KPI経営入門(7)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (前編)その財務指標合ってますか?

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■ 大手流通業の店長の業績評価をROAで行う際の留意点とは?

あまり、IFRS導入とROAによる店長の業績評価には直接の会計的関連性は無いと思うのですが、業績評価指標を変更するのにいいタイミングだとトップマネジメントは考えたのでしょう。

2017/8/26付 |日本経済新聞|朝刊 Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期

「J・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店では、2018年2月期(国際会計基準)から店長の評価指標に「総資産利益率(ROA)」を導入する。従来は店舗ごとの利益が評価軸だった。より具体的に、細分化して利益を上げる意識を高めることを狙う。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ROAを意識すると…」を引用)

20170826_ROAを意識すると_日本経済新聞朝刊

ROAやROE、ROICといったROI(Return on Investment)系の財務指標は、きちんと分子と分母の整合が取れている必要があります。とあるビジネスの収益性を測定するのに、経営資源等のインプットが分母にきて、経営結果のアプトプットが分子に来るのです。

そのちぐはぐさは、意識していないと、全く愚かしい形式だけの財務指標に振り回されるだけになります。要注意!

(参考)
⇒「4~6月期決算番付(4)効率よくもうけたのは キーエンス、自動化追い風 – 売上高純利益率が単独では無意味な理由
⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(1)
⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(2)

財務分析(入門編)_財務分析の世界で最も基本的なROIの計算式

 

■ 大手流通業の店長の業績評価をROAで行う報道をする際の留意点とは?

まずは、ROAを用いた業績評価そのものを評価する前に、新聞記事の解説が的を射ているか、そちらから評価することにします。

(1)製造業と流通業の違い

「工場を持つ製造業では一般的だが、小売業で目標にするのは珍しい。Jフロントは不動産事業を強化するなど「脱・百貨店」を進める。今年4月に開業した「GINZA SIX」(東京・中央)では賃料収入を柱に据えた。」

従来、流通業は「売上高至上主義」でした。売上成長は七難隠す。それをJフロントは営業利益で評価していたものをROAにまで評価指標の複雑性を上げる。これに対して、製造業では一般的だがという論評はあまりに流通業に失礼です。というのは、今般の流通業は工場を持つ製造業顔負けの装置産業だからです。あの、立派なショッピングモール、広大な駐車場、百貨店も一等地に自社ビルを持つという、高額の不動産からの稼ぎを管理していないわけがないのだから。

(2)営業利益に基づくROA

「全国14店(単体ベース)の大丸松坂屋百貨店の店長が対象だ。今期見通しのROA(営業利益ベース)は平均で4.6%。店舗ごとに目標水準は変えるが、「全店平均で5%以上」(若林勇人取締役)を目指す。達成度に応じて報酬や昇進時の評価に反映させる。」

ROAの分子を構成する営業利益が分母の店舗別資産ときちんと対応しているのか、2つの事例を出して確認してみます。

① 減損損失
大規模な不動産投資(店舗投資)の減損処理は、IFRSでは営業損益に含まれることになります。つまり、営業不振で店舗不動産などから生じる減損損失は、営業利益にヒットするので、店長の業績評価には、管理下の店舗不動産(固定資産)から生じるかもしれない減損損失が含まれると考えるのが妥当です。

② 前任者の償却不足
目の前の減価償却費込みの営業利益に基づくROAで業績評価が行われることを知った店長は、任期中に大型改装など、自身の営業利益にマイナスに働く固定資産投資に消極的になる可能性があります。そのため、後任の店長の任期になった途端、施設の老朽化に伴う大型投資を必要とし、その結果、多額の原価償却費の負担を後任店長が負うという不公正な状況が起きる可能性があります。

つまり、減損損失は考慮されますが、日本基準でいうところの営業外損益の部にある財務費用や法人税は無視されているのでしょう。そして、本部のでっかいでっかい固定費は配賦されていないことを願います。なぜなら、本部の属する固定資産は、各店舗の管理資産ではないからです。何度も口酸っぱく言いますが、分子分母はきちんと対応させる必要があります。

生半可な情報で、簡単にROAで店長の業績評価をする、と言わないでいただきたい。IFRSを機にという点も掘り下げて頂きたいものです。(^^;)

(3)ROAツリーによる要素分解

「ROAを上げるには、「売上高営業利益率」と「総資産回転率」を改善させる必要がある。利益率改善には好採算品の比率を上げ、経費を減らす意識が有効だ。一方、ムダな在庫を減らしたり、売掛金の回収期間を早めたりすれば回転率アップにつながる。」

教科書的にはその通り。しかし、店長に与えられている権限とそのROA責任がきちんと対応しているでしょうか? ROAの分母には確かに売掛金が含まれています。売掛金の回収期間のコントロール権限が果たして店長の手に収められるものでしょうか? クレジットで購入されるお客様は5%の値引、現金でご購入のお客様には10%の値引。こういう販売施策が個店の店長の裁量下にあるのなら、売掛金も含めた店舗別資産を分母にROAで店長を評価してもリーズナブルですが、本当???

(4)ROAとROEのそもそもの使用目的の違い

「政府は今年6月に公表した成長戦略で、ROAの改善を新たな目標に掲げた。一般的に日本企業の平均は2~3%台といわれており、欧米企業よりも低い。自己資本利益率(ROE)と比べるとROAは「企業の資本政策で数値を調整する余地が小さい」(大和総研の太田珠美主任研究員)。」

まずは、同じように日本政府による「未来投資戦略2017」に基づく過去投稿でROAとROEを比較した解説をご紹介します。

⇒「(真相深層)ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標「ROA」 – ROEとROAのどっちが使える財務KPIか?

経営管理会計トピック_ROAとROEで分かる財務評価視点

ROEは、資金調達戦略の巧拙から、資本コストの多寡が含まれる財務指標です。百貨店の個々の店舗が個別に資金調達戦略を描くわけではありません。それば一般的には本社財務部のお仕事。調整幅が小さいとか大きいとかの問題ではなくて、そもそも店長に資金調達方法の選択権限は無いのです。やりたければ、個店単位のトラッキングストックを発行したり、ひも付き融資を実施すれば、店舗ごとのROE管理も可能ですが、その必要あります? ホールディングス全体で一括資金調達した方が、断然、調達資本コストは節約できます。

財務分析(入門編)_ROIたちの分母 七変化

しつこく言います。ROI系の財務指標は、分子分母の対応が命なのです!

⇒「KPI経営入門(8)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (後編)業績評価は管理可能性基準で

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

業績管理会計(入門編)_KPI経営(7)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (前編)その財務指標合ってますか?

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