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(ビジネスTODAY)楽天モデル、曲がり角 営業益1~6月12%減、「配送」「口コミ」新潮流に乗れず - 決算発表の出し方と同質化戦略を再考する!

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ たった1回の半期決算だけで、その会社のビジネスモデルの良否が分かるのか?

経営管理会計トピック

ITの分野では、ドックイヤー、ラットイヤー等と、スピーディーな技術革新と目まぐるしいメインプレイヤーの入れ替わりで常に目を離せない領域です。日本経済新聞に、楽天の2016年第2四半期決算を受けた分析記事が財務面ではなく、企業総合面に掲載されました。ですので、主にビジネス(集客やサービスの質量・バリエーション)についての解説が中心で、財務面からの指摘はほぼありませんでした。

2016/8/5付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)楽天モデル、曲がり角 営業益1~6月12%減、「配送」「口コミ」新潮流に乗れず

「楽天の事業モデルが曲がり角に来ている。主力のインターネット通販で配送の便利さや口コミを重視する消費者の新潮流を捉えきれていない。米アマゾン・ドット・コムや新興勢力の台頭を許し、成長が頭打ちになった。創業20年目の「老舗」企業はイノベーションの停滞も目立つ。このままでは成長市場で取り残されかねない。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は、同記事添付の楽天の業績推移グラフを転載)

20160805_国内EC部門の伸び率が鈍る中、三木谷氏の一手に注目が集まる_日本経済新聞朝刊

これは、EC流通総額、売上高、営業利益の前年同期比の伸び率を示し、成長率が鈍化または減少している様を印象付けるものでした。

記事でも、財務面については、
「4日発表した2016年1~6月期の連結業績(国際会計基準)は営業利益が前年同期比12%減の487億円と減益に転じた。電子商取引(EC)事業は4~6月の売上高が7%増の725億円、営業利益が25%減の175億円と利益面で足を引っ張る。三木谷浩史社長はEC事業で年4割の成長を社内で厳命していたが、旅行などを含まない「楽天市場」単体では今や横ばいとみられる。」

とあり、危機感をかなりあおっています。いまや国内はもとより先進国のEC市場は急成長期からやや成熟期に入ろうとしています。そういう市場成長ステージにあっては、サービスの多様化を進めて、顧客ニーズに対応するか、新たな顧客ウォンツを商品化して需要を維持またはシェア向上を目指す段階にあると言えます。そういう市場環境の中で楽天はどのように顧客戦略を進めていこうとしているのか。今度は公平を期すために、楽天の決算発表資料を見ていきたいと思います。

 

■ 決算発表資料は会社側のポジショントークの巣窟ですが、それを割り引いても、、、

以下に抜粋するのは、楽天の「2016年度第2四半期決算説明会」資料から。

1.事業別業績(売上高、営業利益)

ここでも明らかなように、これまでの主要事業であった「国内EC」事業が対前年同期比で減益になっています。それを補っているのが「FinTech」事業。今流行のバズワードを事業名称にいち早く取り入れたのもすごいと思いますが、その中身は、ショッピングカード、証券、銀行、保険です。

20160807_楽天_2016年度Q2事業別業績

2.エコシステム(楽天経済圏)規模の推移

まずは、グローバルで。

20160807_楽天_グローバル流通総額

次に、国内EC流通額は?

20160807_楽天_国内EC流通総額の推移

さすがにチャートを使ったプレゼンが上手です。どちらも増加傾向にあるように見受けられます。しかし、この数字も事実ですが、見せ方と、その見せ方の背景にあるビジネスモデルの変容・進化に思いを馳せるべきです。つまり、単なる「楽天市場」に出店しているサイトで商品を購入するだけでなく、その商品購入にかかる資金決済サービスや、ECサービスの中の商材もコンテンツビジネスなどを含み、多様化・複数サービスメニューの強化により、もはや祖業であるショッピングモールでの物販の1本足打法ではなく、ネットを使った複合サービスをワンストップで提供するプラットフォーム企業への進化を示しているのです。

そりゃ、比較的歴史の長いビジネスの一部だけ切り取って成長率が鈍化・減少に転じた、と指摘しても、それを補うためにサービスを複合化させる必要性は楽天自身が現場で身に染みているので、次々と新サービスを乗せて、顧客囲い込みに走っているわけです。その他の財務資料を読んでも、グループ企業全体で見れば、増益・キャッシュ増の傾向にあります。

ただ、1点だけ注意すべきなのは下記チャート。

20160807_楽天_2016年度Q2 Non-GAAP営業利益 調整額

制度会計ルールに従った場合、前年対比で営業減益。しかし、楽天独自の利益計算方法、それがGAAP(Generally Accepted Accounting Principles:一般に公正妥当と認められた会計原則)に則らない方法で算出された営業利益では増益でしたという決算報告。

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会社が非GAAP指標を決算発表において持ち出してきた際に、投資家が留意すべき点は、上記の過去投稿をじっくり読んで心得ておいて頂きたいと思います。

 

■ それじゃ、肝心のビジネス(サービス)の話に戻ります

同記事では、競合他社に比べ、楽天のサービスについての解説が続きます。

「楽天は店舗が自由にサイトを構築できるモール型で、出店者に場所貸しをする大家のような存在。日本のネット通販を発展させた立役者だ。」

「三木谷社長はネット通販を軸にフリーマーケットやオークション、旅行にも参入し「楽天経済圏」を広げようとしてきた。だがネット通販以外は多くが他社の後追いで新味が薄く、相乗効果を発揮しているとは言い難い。カブドットコム証券の河合達憲投資ストラテジストは「規模が大きくなり消費者の変化への対応が遅れた」と競争力が低下した理由を分析する。」

(下記は、同記事添付の競合他社の事業展開の一覧を転載)

20160805_楽天の競合企業は国内外でひしめいている_日本経済新聞朝刊

業界に先駆けて市場を切り開いてきたリーダー企業は、後から追随してきた後続企業のサービスと同じものを提供することで、「同質化」を図り、後続企業の競争優位を打ち消す戦略を採る方法でリーダー企業の地位を守るという戦略があります。常に全てのサービスにおいて真っ先に導入していないとリーダー企業の地位が危うくなるとは思いません。

「主役の座を奪ったのがアマゾンだ。調査会社によるとすでに利用者数で楽天を上回った。消費者に合った商品を提案する機能や送料無料化、配送時間指定をいち早く始めてニーズを捉えた。アマゾンが商品をいったん買い取ってから販売するため価格やサービスを統一しやすい。この点で、管理を店舗に任せる楽天は消費者から「検索ワードと違う商品もでてきて精度が低い」「店ごとに送料が違いわかりにくい」といった不満が多い。」

アマゾンのサービスとの比較で劣勢という判定ですが、これについては、逆に楽天がアマゾンとの同質的競争に引き込まれてやや失敗した面もあるのかもしれません。上述のリーダー企業による「同質化戦略」の失敗。だって、グローバルで見ればアマゾンの方が上ですからね。中途半端な同質化は、自社の競争優位を損なう、諸刃の剣。経営戦略にはこういう綾(あや)があるからこそ面白い! この点については、「続編」で詳しく解説します。

「劣勢が目立つECのてこ入れへ向けて打ち出したのが、共通ポイントの大盤振る舞いだ。例えば楽天カードで買った人は通常の4倍もらえる。グループのサービスを使うほど特典が得られるようにした。4日には音楽の定額制聴き放題サービスを始めると発表した。9月から消費者への対応が悪い店舗を減点し、一定の点数に達すればネット通販からの“退場”を促す制度を始める。店舗の質を高める狙いだ。」

上記のてこ入れ策3つの内、共通ポイントの大盤振る舞いについては、SPU:スーパーポイントアッププログラム を指すのですが、この種の顧客獲得活動コストが将来の収益増につながるかどうかは、顧客活動プログラム実施に資金を投入した会計期間の単期だけでは、その良否は判定できません。

⇒「(決算 深読み)KDDIとNTTドコモ、手放しで喜べぬ好決算 4~6月「格安」に流れ奨励金減る - 決算の本質とゴーイングコンサーンの前提を考える

にもかかわらず、楽天による決算発表資料P5の、「Q2/16 業績ハイライト」において、
「Non-GAAP営業利益:SPU費用増にも関わらず前年同期比 +2.5%」という表現について、非GAAP指標で説明していることを加えて、二重の意味で、これを読む投資家は留意すべきポイントである旨、改めてここで強調させて頂きます。

次回は、日本経済新聞電子版で「楽天とアマゾン」を消費者目線で比較分析した記事がありましたので、その記事を取り上げて、競合比較分析を試みてみたいと思います。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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