KPI経営入門(8)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (後編)業績評価は管理可能性基準で

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■ 大手流通業における店長に対する業績評価をROAで行う際の留意点とは?

前回は、ほぼ新聞報道の解説への難癖に終始した思いがあり、今回は、きちんと奥義とまではいかずとも、業績評価指標の在り方とROA導入の際のポイントについて言及したいと思います。

⇒「KPI経営入門(7)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (前編)その財務指標合ってますか?

2017/8/26付 |日本経済新聞|朝刊 Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「ROAを意識すると…」を引用)

20170826_ROAを意識すると_日本経済新聞朝刊

簡単に前回の解説趣旨をまとめます。

(1)流通業でも多大な不動産投資の回収計算を経営管理に組み込んでいる
(2)ROI系の財務指標は、分子と分母の対応性を担保するように指標設計する
(3)ROAの分子に「営業利益」を持っている際は、下記点に留意する
   ① 減損損失(IFRSか日本基準かで取り扱いの違い)
   ② 前任者の償却不足(過少投資のツケ払い)
(4)店長が管理可能な利益と資産を集計する
(5)ROEは財務構成(資金調達戦略の巧拙)を表すので、店長の業績評価には不適切

後編では、上記(4)(5)にフォーカスを当て、「管理可能性基準」という責任会計の基本コンセプトに沿って、KPIに関する議論を深掘りしていきたいと思います。

(参考)
⇒「4~6月期決算番付(4)効率よくもうけたのは キーエンス、自動化追い風 – 売上高純利益率が単独では無意味な理由
⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(1)
⇒「ROI: Return on Investment 投資利益率(2)

財務分析(入門編)_財務分析の世界で最も基本的なROIの計算式

 

■ 「管理可能性基準」に基づいた会計責任の設定の要諦とは?

会計責任とは、とある会計組織の管理者が、自身の権限と責任に基づいて、財務指標で表現された経営目標の達成を目指し、自身の管理下にある経営資源を用いて業績向上を図るよう動機付けられたものです。

そして、誰にどのような会計責任を負わせるべきか、最低限守られるべき判断基準が「管理可能性基準」なのです。販売員への指揮命令系統をもたない工場長に売上責任を課すのは、指示と命令が一致していません。同様に、対顧客営業活動をミッションとしている営業部長に、工場の操業度変動に起因する原価差異(操業度差異)の責任を負わせるのも、権限と責任のバランスが取れていない責任会計制度設計の典型例です。

(参考)
⇒「業績管理会計の基礎(4)マネジメント・コントロール・システムのための責任会計制度とは?
⇒「業績管理会計の基礎(5)責任会計制度の基本 プロフィットセンターやコストセンターをどう設定するか?

これを世界史的な大事件になぞらえると、

「代表なくして課税なし(No Taxation Without Representation)」

この言葉は、アメリカ独立戦争(1775年 – 1783年)時のスローガンの一つです。イギリス領であった北アメリカ東部に植民していた人々は、税を課せられていながら自ら選出した代議士をロンドンにある英国議会へ送ることが許されておらず、これを不服とした植民地民の間でイギリス本国への反感が生まれ、独立戦争へ至ったことが知られています。

自分たちが納税した税金をどう使うか、話し合いで決めるのが代議士が集まった国会(下院)。そこへ自分たちの代表を送り出せないということは、税金を獲られるだけ獲られて、福祉政策や産業育成施策への還元が無い状態を生みかねず、納税者の義務だけを課せられて、権利を与えられず、義務と権利の非対称性・不一致が生じていることになります。

これを業績管理会計のロジックに沿って再説明すると、

ROI系の財務指標が課せられた会計主体は、ROI(ROA)を最大化するために、2つの施策が考えられます。ひとつは、分母である経営資源の投入(インプット)を節約すること、ふたつは、分子である経営成果(アウトプット)を最大化すること。

この二つの操作(施策の選択、ポリシーミックス)を企図する場合、ROIで評価される責任者が、経営資源投入量のコントロールの裁量下にあり、経営成果(利益)を左右する売上高(販売先の選択とマージン率の選択)と、コスト(何にいくらかけるかの意思決定)を自分の意思で判断できる権限を持つ必要があるのです。自分が何ともならない会計要素から成り立つROIで、良かった、悪かった、とあまつさえ、人事評価や報酬決定がなされれば、「代表なくして課税なし」の言葉を思い出さざるを得ないものと考えます。

 

■ 店長の評価をROAで行う時の具体的な留意点とは?

最後に、百貨店の店長など、自社不動産を用いた流通業における店舗管理者向けの業績評価用の財務指標としてのROAの活用方法とその留意点について簡単なコメントを付します。

業績管理会計(入門編)_百貨店の店長をROAで評価できるか?

(1)運転資本
ROAは、B/Sの借方にある勘定科目に着目して、店長が使用する総資産を区別します。それゆえ、貸方にある「買入債務」を「売上債権」「在庫」から差し引いた純額ベースの運転資本の大小は評価ポイントから外れてしまいます。もちろん、店長に仕入在庫に対する支払サイトとサプライヤー(仕入先)選別の権限があった場合にのみ、適切な評価ポイントとなります。

(2)売上債権
前編でも言及しましたが、店舗管理者に顧客別の回収サイトを左右する権限や回収サイトを盾に顧客を選別する権限がある場合のみ、有効な管理指標となります。

(3)建物(固定資産)
店長にとって、店舗の立地や土地取得から商圏設定までは権限外で本部預かりの会社が多いので、どんなに豪奢な構造物で、一等地に立地するが故の建築費の高低は、店長が如何ともし難い経営要素となります。仮に、店長に改装などの什器・備品の回転の予算権限が与えられていれば、その固定資産にかかる減価償却費は、当該店長が上げるべき利益から控除されるべきコストとして適切です。

(4)建物減価償却費
これは上記(3)と対応しています。建物減価償却費の発生要因となる固定資産の投資判断が店長に委ねられていれば、その結果として生じる建物減価償却費も店長の稼ぐべき利益から控除されるのはリーズナブルです。しかし、前任者の投資判断に基づく減価償却費が後任店長の任期中に後ずれで発生したり、そもそも償却費発生の基となる固定資産の投資判断の裁量が与えられない店長にこのコストを業績評価指標として乗せるのは不適切です。往々にして、この問題は他業種でも軽視されがちな問題です。投資と減価償却が次元を超えたものであることに対する想像力の欠如が著しい、、、(^^;)

(5)本社共通費
店舗別営業利益を計算する際、本部で発生する本社共通コストを配賦するケースが本当に多くあります。これが営業利益の純額評価だと、まだ罪も軽微ですが、ROI系指標では、分子分母の対称性が大きく指標の計算結果に影響します。本社共通費を分子の店舗別営業利益から差し引くということは、分母の固定資産にも本社固定資産を配賦しておかないと、分子分母のバランスがおかしくなります。徒に、コスト(分子)の方にだけ、本社共通費を配賦するケースが多く、その場合は、資産利益率としてのROAの乗率が算数的におかしくなることを注意してください。

(6)資本コスト(社内金利)
これも、上記(5)と同様、分子分母の非対称性からくる大いなる誤認です。ROIC(投下資本利益率)は、使用資産にかかる資本コストを乗じて、投下資本金額を算出するので、この場合の利益(リターン)側から資本コストが控除されているのはごく自然ですが、分母が店舗別に把握できる資産額そのものの場合は、却って分子側から資本コストを控除することは、割り算の計算結果を算数的に無意味にすることにつながります。

(7)交叉比率
業種によって、特に流通業においては、在庫管理がその資産利益率のキーとなることが多く、その一点に着目して財務管理指標を用いると、管理スコープがぼやけずに上手く指標管理することができます。もし、ROAが最終的な業績評価指標としても、利益と売上高と在庫の3つだけ選りすぐって、交叉比率で在庫の回転率(はけるスピード)と、利益率(稼げるマージン)を手始めに管理することは効果が大きいと推察します。ROAを構成する勘定科目の大半を含んでいますし、大概の流通業において店長の裁量下にある会計要素であることは確かだからです。

(参考)
⇒「FY2015 トヨタ自動車 財務分析(2)交叉比率 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より

ROE一神教から日本政府もROAを再認識し始めたのは僥倖です。しかし、ROICへ踏み出す一歩はかなり大きい。今度、ニセモノではなく、正しいROICの導入事例があったら、本ブログで紹介したいと思います。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

業績管理会計(入門編)_KPI経営入門(8)Jフロント、店長評価にROA導入 大丸松坂屋で 今期 (後編)業績評価は管理可能性基準で

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