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企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 「継続性の原則」はステークホルダーに分かりやすく財務諸表を分析してもらうため

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第7回目となります。今回は、「継続性の原則」の前編になります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

「継続性の原則」は、会計方針、会計処理の原則、採用した基準及び手続き等について、いったん採用したものを原則として毎期継続適用することを指示した原則となります。実際にどのような規定になっているのか、原文を以下に示します。

『企業会計原則』
継続性の原則

五 企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。(注1-2) (注3)

 

『企業会計原則注解』
注3 継続性の原則について

(一般原則五)

企業会計上継続性が問題とされるのは、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の原則又は手続の選択適用が認められている場合である。

このような場合に、企業が選択した会計処理の原則及び手続を毎期継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる利益額が算出されることになり、財務諸表の期間比較を困難ならしめ、この結果、企業の財務内容に関する利害関係者の判断を誤らしめることになる。

従って、いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない。

なお、正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。

一般原則の体系の中で、「継続性の原則」は表示方法という形式面ではなくて、会計処理という実質面における規定といったんは位置付けられていますが、その内容には表示方法を含むとされる広義説が一般的です。前回まで議論した「明瞭性の原則」とペアになって、財務諸表を利用するステークホルダーの意思決定に有用な情報提供を行うためという大目的に沿った規定になっているのです。

 

■ 「継続性の原則」でわざわざ継続性を強調する必要性はどこから生まれるのか?

わざわざ、「継続性の原則」で会計処理や採用する会計基準や手続きの継続的な適用を訴える必要があるということは、裏返すと、企業側が財務諸表を作成する際に、複数の会計処理や会計基準、会計処理を自由に選択できる余地があるからです。一般に公正妥当と認められる会計原則(GAAP)の範疇において、原則が示す複数の方法にはどれといって優劣の順序はなく、どの方法を採用するかについて、企業の自主的判断に委ねられていることを、「経理自由の原則」といいます。

ではなぜ、複数の会計処理や手続きがいずれも正当なものであると認められているのでしょうか?

(1)企業の多様性に基づく適用条件の相違
企業の業種、規模、組織形態、経営方針などは多種多様であり、各社の経営環境に最適の処理方法をおおらかに容認した方が、むしろその企業の会計状態を適正に外部開示することに貢献すると考えられるからです。これは、同一の会計事実であっても、適用条件が異なれば、それぞれの条件に適合した会計処理を行うということです。

例えば、収益認識として、出荷基準や回収基準を選択適用できることを指します。

(2)仮定計算の必然に基づく適用方法の特性
決算行為というものは、継続企業(ゴーイングコンサーン)を前提とする企業活動を無理やり1年(あるいは四半期)という時間的区切りを設けて、企業業績と財政状態およびキャッシュフローを外部に開示することを要請するものです。そのため、そもそも決算処理自体が何らかの仮定計算に基づき行われるものでありますし、厳密な会計処理を行うと、事務作業量が膨大になり、一般的に許容されるレベルの簡便な計算方法を認めないと、実務的に決算処理が法定の納期までに終わらない事態も想定されるからです。

例えば、仮定計算の代表例が減価償却計算で、定額法、定率法、級数法、生産高比例法の中から選択することになります。簡便処理を含む選択適用の代表例が棚卸資産の原価配分で、個別法、先入先出法、平均原価法、売価還元法、最終仕入原価法の中から選択することになります。

下記は、このような会計処理に際しての選択を容認されるケースを分類したチャートになります。

財務会計(入門編)経理自由の原則で認められる選択

 

■ 「継続性の原則」という規定の存在の必要性はどこから生まれるのか?

企業会計原則注解の第2パラグラフに「財務諸表の期間比較を困難ならしめ、この結果、企業の財務内容に関する利害関係者の判断を誤らしめる」とあることから、継続性の原則は財務諸表の利用者であるステークホルダーの意思決定を誤らせることが無いように次の2点に留意するために設定されたものです。

(1)財務諸表の期間比較性を確保する
財務分析の中には、企業間の比較の他に、同一企業の「期間比較」も含みます。そうした財務分析(中でもトレンド分析、時系列分析)を有効なものにするためには、経営成績、財政状態、キャッシュフロー状態の動向を把握する必要があります。動向把握のために期間比較性の確保が重要になり、会計数値の比較可能性は、会計数値の算出方法の同一性が担保されている必要があります。それゆえ、処理方法の継続適用が要請されるのです。

(2)財務諸表から利益操作を排除する
そもそも、財務分析の対象となる財務諸表が信頼の置ける会計数値から成り立っている必要があります。信頼性の高い会計数値であるためには、会計処理過程における恣意性の排除が不可欠です。利益計画の未達を糊塗する益出しのために、減価償却方法を定率法から定額法へ、棚卸資産評価方法を先入先出法から総平均法へ、みだりに毎期毎期の決算状況を見てから経営者の判断で意図的に変えていいとなれば、財務諸表の信頼性が損なわれることになるのです。

これらの点については、「真実性の原則」の中で触れた「相対的真実」と強く結びついています。

財務会計(入門編)_相対的な真実

(参考)
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは

「真実性の原則」で求められる「真実な報告」と「継続性の原則」の関係をチャート化してみました。

財務会計(入門編)「真実性の原則」と「継続性の原則」

これから分かるように、「継続性の原則」は、「真実性の原則」で触れられているように、複数の会計処理・表示方法から、経理自由の原則にしたがって、経営者が選択適用できるものを、できるだけ継続的に採用することで、財務諸表の期間比較可能性と信頼性を担保する約束事である、という明快なコンセプトが浮かび上がるのです。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象

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