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企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 「継続性の原則」が適用されるのはどういうケースなのか?

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第8回目となります。今回は、「継続性の原則」の後編になります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

「継続性の原則」は、会計方針、会計処理の原則、採用した基準及び手続き等について、いったん採用したものを原則として毎期継続適用することを指示した原則でした。その目的は、期間比較性にもとづく時系列分析や成長性分析など、財務分析データを有意なものとする目的と、経営者の恣意的な会計操作を許さずに信頼性の高い財務諸表を開示することを目的からなります。

そこで、この本来的な目的が達成されるのならば、便宜的に会計方針や表示方法を変えてもいいのか、その目的死守のためにも、絶対に会計方針や表示方法を変えてはいけないのか、会計初学者から熟練者まで、広く議論がなされてきました。

『企業会計原則』
継続性の原則

五 企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。(注1-2) (注3)

この「みだりに」という言葉の意味の解釈が分かれるところです。
しかし、落ち着いて考えれば、孔子が論語で諭されているように、事の真偽は、

過ちを改むるに憚ること勿れ

ということらしいです。(^^)

下記にて、棚卸資産評価方法について、妥当だとされる「先入先出法」「総平均法」、不当だとされる「後入先出法」「最終仕入原価法」の4つを題材に説明します。

財務会計(入門編)不当な会計処理と妥当な会計処理の変更

ちなみに、IFRSでは「後入先出法」は禁止されましたので、日本の会計基準もコンバージェンスによってこれを全面的に廃止しました。「最終仕入原価法」は、中小企業の事務負担を考慮して、法人税法(法人税法施行令31条1項)にのみ存在が許されている方法ですが、上場企業では採用不可です。

このチャートからお分かりの通り、「妥当な会計処理」から別の「妥当な会計処理」への手続きのみのが、本原則のターゲットとなります。「不当な会計処理」の問題はそれ以前の問題で、直ちに是正されなければなりません。その是正方法については、別稿で触れる予定です。

 

■ 「継続性の原則」により、絶対に会計処理を変えることはできないのか?

「みだりに」という日本語はどう解釈すればよいのでしょうか? どれくらいから「みだり」の判定が下るのでしょうか? この文言は『企業会計原則注解』でさらに補強されています。

注3 継続性の原則について

(一般原則五)

従って、いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない。

すなわち、「正当な理由」があれば変更が許される、ということになり、正当な理由があれば「みだり」判定は下りない模様。では、「正当な理由」を考えることにしましょう。

論理的には、この「継続性の原則」は、利害関係者(ステークホルダー)に信頼性が高く、期間比較可能な財務諸表を見てもらうためのものです。そこで、「正当な理由」とは、原則として、変更しなければ、かえって真実な報告を妨げるような企業内外の条件の変化を受けたものである、と理解されています。

具体的には、下記チャートで3種類に大別してみました。

財務会計(入門編)変更が認められる正当な理由

ただし、細目については個別の規定の確認が必要になります。例えば、法人税法では、棚卸資産の評価方法は3年間、変更できない(法税通達5-2-13)とあります。上図は、大凡の基本的な考え方であり、実務的には個別の規定を斟酌しなければならないことを忘れないようにしてください。

 

■ 会計方針の変更などの表記について

この章はいかにも制度会計らしく、規定に沿った説明になります。

『企業会計原則注解』
注3 継続性の原則について

なお、正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。

まず、注解では、会計処理の原則や手続きの変更があったら、それを注記で補足することになっています。

『財務諸表等規則』(抄録)
第8条の3
会計基準その他の規則の改正及び廃止並びに新たな会計基準等の作成に伴い会計方針の変更が行った場合には、次に掲げる事項を注記しなければならない。

一 当該会計基準等の名称
二 当該会計方針の変更の内容
三 財務諸表の主な科目に対する前事業年度における影響額
四 前事業年度に係る1株当たり情報に対する影響額
五 前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額

ここでは、後から触れる過年度遡及修正に関連するもの以外を規定しています。

『会社計算規則』(抄録)
(注記表の区分)
第98条
注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
三 会計方針の変更に関する注記
四 表示方法の変更に関する注記
五 会計上の見積りの変更に関する注記
六 誤謬の訂正に関する注記

最後の最後に「誤謬」という言葉がありました。「財務諸表等規則」でも、過年度修正に関する箇所は触れておりません。次章でまとめて説明します。

現在、会計を学習している人たちに言っても詮無いことですが、その昔、まだ会社法が商法と呼ばれていた時代、一般的に公正妥当と認められた処理原則であればたとえその内容が何であっても、違法配当の問題さえクリアしていれば、変更の理由は問わない、というのが会社法(旧商法)の見解でした。しかし、平成17年の会社法制定から、一国の会計基準はひとつであるべき、という見解になり、現在、金融商品取引法に基づく財務諸表等規則と、会社法に基づく会社計算規則とはほぼ同一の内容になって現在に至るという歴史だけ頭の片隅にでも置いておいてください。

 

■ 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の規定を確認する

平成21年に「企業会計基準第24号 会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が定められました。そのエッセンスを「継続性の原則」と関連する部分だけここではご説明します。

まず遡及修正の対象候補となる概念を整理します。

① 会計方針
財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続き

② 表示方法
財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記、科目分類、科目配列、報告様式)

③ 会計上の見積り
資産・負債・収益・費用等の額に不確実性がある場合、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること

④ 誤謬
原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことや誤用したことによる次のような誤り
・財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
・事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
・会計方針の適用の誤りまたは表示方法の誤り

この中で、「会計上の変更」にあたるのは、① 会計方針、② 表示方法、③ 会計上の見積りであって、誤謬の訂正は、会計上の変更には含めません。①と②は公正妥当な方法や表示を別の公正妥当な方法や表示に変えることで、③については、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することを意味します。

これをまとめます。

① 遡及適用
新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理する

② 財務諸表の組み替え
新たな表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更する

③ 修正再表示
過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映する

そして、会計上の変更の仕方には、大別して3つの考え方があります。

(1)レトロスペクティブ・アプローチ
遡及処理、すなわち新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することで、損益の影響額は繰越利益剰余金を増減させます。

(2)プロスペクティブ・アプローチ
当該変更の影響は当期以降で吸収する方法をいいます。例えば、有形固定資産の減価償却方法は、その変更について会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが難しいため、会計上の見積りの変更と同様に、遡及修正をしないことが許されています。

(3)キャッチアップ・アプローチ
従来の企業会計原則注解・注12では、誤謬の訂正(過去の修正)に関する数値は、損益計算書の特別利益または特別損失に計上することとなっていました。

企業会計原則 注解
注12 特別損益項目について

(損益計算書原則六)

特別損益に属する項目としては、次のようなものがある。

(1) 臨時損益
イ 固定資産売却損益
ロ 転売以外の目的で取得した有価証券の売却損益
ハ 災害による損失
(2) 前期損益修正
イ 過年度における引当金の過不足修正額
ロ 過年度における減価償却の過不足修正額
ハ 過年度におけるたな卸資産評価の訂正額
ニ 過年度償却済債権の取立額
なお、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。

上記の(2)前期損益修正は事実上廃止となり、(1)臨時損益のみとなりました。

これを、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準55項では次のように扱うようになりました。

① 引当金の過不足が計上時の見積り誤りに起因する場合は、過去の誤謬の該当するため、修正再表示を行う

② 過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合は、実績が確定した時の見積金額との差額は、実績が確定した期に、営業損益や営業外損益として認識する

最後っ屁としておまけ。過年度修正の対象となる財務諸表は「金融商品取引法」に基づく財務諸表と、「会社法」に基づく計算書類だけで、法人税法は関知しません。詳細は、別途ご説明する予定です。今日はここまで。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する

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