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企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 『明瞭性の原則』の必要性

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第4回目となります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

会計全般にかかる包括的原則の中で、今回取り上げる「明瞭性の原則」は、財務諸表の表示方法に関する包括的な原則です。明瞭な財務諸表の表示とは、会計情報利用者である利害関係者(ステークホルダー)の意思決定にとってできるだけ有用な表示であり、具体的には企業の収益性や安全性の判断に有効な表示であることを意味します。

一般的に利害関係者というと、現在株主、将来株主、債権者の3者がメインプレイヤーと解されています。前2者をまとめて投資家と呼ぶと便利です。ちなみにIFRSでは「一般目的の財務報告の主たる利用者」と表現しています。

この利害関係者には、通常は経営者を含みません。なぜなら、経営者は経営管理・企業戦略策定に必要な会計情報はすべて社内で入手可能であり、わざわざ外部へのディスクロージャー制度に頼る必要がないからです。しかし、組織の上の職位になればなるほど、Bad news になればなるほど耳に入りにくくなることが多いので、ディスクロージャーやプレスリリースで社内の重大事項を初めて知った、という笑い話があるとかないとか。(^^)

「明瞭性の原則」を理解する上での大前提を3つにまとめました。

(1)
企業業績および財政状態を「財務諸表」という形式で利害関係者に対して情報公開されるためのルール(ディスクロージャー制度の裏付け)

(2)
利害関係者が「財務諸表」を通じて、企業業績および財政状態に関する判断を誤らせないように、必要な事項が漏れなくダブりなく開示されていることを要請するルール

(3)
適切なルールと経営者の判断に基づき「財務諸表」(が具体的にどの範囲かの議論はあるものの)が利害関係者に外部開示されるもので、その範疇に入らない企業秘密までも開示することは要請されていない

 

■ 『明瞭性の原則』の位置づけ

それでは、会計の基本目的のひとつであるディスクロージャー制度の前提条件となる本原則が既存の会計原則・会計規則のどの辺に立ち現れるのか、原文から見ていきましょう。

『企業会計原則』
明瞭性の原則

四 企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。(注1) (注1-2) (注1-3) (注1-4)

 

『財務諸表等規則』
第5条 法の規定により提出される財務諸表の用語、様式及び作成方法は、次に掲げる基準に適合したものでなければならない。

二 財務諸表提出会社の利害関係人に対して、その財政、経営及びキャッシュフローの状況に関する判断を誤らせないために必要な会計事実を明瞭に表示すること。

ここでは、企業会計原則注解について、補足説明をしていきたいと思います。

注1 重要性の原則の適用について

(一般原則二、四及び貸借対照表原則一)

企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。

つまり、ステークホルダーが真に企業業績と財政状態(+キャッシュフロー状況)を把握するために、枝葉末節の表示があるとかえって誤解が生じる恐れがある場合は、これを省略した方がいいこともある、といっているのです。

注1-2 重要な会計方針の開示について

(一般原則四及び五)

財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。

会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。

会計方針の注記は、財務諸表に計上されている勘定科目の価額の意味を理解するうえで不可欠な補足情報です。その例示や詳細な表示ルールは別稿で説明します。

注1-3 重要な後発事象の開示について

(一般原則四)

財務諸表には、損益計算書及び貸借対照表を作成する日までに発生した重要な後発事象を注記しなければならない。

後発事象とは、貸借対照表日後に発生した事象で、次期以後の財政状態及び経営成績に影響を及ぼすものをいう。

何が重要な後発事象かについて興味深い考察は別稿で説明します。ここでは、いったん表示された財務諸表を読み下すときに、財務諸表を作成時点では判明していなかった事項で、開示してしまった財務諸表を正しく理解するために考慮すべき事項の説明も加えて情報開示する必要がある、とご理解ください。

注1-4 注記事項の記載方法について

(一般原則四)

重要な会計方針に係る注記事項は、損益計算書及び貸借対照表の次にまとめて記載する。

なお、その他の注記事項についても、重要な会計方針の注記の次に記載することができる。

この注解は、形式的に、注記をどこに記載するかというルールを定めたものです。規則通りに財務諸表を作成する担当者はこれを順守しなければなりませんが、財務諸表を読む立場の人は、財務諸表の後にまとめて注記が記載されているという順番だけ覚えておけば問題ありません。

 

■ ディスクロージャーの拡充のために

「明瞭性の原則」は、利害関係者(ステークホルダー)が財務諸表を理解するために存在しています。財務諸表を外部に開示するという行為は、ディスクロージャー制度に則って行われています。

財務会計(入門編)明瞭性の原則から見たディスクロージャー制度

直接的には財務諸表作成にあたっての記載方法に関する原則のため、明瞭な記載を要求するものですが、広義にはディスクロージャー制度の拡充をも要請するものと考えることもできます。ディスクロージャー制度の拡充のために、①会計単位(報告単位)、②報告時期、③開示形式(財務諸表の体系含む)を考慮する必要があります。

金融商品取引法、会社法、法人税法をはじめとする制度会計ルールから強制適用されるものから、経営者と利害関係者の間で必要と認められた開示情報までの一切を含む基本的な概念です。そこで各種IR・SR開示資料、アニュアルレポートや、はたまた統合報告書の会計情報部分においても、この原則に準拠することが望ましいと考えられています。

 

■ 『明瞭性の原則』に基づく明瞭表示の構成とは

利害関係者が財務諸表を読む際に分かりやすく、というこの原則の主旨にしたがえば、財務諸表で明瞭表示するべき事項は、利害関係者が経営分析(財務分析)の対象とする企業の収益性や安全性などを概括することで、商取引や出資、融資といった企業を取り巻くビジネス関係において有益な意思決定をするために有効な表示になっている必要があります。

財務会計(入門編)明瞭表示の構成

① 科目設定
勘定科目が企業全体の様子も窺え、かつ詳細にも分かるように設定されている必要があります。通常は、勘定科目体系が親子関係を有する階層化されている根拠がこれです。

② 科目表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「区分表示の原則」の項目で詳細に定義されています。

③ 金額表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「総額主義の原則」の項目で詳細に定義されています。

④ 計上科目
「注1-2 重要な会計方針の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑤ 科目以外
「注1-3 重要な後発事象の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑥ その他の重要項目
「財務諸表等規則 第121条」では、附属明細表として次の6つが定義されています。

一 有価証券明細表
二 有形固定資産等明細表
三 社債明細表
四 借入金等明細表
五 引当金明細表
六 資産除去債務明細表

「会社計算規則 第117条」では、附属明細書として次の4つが定義されています。

一 有形固定資産及び無形固定資産の明細
二 引当金の明細
三 販売費及び一般管理費の明細
四 第112条第1項ただし書きの規定により省略した事項(関連当事者との取引に関する注記の一部)

次回は、「明瞭表示の構成」の内容をもう少し詳しくみていきましょう。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則

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