内部留保課税の検討について修正もありうるとの認識を示した。」

「希望の党は6日発表した公約で、2019年10月の消費増税の凍結を打ち出した。代替財源として「300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討する」と明記した。」

「小池氏は「2%課税すればそれだけで6兆円出てくる」と指摘。一方で「(東京証券取引所などが導入した)企業統治指針に沿ってインセンティブをつけたらどうか」とも語った。課税にこだわらず税制優遇措置の拡充なども含めて経済界と協議する意向を示した。内部留保を配当や人件費などに振り向け、経済活性化につなげる狙いだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

前編では、日本経済新聞が次のように課題をまとめていました。
(1)二重課税の問題
(2)内部留保を保有現金との誤解

ここからは、筆者独自の感想・視点となります。

(3)ROEからROA重視の政府の考え方とそぐわない
2014年に「伊藤レポート」を公表し、猫も杓子も「ROE経営」を標榜したことは記憶に新しいと思います。根本の収益性を高めることより、財務テクニックで自己資本(株主資本)、すなわち内部留保の圧縮を図り、ROEを高めようとする財務施策が横行しました。リキャップCBなど。

それが今度は、「ROA」重視の経営を推奨すると来た。

「政府が6月に公表した成長戦略「未来投資戦略2017」は、企業の稼ぐ力を測るモノサシの一つである「総資産利益率(ROA)」の改善を新目標に掲げた。」

⇒「(真相深層)ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標「ROA」 – ROEとROAのどっちが使える財務KPIか?」
⇒「世界企業・日本の立ち位置(1)ROE、低いといわれるが… 資産効率、日本が米を逆転 8年ぶり、構造改革で

行き過ぎたROE経営を是正するガイダンスを出しておきながら、一方でROE経営を助長するような内部留保課税。政府の経済政策・産業育成政策・投資環境整備政策のちぐはぐさは、企業経営にとって大変迷惑なものと言わざるを得ません。

 

■ 税務が企業価値最大化を目指す企業経営を阻害していいのか?

(4)企業価値最大化のための経営を阻害する
とてもシンプルに説明すると、企業価値とは、その企業が現在保有しているキャッシュと、将来稼ぐであろう将来予想キャッシュフローの割引現在価値の合計で測定されるという考え方が、目下の企業価値評価実務では主流となっています。ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)というものです。

この視点からすると、下記の小池氏のインタビューはいただけません。

2017/10/7付 |日本経済新聞|電子版 安倍政権「改革スピードが遅い」 小池代表に聞く

――公約にある企業の内部留保への課税は反発が予想されます。

「二重課税になるとの批判はある。仮に300兆円に2%で6兆円出てくる。内部留保のお金を配当に充てたり、人件費に充てたりするなど、お金を動かす。それによって株価にも、株主にもプラス面が出てくる」

「課税も1つの方法だが、リアルな方法を企業と考えたい。内部留保を生かすインセンティブをつけたい」

これは、内部留保課税がいやなら、積極的に現金配当として、社外へキャッシュアウトさせれば、内部留保課税による課税額を減らせる、という企業財務施策へのある種の歪みを税制が与えることを許容する考え方となります。

筆者は、ウォーレン・バフェット氏の忠実な弟子のひとりだと勝手に自任しているのですが、バフェット氏は、法人税を支払って、キャッシュの社外流出を容認したうえで、株主へ現金配当をすることはナンセンスだと一刀両断です。つまり、法人税を支払って配当金を株主に与えるより、内部留保させたまま、拡大再生産のための将来事業投資に回し、企業が生み出すキャッシュ(利益でもよい)の総量を増やします。そうすると、株式市場での企業価値評価が高まり、株価が高騰します。そこで株式分割し、分割した分を株主が株式市場で売却すれば、企業と株主のくくりでは、一番手元のキャッシュが大きくなります。

業績管理会計(入門編)_利益計上はキャッシュの社外流出をもたらす

(参考)
⇒「ADワークス、個人株主を調査 「配当を重視」87% - 配当崇拝の誤りを正す! 配当は企業価値を毀損し、株主の利得を減らすだけ
⇒「アマゾン77%減益 4~6月純利益 先行投資重視を強調 それがどうした。究極の経営は利益を上げないこと!

経営者と株主にとって、内部留保を取り崩して現金配当を行うことほど、企業価値を毀損する行為はありません。それをアマゾン・ドットコムのジェフ・ベソスCEOは十分承知の上で、できるだけ利益を上げない経営を標榜しています。利益を上げてしまうと、法人税を支払う必要が出てくるので。

 

■ 「内部留保課税」を筆者はどう見ているか?

それでは、企業価値を毀損しないように、キャッシュアウトを最小化する努力は、経営者にしかできないのでしょうか。いえいえ、個人株主にも工夫の余地があり、企業価値最大化に貢献可能です。

⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず

上記の過去投稿でご紹介した制度に、「DRIP:Dividend Reinvestment Plan(配当再投資制度)」というものがあります。

「配当を現金ではなくて株でもらう制度、配当再投資制度のことです。個人投資家にとっては手数料負担がないことや複利効果によって長期の投資において有利に働き、企業にとっては安定的な株主が増えることによって株価が安定するといった利点があります。」
DRIP(配当再投資制度)とは|ドル使いの海外投資 より)

できるだけ、現金配当によるキャッシュアウトを抑制し、事業再投資からの複利効果で企業価値最大化を目指す。それこそ、経営者と株主の相互利益の最大化となり、皆がハッピーになる方法だと思うのですがね。

 

■ 「内部留保課税」が特定の業種の財務戦略を歪ませていいわけがない

内部留保と借入金は、企業における主要な資金調達手段となります。もうひとつ、サプライヤーファイナンスを含めると3つ。ここは、内部留保と借入金の違いにスポットを当てます。

内部留保による資金調達(自己金融:セルフファンディング)は、返済の必要がないため、少々リスクがあっても、そして回収が中長期的になっても投資をしようというインセンティブが働く投資原資となり得ます。と同時に、法的に返済義務がないため、デフォルト(企業倒産)の確率が低くなる安全な資金調達方法です。

借入金は、支払利息の分だけ課税所得を小さくすることができる = タックス・シールド の役目を果たすため、資金調達をしたその会計期から、キャッシュフローを改善することに役立ちます。さらに、現下の低金利(マイナス金利)の経済情勢下では、非常に有利な資金調達手段ということができます。

では、企業はどのようにこの2つの資金調達手段を使い分けているのでしょうか?

例えば、ゲーム業界、医薬品業界など、多額の先行投資、長期の研究開発投資が必要となり、しかも開発した製品が必ずしも「当たり」となるか分からないリスクが大きい業界は、内部留保を中心に資金調達を行います。任天堂が経営不振になった際でも、企業倒産とならなかったのは、厚い内部留保、それがもたらすキャッシュリッチな資金繰り状況だったからです。

一方で、固い現金商売である、電力やガスなど、インフラ・エネルギー系の業界では、タックス・シールド効果、そして低金利を享受すべく、外部借入金による資金調達のメリットを十二分に享受しようとします。

つまりですね、内部留保課税を行うことは、そうした中長期の先行投資が必要な企業の資金繰りを悪化させる劇薬となってしまうのです。クールジャパン推進とか、基礎的研究重視とか言っておきながら、その資金源を断とうとは、、、

小池氏の次の言葉。

「内部留保のお金を配当に充てたり、人件費に充てたりするなど、お金を動かす。それによって株価にも、株主にもプラス面が出てくる」

真っ向勝負で、まったく株価にも株主もプラスにはならない。そう断言して本稿を締めくくりたいと思います。(^^)

でもね、筆者の投票行動は、総合的に判断します。小選挙区に立候補(予定)されている方のお人柄も判断材料なのでね。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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