企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則

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■ 「明瞭表示の構成」を明瞭に解説してみる

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第5回目となります。今回は、「明瞭性の原則」の中編になります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

「明瞭性の原則」は、財務諸表の表示方法に関する包括的な原則です。明瞭な財務諸表の表示とは、会計情報利用者である利害関係者(ステークホルダー)の意思決定にとってできるだけ有用な表示であり、具体的には企業の収益性や安全性の判断に有効な表示であることを意味します。

前回提示した「明瞭表示の構成」をチャート化したものを下記に再掲します。

財務会計(入門編)明瞭表示の構成

① 科目設定
勘定科目が企業全体の様子も窺え、かつ詳細にも分かるように設定されている必要があります。通常は、勘定科目体系が親子関係を有する階層化されている根拠がこれです。

② 科目表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「区分表示の原則」の項目で詳細に定義されています。

③ 金額表示
損益計算書原則および、貸借対照表原則のそれぞれに「総額主義の原則」の項目で詳細に定義されています。

④ 計上科目
「注1-2 重要な会計方針の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑤ 科目以外
「注1-3 重要な後発事象の開示」として記載内容と記載方法が定義されています。

⑥ その他の重要項目
「財務諸表等規則 第121条」では、付属明細表として次の6つが定義されています。
一 有価証券明細表
二 有形固定資産等明細表
三 社債明細表
四 借入金等明細表
五 引当金明細表
六 資産除去債務明細表

「会社計算規則 第117条」では、附属明細書として次の4つが定義されています。
一 有形固定資産及び無形固定資産の明細
二 引当金の明細
三 販売費及び一般管理費の明細
四 第112条第1項ただし書きの規定により省略した事項(関連当事者との取引に関する注記の一部)

 

■ 勘定科目の概観性とは

複式簿記上の勘定科目の設定が有する特徴には2つあります。

① 概観性
② 細目性

簿記は財務諸表のための作成元資料であるだけでなく、もともと財産管理の機能から出発したものです。静態論的会計においては、財産目録が大事で、昨年と今年の財産目録の差分から今年度の儲けはいくらかを計算したという会計の歴史的経緯から、優秀な財産管理機能が複式簿記に組み込まれているのは頷けると思います。

⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?

それゆえ、売上債権勘定についてみたときに、売掛金勘定だけでは得意先別の債権管理ができないため、必然的に人名勘定としての得意先元帳を作成して、売掛金勘定を細かく得意先ごとに管理することが可能になります。これが、企業全体の売上債権がいくらかが一目でわかる売掛金勘定と、その売掛金勘定の細目管理のための補助元帳のひとつである得意先元帳の使い分けで、細かい管理単位での債権管理を可能にするわけです。これは、商品有高帳、当座預金出納帳など、補助元帳の起源が、財産管理機能の発露であるということを示している好例です。

① 概観性
・財務諸表上の設定原理から
・財務諸表による経営内容の一覧把握の必要性から発達したもの

② 細目性
・複式簿記上の設定原理から
・そもそも静態論的会計の時代から、財産管理目的で発達したもの

それゆえ、一般株主が、補助元帳をディスクロージャー制度に基づき、外部開示されても、そのデータを有効に財務分析(経営分析)に活用できないのは当たり前ですし、財務諸表の記載ある売上債権項目を用いて、売上債権回収期間などを計算して、経営分析に活かすのも当たり前なのです。

ちなみに、会計帳簿閲覧権限は、「総株主の議決権の百分の三以上の議決権を有する株主又は発行済株式の百分の三以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる」(会社法433条)として、株主の当然の権利となっています。これは、財務分析目的というより、財産保全のための不正検出が目的の閲覧請求権であると一般的には解されています。

 

■ 「区分表示の原則」とは

損益計算書(P/L)の区分表示は、損益の発生源泉を明示するために不可欠の表示方法です。企業の経営成績を的確に判断するためには、利益の大きさだけではなく、どのような取引を源泉とする利益なのか、その構成内容の把握が有益な情報となるからです。

財務会計(入門編)損益計算書(包括利益計算書)の区分表示

従来は当期純利益までの表示でしたが、B/Sの純資産の変動も明瞭に表示するために包括利益の計算・開示が義務付けられました。当期純利益までを表示するP/Lと包括利益計算書を別々の形式で開示する「2計算書方式」と1つの計算書で開示する「1計算書方式」の二つ並存が許されているのが現状です。

貸借対照表(B/S)の区分表示は、企業の財政状態の把握、財務安全性の判断にとって不可欠の表示方法です。資産および負債を流動・固定で区分表示するのは、企業の財務安全性の判断に資する情報を提供することを目的としています。それゆえ、財産価値の認められない繰延資産を別区分としているのです。

財務会計(入門編)貸借対照表の区分表示

 

■ 「総額表示の原則」とは

損益計算書の総額表示(総額主義)の原則は、損益取引の規模を明示するために不可欠の表示方法です。収益項目と費用項目とを相殺消去せずに、取引価額のまま表示することが要請されています。企業の経営成績を判断する場合、取引源泉の明確化とともに取引規模の明示も非常に大切だからです。企業が直面する市場規模と成長性を知るには、市場との取引金額規模がいくらかを知ることが重要な手がかりとなるからです。

財務会計(入門編)損益計算書における総額表示の原則

この総額主義については、IFRS導入やコンバージェンスにおいて、若干の見直しが入っています。

⇒「売上高新基準、18年適用可 企業会計基準委が公開草案 百貨店などは目減りも – IFRSへのコンバージェンス強化
⇒「花王、売上高認識の新会計基準 今期から1年前倒し適用 - 「IFRS(国際会計基準)第15号 顧客との契約から生じる収益」の復習を兼ねて
⇒「会計基準委「売上高計上」への意見公募 18年から新基準導入へ 取引内容ごとの影響例公表

貸借対照表の総額表示(総額主義)の原則は、財政規模を明示するために不可欠の表示方法です。資産項目と負債・純資産項目を相殺消去せずに、総額のままで表示することが要請されています。企業の財務安全性を判断する場合、財務流動性とともに財政規模の明示も非常に大切だからです。換金可能な財産がいくらで、社外からの借り入れが総額でいくらになるのか、金額規模が大事な局面があるからです。

財務会計(入門編)貸借対照表における総額表示の原則

これら、「区分表示の原則」と「総額表示(総額主義)の原則」、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の明瞭表示の関係性をまとめたのが下図になります。

財務会計(入門編)区分表示と総額表示の相関関係

財務分析(経営分析)を行い、投資や融資の実行を判断したり、安全な取引先として判断したりするには、分かりやすい財務諸表になっている必要があります。その分かりやすさを担保するのが、「区分表示」と「総額表示」なのです。

次回は、明瞭性の原則の大トリを「注記」に担ってもらう予定です。たかが「注記」、されど「注記」。思わぬ落とし穴があったりして。。。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則

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