本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど

会計(基礎編) 財務会計(入門)
この記事は約9分で読めます。

■ 『資本取引・損益取引区分の原則』の必要性

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第3回目となります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

会計全般にかかる包括的原則の中で、今回取り上げる「資本取引・損益取引区分の原則」は、P/LをP/Lたらしめく、B/SをB/Sたらしめるための原則のはずでした。概念というか基本精神としては引き継がれている(と信じたい)のですが、会計実務での取り扱いも含めて本項では解説します。

それでは、会計の基本目的のひとつである期間損益計算の前提条件となる本原則が既存の会計原則・会計規則のどの辺に立ち現れるのか、原文から見ていきましょう。

『企業会計原則』
資本取引・損益取引区分の原則

三 資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。(注2)

『企業会計原則 注解』
注2 資本取引と損益取引との区別について

(一般原則三)

(1) 資本剰余金は、資本取引から生じた剰余金であり、利益剰余金は損益取引から生じた剰余金、すなわち利益の留保額であるから、両者が混同されると、企業の財政状態及び経営成績が適正に示されないことになる。従って、例えば、新株発行による株式払込剰余金から新株発行費用を控除することは許されない。

(2) 商法上資本準備金として認められる資本剰余金は限定されている。従って、資本剰余金のうち、資本準備金及び法律で定める準備金で資本準備金に準ずるもの以外のものを計上する場合には、その他の剰余金の区分に記載されることになる。

注解(2)は旧商法の表示上の問題だったのでここではスルーします。本当は最新版に改訂して頂きたいのですが。(^^;)

しかし、注解(1)にこの原則の必要性が凝縮しています。ここは注目です。つまり、P/LをP/Lらしくするため期間損益を表示させたいために損益取引のみを計上したい。だからB/Sに期中の損益取引以外の要因で剰余金が変動する取引はすべてB/Sの方に寄せる、という趣旨なのです。

財務会計(入門編)資本と利益の区別の必要性

企業会計原則が制定されたころは、製造業やサービス業など、定常的な企業活動の会計実態を把握することは、ズバリ動態的会計論による期間損益を把握することを意味していた時代の産物でもあるのでした。期間損益がどれくらいかを財務諸表(P/L、B/S)で表示するのは、企業を取り巻く利害関係者(ステークホルダー)へ企業の財政状態と経営業績を表示するためです。

資本取引は、直接的に株主との間に発生する資本金と資本剰余金が増減する取引であり、株主からの払い込み(会社法445条)、減資(会社法447条)、および組織変更・合併・会社分割・株式交換・株式移転がその代表例となります。資本取引は、企業活動を継続していく原資として企業内に資本を確保しておく「維持拘束性」が求められます。

損益取引は、利益剰余金が増減する取引であり、いつかは、株主に対して利益処分という形で分配されることが期待されているもので、(利益)剰余金の配当(会社法453条)がその代表例となります。損益取引は、株主に対する出資に対する見返りとしての利益の分配であるため、「処分可能性」が求められます。

 

■ 取引区分の方法には表裏一体の2種類あり

損益取引を、利益剰余金の増減取引と定義するのは、期首B/Sと期末B/Sの残高の増減で、資本取引も損益取引も表すことができるからです。P/Lは、期中の利益剰余金の増減理由となる会計取引の明細情報を表すからです。P/L上で当期純利益が計上されればその分、利益剰余金が増加しますし、逆に当期純損失が計上されればその分、利益剰余金は減少する仕組みだからです。

⇒「損益取引と資本取引の区別
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環

財務会計(入門編)二つの資本・損益区分

(1)資本取引・損益取引区分の原則
継続企業として株主に対して維持すべき「資本」は「期首株主資本」であり、これを運用することで得られる期間損益は、期末株主資本から期首株主資本を差し引いた差分概念、言い換えると、期首株主資本の増殖分を利益とすることで、期間損益の額を確定するための考え方です。

(2)資本剰余金・利益剰余金区分の原則
株主資本内部における構成区分の峻別・維持を行うために、資本金、資本剰余金、利益剰余金のそれぞれを、取引の源泉、発生の理由の別にきちんと区分けしましょうという考え方です。資本金は法定の株主拠出分であり、資本剰余金もそれに準じる拠出資本を構成します。一方で、利益剰余金は、期中における企業活動という拠出資本(期首株主資本)を運用した結果、得られる付加資本と考えます。

期間損益を求めるための計算目的から両者を峻別するか、債権者の担保請求額(裏返すと株主に対する利益処分額の正当性)の証明と株主持分の明確化を、財務諸表の表記上で正確に表現しておこうとする考え方の2つからなります。初学者は、目的から入るか、形式から入るかの違い、としてとらえておけば分かりやすいかもしれません。

 

■ 取引源泉からの区分と現在の制度会計上の純資産の表記の関係

まずは、理論的な解説から。

財務会計(入門編)純資産の増減となる取引の区分

資本取引は、損益取引以外の一切を含めるという消極的定義方法、増資・減資・合併取引などという例示方法で説明されることが多く、まったくもって「ぬえ」のような存在です。企業会計原則では、利益準備金の資本組み入れ取引が認められていましたが、企業会計基準では禁止されています。また、剰余金の配当・処分取引は、利益剰余金の額を変動させるものですが、いったん株主資本を構成した後の取引であるため、資本取引とみなされています。

損益取引は、純資産の増減をもたらす取引のうち、資本取引と剰余金処分取引以外の、期間損益取引を構成する、収益取引、費用取引、利益取引、損失取引からなります。簡単に言うと、損益計算書(P/L)における当期純利益を計算するための取引すべてを含むと理解するのが簡単です。

次は、会計実務面からの解説。

財務会計(入門編)連結貸借対照表の純資産の部

結論から言うと、会計実務の世界では、なし崩し的にその区別が曖昧になっています。

(1)資本金
会社法445条1項により、資本金は1円でも会社設立が可能になっており、資本の「維持拘束性」の縛りが無くなりました。その一方で、会社が剰余金の配当を行うにあたって、純資産が300万円を下回ってはいけないと会社法458条で定められていますので、間接的にこの金額が最低資本金として、実質的に維持拘束されるべき金額とみなすことができます。

(2)自己株式
自己株式を取得することは、実質的な減資です。資本の維持拘束性を担保するためには、自己株式の取得は消極的であらねばならないのですが、次項で説明する財源規制を守っていれば、自由にこれを行うことができます。その財源も利益剰余金でも大丈夫なのです。また、いったん取得した自己株式は金庫株として長期保有することも可能ですので、その点でも資本の維持拘束性はないがしろになっています。

(3)自己株式取得と配当の原資
旧商法では利益配当は厳格に配当可能限度額が定められていましたが、現会社法では、剰余金の配当という位置づけ(会社法461条)になり、資本剰余金も原資とすることが認められました。これまでは、損益計算書における当期純利益からの配当でしたが、貸借対照表からの配当となりました。これは、期末および中間配当、資本金・準備金の減少、自己株式の取得まで、包括的に株式資本に対する払い出しの財源規制をかけたものになったからです。

(4)その他の包括利益累計額
これは、資産や負債を時価(公正価値)評価した際のいわゆる「含み損益」であり、貨幣価値の変動に基づく評価損益という位置づけです。従来の収益費用アプローチから資産負債アプローチに移行する中で、損益計算書を経由しないで、直接的に貸借対照表に計上される株主資本の変動額です。本来的には「損益取引」としたいところなのですが。

(5)新株予約権
将来、株主になり得る人々との直接的な取引(すでに金品またはそれに準じる価値は受領済み)を計上したものです。新株予約権が権利行使された場合は、晴れて資本取引となりますが、権利行使されない場合は、損益取引となります。だって、株主様にならない、ということだから。

(6)少数株主持分
親会社説では、少数株主持分は親会社には帰属しないものなので、株主資本には含めません。しかし、返済義務がある負債でもないため、現在は純資産の部に含めて記載されるようになりました。少数株主とはいえ、株主との取引なので、資本取引として認めたいところではあります。

(7)非支配株主持分
経済的単一体説では、少数株主持分をこう呼称します。非支配の株主からの出資分も、その子会社が存続する限りにおいて払い戻す必要はないので、資本取引とみなすことができます。

歌は世につれ世は歌につれ。

何が資本取引で何が損益取引か。時代の要請により変わっていくこと自体は何ら問題ないのですが、定義や区分が曖昧なまま、実務運用だけが進んでいく現状、日本基準とIFRSの大きな隔たりが現存する状況は、会計学習者および頭の固い頑固おやじ(筆者のことです)には簡単には受け入れることができず、しばらく、じりじりとする時間が続きそうです。(^^;)

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)_企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど

コメント