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企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 『正規の簿記の原則』- 天網恢恢疎にして漏らさず

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第2回目となります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

会計全般にかかる包括的原則の中で、今回取り上げる「正規の簿記の原則」は会計行為を正しく記録・表示することに心を砕いた項目になります。規範的なルールを示したのが『真実性の原則』ならば、こちらは形式的な規範を示すものです。

それでは、その形式的な真実性を追い求める概念が既存の会計原則・会計規則のどの辺に立ち現れるのか、原文から見ていきましょう。

『企業会計原則』
二 企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な帳簿を作成しなければならない。

『会社法』
第432条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。

それでは、上記で明記されている「帳簿」「会計帳簿」は具体的には何を指しているのでしょうか。

まずは、すべての会計取引は「仕訳帳」に記録されます。それらが整理・集計されて「総勘定元帳」に記録されます。その際、後から分析したい粒度で明細情報を持たせる場合があります。その明細情報を「補助元帳」といいます。両者を合わせて「元帳」ともいいます。この「元帳」から決算整理手続きを経て、「財務諸表」を作成することになります。

財務会計(入門編)会計帳簿とは

 

■ 『正規の簿記の原則』により帳簿が備えるべき要件とは?

簿記とは、会計的取引、企業を取り巻く経済的取引だけでなく、経済価値の増減の変化をもたらすすべての事象について、会計処理の結果として記録する技術です。この記録行為において、会計帳簿に記録を残すのに、3つの条件を満たす必要があるのです。

財務会計(入門編)帳簿が具備すべき正規の簿記の3要件

(1)網羅性
帳簿には、会計事実のすべてが細大漏らさず記載されていること。どのような詳細な記録であっても、部分的な記録では財務諸表の作成資料としての適格性を欠くことになる。会計担当者にとって認知されたすべての会計的取引を漏れなく、発生順に、組織的に記録するためには、仕訳帳を用いるのが適切。すなわち、歴史的記録の保有のための会計帳簿の作成が要請される。

(2)検証可能性(立証性)
帳簿に記録された取引は、領収証や稟議書などの客観的な資料に基づいていること。正規の簿記であるためには、すべての会計取引が記録されているだけでは不十分で、記録された会計取引が現実に生じた取引であることが証明されなければならない。つまり、記録の証憑準拠性が求められる。

(3)秩序性
個々の記録(原始記録)から財務諸表の作成に至るまで、会計記録が組織的・相互関連的であること。会計取引はすべて分析可能なように勘定別に整理・集計した記録、これを分析的記録、勘定記録として、元帳を用いて記録されることが適切。

 

■ 他の規定・原則との関係性の整理

『正規の簿記の原則』は、『重要性の原則』と『B/S 完全性の原則』に密接に関連しています。

財務会計(入門編)正規の簿記の原則と重要性と誘導法

まず、すべての会計取引は、『正規の簿記の原則』により会計帳簿に細大漏らさず記録しなければなりません。これが漏れていたら、粉飾決算としての簿外資産・簿外負債ということになります。つぎに、貸借対照表原則の1、『貸借対照表完全性の原則』により、B/Sにすべての会計取引が計上されることが要請されます。

第三 貸借対照表原則

一 貸借対照表の本質

貸借対照表は、企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、株主、債権者その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならない。ただし、正規の簿記の原則に従って処理された場合に生じた簿外資産及び簿外負債は、貸借対照表の記載外におくことができる。(注1)

帳簿が具備すべき正規の簿記の3要件を満たす帳簿から、B/Sをはじめ、財務諸表を作成することを「誘導法」といいます。

⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?

誘導法で帳簿から複式簿記構造に従って作成された財務諸表ですが、そこに計上される金額は「帳簿上の価額」、略して「簿価」といいます。ただし、誘導法による簿価が正しいかどうかのチェック作業がさらに必要とされます。

まず資産の方ですが、現預金・有価証券・棚卸資産が誘導法に基づく簿価がそのまま実際の残高と常に一致しているかどうか、確認する必要があります。特に有形物である棚卸資産について、紛失・棄損・盗難・陳腐化が発生し、簿価通りの価値があるかどうか、「実地棚卸」という作業を行い、帳簿と実在の数量変動や価値変動をチェックします。

負債の方は、売掛金・買掛金・銀行借入の残高が、取引先との間で不一致となっていないか確認する「残高確認」を行います。

つまり、3つの具備要件について、資産は「検証可能性」を実地棚卸により証憑の信頼性の裏付けを行いますし、負債は「網羅性」について残高確認により裏をとるのです。

最後に『重要性の原則』。これは、貸借対照表を作成するのに、あまりに細かい会計取引は取り上げない、という意味で、金額的重要性が無いから、会計帳簿からバッサリと落としていい、という意味ではありません。例えば、実地棚卸として、貯蔵品・原材料の保管状態を見に行った時、箱や容器の封が開けられて、使用中のものであったら、いちいち資産計上せずに、期間費用に放り込んでしまう、という意味です。これにより、会計実務の大変さの緩和と、正規の簿記の原則の精神を曲げないことの折衷をしているわけです、ハイ。(^^)

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

財務会計(入門編)企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは

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