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企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 「明瞭表示の構成」を明瞭に解説してみるPART2

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第6回目となります。今回は、「明瞭性の原則」の後編になります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

「明瞭性の原則」は、財務諸表の表示方法に関する包括的な原則です。明瞭な財務諸表の表示とは、会計情報利用者である利害関係者(ステークホルダー)の意思決定にとってできるだけ有用な表示であり、具体的には企業の収益性や安全性の判断に有効な表示であることを意味します。

前回提示した「明瞭表示の構成」をチャート化したものを下記に再掲します。

財務会計(入門編)明瞭表示の構成

① 科目設定
勘定科目が企業全体の様子も窺え、かつ詳細にも分かるように設定されている必要があります。通常は、勘定科目体系が親子関係を有する階層化されている根拠がこれです。

② 科目表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「区分表示の原則」の項目で詳細に定義されています。

③ 金額表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「総額主義の原則」の項目で詳細に定義されています。

④ 計上科目
「注1-2 重要な会計方針の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑤ 科目以外
「注1-3 重要な後発事象の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑥ その他の重要項目
「財務諸表等規則 第121条」では、付属明細表として次の6つが定義されています。
「会社計算規則 第117条」では、附属明細書として次の4つが定義されています。

今回は、④と⑤、注記に関する考察になります。

 

■ 「会計方針」の注記とは

会計方針の注記は、財務諸表に計上されている勘定科目の価額の意味を理解するために必要不可欠な補足情報です。会計方針とは、財務諸表の作成に当たり、
1)会計処理の原則
2)会計処理の手続き
3)財務諸表への結果表示の方法

を包括的に記述します。

ただし、財務諸表の作成に当たり、全ての会計方針を記すと、それはそれで煩雑になり、利害関係者の財務分析(経営分析)のための概観性を損なってしまう恐れがあるので、注記を省略することができる容認規定があります。それが個々の制度会計ルールによって若干温度差があるので、ここで取り上げます。

① 企業会計原則
・代替的会計基準が認められていない場合は省略可能

② 財務諸表等規則
・重要性が乏しい場合は省略可能

③ 会社計算規則
・原則的方法を採用している場合は省略可能

「真実性の原則」の所でも触れましたが、会計とは「相対的真実」を表すもので、在庫評価方法として、先入れ先出し法でも総平均法でも使っていいことになっています。そしてその2つの方法では計算結果が異なることも自明になっています。この場合、「① 企業会計原則」では、代替的な会計基準(ここでは、先入れ先出し法か総平均法か)が存在するので、どっちを選択したかを注記すべき、となります。

⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは

一方で、会社計算規則においては、先入れ先出し法も総平均法も原則的方法に違いないので、どっちを採用したかをわざわざ注記しなくてもいい、となります。金商法会計と会社法会計とで注記部分の質と分量に差がある場合は、この認容規定を使い分けていることになります。

■ 各種規定ごとに異なる「会計方針」の注記の記載方針

(1)企業会計原則注解
いずれも、代替的な会計原則が存在するものばかりが限定列挙されています。

注1-2 重要な会計方針の開示について

イ 有価証券の評価基準及び評価方法
ロ たな卸資産の評価基準及び評価方法
ハ 固定資産の減価償却方法
ニ 繰延資産の処理方法
ホ 外貨建資産・負債の本邦通貨への換算基準
ヘ 引当金の計上基準
ト 費用・収益の計上基準

(2)財務諸表等規則
重要性の原則にのみしたがって省略が容認されています。最も記載すべき内容が多いのが特徴です。

(第8条の2)重要な会計方針の注記
一 有価証券の評価基準及び評価方法
二 たな卸資産の評価基準及び評価方法
三 固定資産の減価償却の方法
四 繰延資産の処理方法
五 外貨建の資産及び負債の本邦通貨への換算基準
六 引当金の計上基準
七 収益及び費用の計上基準  (ここまでは注解と同じ)
八 ヘッジ会計の方法
九 キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲
十 その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項

(第8条の3)会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記
(第8条の3の2)会計基準等の改正等以外の正当な理由による会計方針の変更に関する注記
(第8条の3の3)未適用の会計基準等に関する注記
(第8条の3の4)表示方法の変更に関する注記
(第8条の3の5)会計上の見積りの変更に関する注記
(第8条の3の6)会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記
(第8条の3の7)修正再表示に関する注記

ここまでくると、うんざりなのですが、大事なのはどうしてこれらが重要な会計方針の注記として記載を必要とするかの理由について思いを馳せなければなりません。財務分析(経営分析)を行うとき、過年度と今期の数字を比較することで、何かの趨勢(トレンド)からインサイトを得ようとすることが多いと思います。つまり、時系列での期間比較性確保が、財務分析を行う上で重要視されていることがその背景にあるのです。

(3)会社計算規則

(第2条3項58号)会計方針
計算書類又は連結計算書類の作成に当たって採用する会計処理の原則及び手続きをいう。

以上。あっさりしたものです。(^^)
その理由は、前章で説明した通りです。

 

■ 「後発事象」の注記とは

後発事象とは、貸借対照表日後(決算日後)に発生した事象で、次期以降の財政状態および経営成績に影響を及ぼすものをいいます。では、一体何が影響を及ぼす事項なのか? 「後発事象に監査に関する解釈指針」によりますと、次の2類型に整理されています。

(第1類型)修正後発事象
発生した事象の原因が、決算日時点ですでに存在しているため、財務諸表の修正を必要とする事象

「貸借対照表日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な資料を提供するものである。したがって、これにより当該事象が発生する以前の段階における判断ないし見積りを修正する必要が生じた場合には、その事象は当該事業年度の財務諸表に反映されなければならない」

(第2類型)開示後発事象
発生した事象が、次期以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表への注記を必要とする事象

「当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないが、次期以降の財政状態及び経営成績に影響を及ぼすものであり、会社の財政状態及び経営成績に関する的確な判断を行うために開示が必要であると認められるものである。したがって、その事象は当該事業年度の財務諸表への注記又は監査報告書における補助的説明事項として記載されなければならない」

具体例は、後発事象 第1回:概要|新日本有限責任監査法人 より、<開示後発事象の例>を引用

20180107_開示後発事象の例

あるいは、財務諸表等規則ガイドライン8条の2)における例示列挙が参考になります。

1 火災、出水等による重大な損害の発生
2 多額の増資又は減資及び多額の社債の発行又は繰上償還
3 会社の合併、重要な事業の譲渡又は譲受
4 重要な係争事件の発生又は解決
5 主要な取引先の倒産
6 株式併合及び株式分割

ポイントは2つ。その後発事象がいつの財務諸表に影響を及ぼすか。そして、財務諸表の時系列分析(期間比較)に影響を及ぼすか。この2点から、単に注意喚起をするだけか、それとも当期の財務諸表を修正するかを判断することになります。

 

■ 「その他」の注記とは

ありとあらゆる会計的事象が注記記載の候補となり得ます。有名どころでは、1株当たり当期純利益・1株当たり純資産の注記、偶発債務の注記などがあります。

しかし、ぐうの音も出なくなってしまうのが、財務諸表等規則の第8条の5です。

(追加情報の追記)
この規則において特に定める注記のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない。

この暴力的な条項の後、個別に注記すべき事項が財規に並びます。最後っ屁ということで、下記に列挙しておきます。

(第8条の6)リース取引に関する注記
(第8条の6の2)金融商品に関する注記
(第8条の7)有価証券に関する注記
(第8条の8)デリバティブ取引に関する注記
(第8条の9)持分法損益等の注記
(第8条の10)関連当事者との取引に関する注記

(第8条の29)セグメント情報等の注記
(第8条の30)賃貸不動産に関する注記

すみません、途中省略しました。m(_ _)m

つまり何が言いたいかというと、財務分析を目的とする利害関係者(ステークホルダー)が財務諸表の期間比較をする際に、惑わないように、

1) 規定で定まっている注記は必ず記載する
2)経営者の判断で重要だと思ったものは追加して記載する
3)規定で容認されている範囲で記載を省略することができる

ということです。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象

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