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原価計算基準(25)製造原価要素の分類基準 ②機能別分類 個別論点:製品個当たりの交際費はいくらですか?

管理会計_アイキャッチ 原価計算(入門)
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■ 機能別分類として材料費をどう区分するのか

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概論、個別論点:活動基準原価計算に引き続き、機能別分類の解説を今回で締めたいと思います。最後は、BOM原価計算です。BOMは、Bills of Materialsの略で、部品表のことです。

前回の個別論点:活動基準原価計算は、加工費(主に労務費や経費をさす)を議論の対象にしていました。今回は、主に材料費に焦点を当てながら、ついでに加工費も見ていきます。

材料費を機能別に分類するということで、「主要材料費」「補助材料費」という2大区分が例示されています。

(二) 機能別分類

機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手待賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類する。

原価計算基準(原文)

またも、「原価計算基準」の原文先取りの説明が必要なのですが、材料費をここで「主要」「補助」に分けるのは、材料の払い出し記録をきちんと残し、実際の払出数量から実際消費数量を求める厳密な計算方法をとる必要があるかが後から問題になることが分かっているからです。

計算の正確性を確保し、実地棚卸により棚卸減耗損を把握できる「継続記録法」は、大変手間がかかるので、生産活動のメインストリームにある「主要材料費」に対して適応しようと考えます。と同時に、それほど金額的にも目的にも重要性が一段落ちるものは「補助材料費」という括りで、受入数量と実地棚卸数量の差分を消費数量として簡易的に計算する「棚卸計算法」の対象にしようと考えます。このために必要な区分が先に来ているだけのことです。

 一一 材料費計算

(一) 直接材料費、補助材料費等であって、出入記録を行なう材料に関する原価は、各種の材料につき原価計算期間における実際の消費量に、その消費価格を乗じて計算する。

(二) 材料の実際の消費量は、原則として継続記録法によって計算する。ただし、材料であって、その消費量を継続記録法によって計算することが困難なもの又はその必要のないものについては、たな卸計算法を適用することができる。

■ 材料費の機能別区分とBOMの構成要素で分解することの違い

BOM(部品表)は、簡単に説明しますと、完成品(製品)の構成部品が何かを教えてくれる設計図です。加えて、一つ一つの部品にかかるコストが全て判明していれば、それらのコストを設計図に記載してある通り、親子関係を辿っていきながら上の階層に集計していけば、最終的には完成品(製品)の総コストが分かる仕組みになっています。

BOMで材料費を集計する

上図は、構成要素を「エンジン」「ボディ」「プラットフォーム」「タイヤ」の4つだけと例のためにシンプル考えた場合の自動車のBOMになります。それぞれの構成要素に材料費がいくらかかるか、BOM内で値札が貼られている感じで、その数字を集計すると200万円という材料費総額が分かる仕組みになっています。

参考記事 エンジニアリングチェーン管理(2)- 製品情報共有のツールはBOMなり

ここから分かるように、「主要材料費」がいくら、「補助材料費」がいくらというコスト明細の出し方より、ズバリ最終完成品を構成する要素が、自動車のように、ひとつひとつ、目に見えるもの(tangible)な場合は、そのひとつひとつの購入コスト、または内製コストがいくらかの明細があった方が便利に思えます。BOMで原価を網羅的に把握することの重要性を理解していただいたと思います。

■ 加工費はBOM上でどのように把握できるか

上掲のBOMは、製品と部品(構成品)の包含関係を1階層だけで示したものです。それにプラスして、加工費もBOM上で表現するためにはどうすればいいでしょうか。加工費も製品-部品のツリー構造の中に埋め込んで表現する方法があります。下図はその手順で、「組立作業」という生産手順と組立費(加工費)をBOMに埋め込んでみたものです。

BOMで製造原価を集計する

BOM表現のお作法にはいろんな流派があり、どれも正しいのですが、上図では、加工作業を挟んで、左に加工作業にインプットされる部品(材料費)を置き、右に加工作業からアウトプットされる仕掛品(中間品)を置いています。なお、アウトプットがこのBOMでは完成車となっています。例を簡単にするために、それ以上の加工や検品(輸送用の梱包作業や出荷前の品質検査など)を省略しているからです。

初学者には、左から右にモノの流れと時間の流れがイメージされた方が分かりやすいとの思いから、このように表記しています。通常は左右反対のことが多いようです。

■ 製品個当たりの交際費の話はどこに行った?

ようやく説明がここまでたどり着くことができたので、冒頭の投げかけに戻れます。

製品原価として一体いくらの交際費がかかっているかが分かるとどんなよいことがあるのか?

そういう問いかけです。

実は、筆者は、問いかけをしておいて、2つの意味でこの問いかけは無意味である(もしくは原価管理上、有意義なものを見つけるのは困難である)と考えています。

最初の理由は、原価計算の手続き、ステップの混同(思い違い)があるように見受けられるからです。原価計算手続きは、次の3ステップで行われるのが一般的です。

① 費目別計算
② 部門別計算
③ 製品別計算

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費目別計算では、何にいくらかかったかを明らかにします。まずは記帳や記録の正確性を確認します。次に、費目別に、材料費が増えたのか、人件費が下がったのか、経費が増えたのか、その発生額を対予算比、対前年比などと比較しながら対策を検討します。

時には、加えて、材料費、労務費、経費のバランス(百分率の構成比)の視点からも分析を実施します。しかしこれが問題でして、いったい何を100%と仮定して、その費目の構成割合をもって小さくなった(改善した)、多くなった(悪化した)といえるのでしょうか?

多くの材料費、特に「主要材料費」なら一般的な前提として、製品に対する消費数量(払出数量)を直接・間接に見ることができる(上記の「継続記録法」「棚卸計算法」の所)ので、「②部門別計算」の手順をスキップすることで直接的に、費目別発生額を製品1個にぶつけることができます。

部門別計算と製品別計算

しかし、加工費を構成する労務費と経費はそうは簡単にはいきません。製品に直接ひもづけられるものを「直接経費」と呼び、部門別計算をスキップさせて、いきなり製品にひもづけられるものも確かにありますが、生産管理・原価管理の現場では少数派と考えた方が無難です。

多くの労務費、経費の類は、いったん、「部門」に集計したのち、「部門費」と名前を変えてから製品に対してひもづけます。このやり方こそ原価計算基準が前提にしている加工費の製品原価の求め方であるといえます。ちなみに、加工費を製品にひもづける方法の大半は、「配賦」という手段を用いるのが一般的です。

それゆえ、交際費という経費科目は、おそらく、「部門費」に集計された後に、製品に配賦されて初めて製品原価を構成するものとなるので、製品1個当たりの交際費を斟酌すること自体が非常に困難です。交際費の仕訳で確認できる個別の金額を製品へひもづけることは実務上難しいです。管理手法としても、部門費として集約された加工費として、配賦率(チャージレート)と予実差異・標準差異として扱う方が合理的だということになります。

加工費または部門費を構成する、基本給、時間外賃金、交際費、電力費、減価償却費の費目単位で、製品1個当たり、いくらになったかを知ることが実務上難しいし、そもそも原価計算のステップを無視した原価管理をしようという意図は手段を間違えていると思います。

勿論、金型の償却費をもって部門別計算を経由することなく、直接製品にひもづける原価計算のステップはありです。その場合は、「直接経費」となって、加工費または部門費の配賦計算の枠外となります。この場合のみ、「直接経費」として対製品に対して集約科目を用いるか、「型償却費」として源流科目名称を残したまま原価分析するかは、管理者の任意となります。

■ もう一つの理由は「全部原価計算」の前提の限界にある

2つめの理由は、制度会計が「全部原価計算」を要求しているので、部門費として製品に配賦される加工費は、当期の売上原価と期末の棚卸製品・仕掛品に仕分けられることです。

製造業にお勤めの方は、工場には原価管理を中心とした会計実務を担当する「工場経理」が配置され、本社には、会社全体の会計処理と決算処理を担当する「本社経理」に経理人財が分かれて配置される場合があることをご存知かと思います。

簡単に言うと、同じ原価計算や工場経理に関する作業をしていても、工場経理部門の人件費や経費は、製造原価として、期末棚卸品に配賦される可能性があります。一方で、本社経理部門の人件費や経費は、販管費として必ずその期の総原価(営業利益計算)に含められることになります。

これは、生産部門を代表する役員(工場長兼務の取締役など)の在籍部門を工場側にすれば、その役員の給与は製造原価となり、在籍部門を本社側に移せば、その給与は販管費となります。実態は問いません。それが原価計算基準に記載してあるルールだからです。

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これを交際費に当てはめた場合、そもそも工場部門 -この言葉が意味するところは、「③製品別計算」を実施した際、部門費を配賦手続きにて、期末棚卸に配賦されることを許容できる部門という意味ですが- で通常は「交際費」を計上することが実務上は許されていません。

「交際費」はその費目の性質上、原価性を有しないので、期末棚卸品の評価額に算入する資格がないとみなされています。よって、「工場部門で『交際費』を計上することはできない」という理屈になるのです。筆者からすると、結論から原因を捻じ曲げている会計規則のいやらしいところのひとつだといえます。

実態上は、QCサークルでの効率・生産性を上げるために、その道のプロフェッショナルの外部講師をお招きして、酒宴の場で親密度を高め、互いの理解度を深め、熱く議論して非常に有効な現場改善の着想を得た、としても、その交際費に原価性を認めることはできません。

そして、実務上は、穏便に済ませるため、そうした工場サイドで必要な交際費は、本社在籍とする部門での出費にするか、本社在籍メンバが支払ったものとするか、いずれにせよ、製品配賦計算により、期末棚卸品を構成する可能性が100%ところに追いやらねばなりません。

おっと、ここでは税務(損金不算入)の話は別口ということで。そこに入り込むと、制度会計のトライアングルに絡めとられて舌がこれ以上回らなくなるので。^^;)

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参考記事原価計算基準」(原文)

原価計算基準(25)製造原価要素の分類基準 ②機能別分類 個別論点:製品個当たりの交際費がいくらか分かるといいことがありますか?

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