企業会計原則(1)真実性の原則とは

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■ 『企業会計原則』の重要性はまだまだ捨てたもんじゃない!

会計(基礎編)

今回から、『企業会計原則』の内容を学習していきたいと思います。会計学、制度会計を少々でも学習した人の中には、現在は『財務会計の概念フレームワーク』を先に学ぶ方が会計学の王道であると考える方もいらっしゃると思いますが、最終改訂1982年から現在に至るまで永続しているものであり、未だに「一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)」の最右翼を占める存在であるからです。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

会計全般にかかる包括的原則の中でも、今回取り上げる「真実性の原則」は最上位に位置する会計概念です。

それでは、その最上位性が既存の会計原則・会計規則のどの辺に立ち現れるのか、原文から見ていきましょう。

『企業会計原則』
一 企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

『財務諸表等規則』
5条 法の規定により提出される財務諸表の用語、様式及び作成方法は、次に掲げる基準に適合したものでなければならない。

一 財務諸表提出会社(法の規定により財務諸表を提出すべき会社、指定法人及び組合をいう。以下同じ。)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する真実な内容を表示すること。

『連結財務諸表規則』
第4条 法の規定により提出される連結財務諸表の用語、様式及び作成方法は、次に掲げる基準に適合したものでなければならない。

一 企業集団(連結財務諸表提出会社及びその子会社をいう。以下同じ。)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する真実な内容を表示すること。

■ 『真実性の原則』が対象にしているものは何か?

金融商品取引法が規定する「財務諸表」「連結財務諸表」にて、「真実な内容」の報告がなされなくてはいけないということが分かりました。何に対して真実であるべきか、2つの切り口で対象を説明したいと思います。

まずは、広く一般的に考えられている会計行為全般について。
会計行為は、「計上」と「表示」に大別され、前者はさらに「認識」と「測定」、後者は「記録」と「(狭義の)表示」に細分化されます。上記に挙げた条文にて、「用語」「様式」が「表示」に、「作成方法」が「計上」に当たると考えられています。

財務会計(入門編)_会計原則と会計行為の関係

次に、財務諸表の種類について。
「財政状態」は「貸借対照表(B/S)」
「経営成績」は「損益計算書(P/L)」
「キャッシュ・フロー」は「キャッシュフロー計算書(C/S)」
に該当します。『企業会計原則』の条文の中に「キャッシュ・フロー」の語が無いのは、制定当時、まだ「キャッシュフロー計算書」が正式な財務諸表として導入されていなかったからです。では、「株主資本等変動計算書(S/S)」の表示が見当たらないのでは? という疑念が持ち上がってくるかもしれません。S/SはB/Sの特定の科目の前期比較としての変動を表したもので、ここではB/Sの一部として考えて頂いても特に本論に支障はありません。

■ 『相対的真実』の真実に迫ってみる!

「真実な報告」という文言は、会計では「相対的な真実」を報告するものであると一般に理解されています。では、ここでの「相対性」とは一体何を指す概念なのでしょうか? 会計が報告(計上・表示)する会計数字は、無条件ではなく、ある種の条件付きで真実な数字であることを、むしろ積極的に肯定している考え方です。財務諸表を活用する利害関係者にとって、財務諸表に「嘘」の数字が表示されていると、それぞれの立場で意思決定を間違ってしまい、財務諸表の利用価値を損なってしまいます。しかし、会計人は「絶対的に真実の数字で財務諸表が作成されることはない」とある種の達観を持って会計実務に当たっているのです。したがって、それを利用する側もその旨を承知の上で財務諸表を読んでほしいのです。では、財務諸表にはでたらめな数字が載っていても構わないというのでしょうか?

財務会計(入門編)_相対的な真実

会計上の真実性とは、会計は本来的に、財務諸表に表示されている会計数字を使用して何か別の作業に活用してもらうため目的を有しているという意味で、目的適合的であることを要請されています。その目的が時と場合に応じて変化すれば、会計数字に要請される正しさ(真実性)というものも、その時々の必要性によって変化していかなければなりません。

また、会計は本来的に、規範的(ルールありき)であるというよりは、会計実務から道かれた帰納的な会計慣行に基づき各種会計処理が整備されてきた背景から、ひとつの会計処理には複数の会計手続きが用意されていることがあり、どれも正しいものとされています。しかし、その中のひとつを選ぶことで、選ばれなかったものとの間に計算結果のギャップが生じてしまいます。それゆえ、ひとつの会計方針に従った会計手続きが複数ある場合、選択的適用すれば、その間で計算結果が異なるという意味でも「相対的」な会計報告とならざるを得ないのです。

特に、「動態的会計論」といって、P/Lを中心に期間損益(例えば1年間の経営活動による利益)を計算することを、現代の会計では求められています。しかし、企業活動が1年単位で終了し、その度に会社清算して、全損益を算出するのではなく、会社はずっと存続し、企業活動も継続するのですが、期間損益(経営成績)だけ、1年とか3ヶ月に区切って計算するために、ある種の仮定を置いて期間損益を仮算出する必要があります。これが、本当の会社清算した場合に得られる会計数値と、決算という仮計算した結果得られる会計数値との間に乖離を生じさせる原因となります。これを持って、「会計は相対的に正しいと思われる期間損益しか表示できない」と半ば自虐的に自己評価しているのです。

■ ダメ押しで3つの『相対的真実』の中身をちょっと詳しく覗いてみる!

一般的な会計学の教科書では、前章までの説明で「相対的真実」を理解したことになっています。以下は少々マニアックな説明を追加しておきます。気が向いたらお読みください。(^^;)

(1)会計の目的適合性

会計情報は本来的に情報利用者に有用でなければなりません。この有用であるために不可欠な条件が目的適合性です。会計情報は、その会計情報の利用者である利害関係者が企業についてどのような興味関心があるのか、その関心の勘所にヒットする会計情報を常に提供する使命を帯びているということになります。それゆえ、会計処理の具体的方法も、決して固定的なものではなく、その時々の会計情報利用者からの要請によって発展・変化を余儀なくされます。それゆえ、時代と共に変容していく「何が会計的に正しいと言えるか」という根本的な考え方も、相対的な性格を有していると言えましょう。

財務会計(入門編)_会計の目的適合性

企業の経済的基盤が脆弱であった時代の売却時価主義に基づく静態論会計から、継続企業の公準(ゴーイングコンサーンの仮定)が現実的になった時代の取得原価主義に基づく動態論会計へのシフトがそのことの有力な証拠となります。また、現代は、事業や企業自体がM&Aという経済取引でやり取りされる商材となり得るため、企業会計への要請として、「公正価値」でいつでも企業価値(事業価値)を表示する財務諸表を作成することが求められ、いくつかの会計処理が急激に変化しているのが現在の状態です。

(2)処理基準の選択性

現行の会計制度では、企業や業種・業態の多様性などのために、同一の会計処理事実において、2つ以上の処理基準が認められているケースが多々あります。初学者向けの会計学の教科書では、この部分だけが会計の「相対的真実」として説明されがちです。

例1)棚卸資産の評価計算
・個別法
個々の取得価額を期末棚卸資産の評価額とする方法
・先入先出法
期末に最も近い時期に取得したものから順次期末の棚卸資産になるとみなして、その取得価額を評価額として計算する方法
・平均原価法
合計金額を総数で割って総平均単価を算出し、これに期末に残っている個数を掛けることで期末棚卸資産とする方法
・売価還元法
仕入、売上、残高は数量の管理を行なうだけで価格は期中は考慮せず、期末に各商品の値札から実地棚卸高を求めて、各商品グループごとの原価率を乗じて取得原価による棚卸高を逆算する方法
・最終仕入原価法 その事業年度の最後に取得したものの単価を期末棚卸資産の単価とする

例2)減価償却方法
・定額法
固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法
・定率法
固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法
・級数法
固定資産の耐用期間中、毎期一定の額を算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法
・生産高比例法
固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産又は用役の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法
・加速償却法
法人税特別措置法などに基づき、通常の減価償却費以上の超過償却を計上資産の取得価額の一定割合を乗じた金額を加算

財務会計(入門編)_処理基準の選択性

これらの会計処理の選択に際し、個々の企業や業種の客観的諸条件に応じて、最適の基準を選択適用するべきではありますが、制度的には異なった計算結果をもたらす会計処理基準を任意選択可能であるため、その条件下ではどうしても相対的な性格を持たざるを得ません。ただし、いったん選択したならば、同じく一般原則にある「継続性の原則」にしたがって、みだりに変更しないことを制約として選択的適用が認められます。

しかしながら、会計実務では、決算対策として、この選択的適用が許されていることを逆手に取り、赤字の恐れのある場合は増益方向へ、黒字が出過ぎて課税所得を抑制したい場合は減益方向へ、採用する会計基準を変更するケースがあります。

(3)見込計算の介入

現行の会計報告は、継続企業の期間損益計算として行われています。たとえそれが、日本基準のP/L中心主義であっても、IFRSのB/S中心主義であっても、会計的利益モデルでの財務諸表の公表となっています。このことは、半永久的に継続している企業活動を人為的に会計期間に区切り、いわゆる決算処理によって期間損益を求めることになるため、当然に未確定の経済事象が期間損益計算に含まれることを受け入れなければなりません。

財務会計(入門編)_見込計算の不可避性

見込計算は事実が確定した段階で誤差を修正することが一般視されているので、前期損益修正項目の計上が認められています。減損損失の兆候があるかどうか(減損テスト)、税効果会計で繰延税金資産(負債)の計上、資産除去債務の計上、退職給付関連の資産負債計上など、見込計算なしでは、現代の財務諸表を作成することは困難なのです。

以上により、どんなに澄ました会計人であっても、「絶対に正しい会計数値で財務諸表を開示している」とは決して口に出さないはず。もしそういうことを口にする会計人は、どんな立派な肩書や資格を持っていても、本質的に偽物の烙印を押してあげてもいいと思います。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生

財務会計(入門編)_企業会計原則(1)真実性の原則

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